109話
ベナガラは相当興奮していた。もしかしたら番いだったのかもしれない。仲間が殺された事で酷く興奮し、そんな魔物が村に向かったのだ。下手をすればもっと死人が増える事になる。
「待ちやがれ!」
「コァアアア!」
ベナガラは叫びながら村まで這って逃げていく。何をするつもりなのか。魔物は普通の野生動物より知能の高い物が殆どだ。ただ逃げてるだけとは考えにくかった。村の民家が見えてきた。ベナガラは跳躍して民家の屋根に上った。そこから、次々と屋根の上を飛び越えていく。その素早さは地上を這っていた時の比ではなかった。
村人たちの不安な声が聞こえてくる。まだ恐怖が勝って外の様子を見に来ることはしないが、村人たちが家から出てくる前に仕留めなければ、被害が大きくなることは容易に想像できた。
「くっ、奴の攻撃を誘わないと、こっちから手を出すのは出来ないね」
アンジーがそういうが、相手は的確に急所を狙ってくる。失敗すれば致命傷は免れない。
ベナガラは跳躍して民家と木の間を飛び回りながら、攻撃する機会を狙っている。わざと隙を晒して危険な賭けに出なければならない。ミックは先ほどのオーランドの姿を思い浮かべる。これ以上、被害を出したくない。
「クアアアア!」
ベナガラが跳躍して襲い掛かる。風に乗って飛び掛かる速さは相当な物だ。そのわずかな襲い掛かる瞬間にミックは、ベナガラをその視界に捉えて魔法を放った。
「転ばし!」
空中にいる相手を転ばせられるという確証はなかった。だから、今まで空中にいる相手に転ばし魔法を使ったらどうなるか知らなかった。
すると、ベナガラの飛び掛かる動きが空中でがくんと止まって、仰向けにそのまま垂直に墜落した。
「でかしたよミック!」
墜落したベナガラが態勢を整える前に、アンジーは素早く近づいて剣で切り付けた。
「コアアアア!」
数度切り付けられたにもかかわらず、ベナガラは全身血まみれになりながら逃げだした。
「しつこい奴め……!」
ベナガラが逃げた方向から影が飛び出た。その影は手にした斧槍の斧の部分を、ベナガラの顔面に叩きつけた。深々と斧がベナガラの顔面に食い込み、手で数度もがく動きを見せた後、ベだらりと腕を力なく下ろして息絶えた。
魔物を仕留めた事より、ミックたちは目の前の光景が信じられなかった。ベナガラにとどめを刺した影は、先ほど首を斬りつけられて息絶えたはずのオーランドだった。
「オーランドさん無事だったんですね!」
ミックが喜んで近づこうとするのをアンジーが腕でせき止めた。オーランドの首元は大きな傷があったが、ミックたちが見ている今この瞬間にも、徐々に傷が塞がって小さくなっている。
「オーランド、あんた人間じゃないね?」




