111話
街道まで出るとそこで夜が明けるのを待つ事にした。陽が昇る前に数々の疑問をオーランドに聞いてみる事にした。
「オーランドさんは吸血鬼なんですか?」
彼は静かにうなずいた。怪物と噂される吸血鬼だが、オーランドと一緒に過ごした所、変人ではあるが危険な怪物には見えなかった。もしそうであったなら、今頃ミックたち全員襲われていたはずだ。
「吸血鬼って人間の血を吸って、夜の間しか活動できないんじゃなかったのかい?」
「それは誇張された話にすぎぬ。確かに人の血を吸うがそれは人間が酒を飲むのと同じで、言わば嗜好品の様な物。そして、某はもう人の血を吸わないと決意している。人間である友との約束でな」
友とは誰の事だろう。時間だけはたっぷりある。聞きたい事を尋ねた。
「日中でもあなたは平気で活動できていたみたいだけど平気なの?」
「日中は吸血鬼の力はほぼ失われる。その間は普通の人間とほとんど変わらないが、もし日中致命傷を受けても、数時間は生存できる。その間に夜になれば傷の修復が出来るのだ」
「魔法使いギルドはあんたの事を知っていたのかい?」
「ああ、外で騎士として活動していた某の事を知ったアークメイジは、吸血鬼である事をすぐ見抜くと、生態研究と称して魔法使いギルドの護衛騎士として雇ってくれた」
やはり、魔法使いギルドのアークメイジは彼の事を知っていて、ミックたちに同行させたのだ。アンジーが不満そうに舌打ちをする。
「オーランドさんはどうして騎士になったんですか?」
ミックが聞くと、それまで淀みなく答えていたオーランドが急に悩み始めた。だが、観念したように口を開いた。
「某は本当はオーランド・マカブルではない。過去には別の名前があったが、それももう忘れてしまった。オーランド・マカブルは、某の友の名前だったのだ」
マカブル家は50年以上に没落していると聞いたが、それと関係あるのだろう。彼は語り始めた。
「数十年前、某は吸血鬼狩りでマカブル家の敷地まで逃げて来た。その時、本物のオーランド・マカブルが某を見つけ匿ってくれた。以来、その恩で人間の血を飲む事をやめる事にした」
それが本物のオーランド・マカブルとの出会いであった。そこで、彼は人間に助けられ血を吸う事をやめたという。しかし、この時マカブル家は既に衰退していたという。
「オーランドは生まれつき病弱で、騎士として働く事が出来なかった。それ故に騎士として名を馳せたマカブル家はあっという間に凋落し、他に跡継ぎもおらぬ状態だった」
既に屋敷も差し押さえられる事が決まっており、病を治す金すらなく、オーランドは死に間際まで己の病弱さを嘆いていたという。オーランドが息絶えた時、マカブル家はそこで途絶える筈だった。
「助けられた恩があった某はオーランド・マカブルとして騎士としての責務を果たし、彼が立派な騎士であった事をこの世に残してやりたかったのだ」




