108話
「こいつの名前はベナガラ。魔物の一種である」
ベナガラという魔物はコウモリと人間を混ぜ合わせたような醜い風貌、人間でも丸かじり出来そうな大きな口に細く鋭い牙を生やし、翼と一体化した手の指には同じように鋭く長い爪を持っていた。この爪で家畜を一撃で仕留め、その血をすすっていたのであろう。
「本来はもっと南方にしかおらん魔物だが、何らかの理由でこの辺りまでやってきたのだろう。翼はあるが風に乗って素早く滑空するのに使われ、直接飛ぶ事は出来ぬ。生きた動物を狩るが、新鮮な肉よりも腐敗した死肉や血の方を好む恐ろしい魔物よ」
元々はこの辺りにはいない魔物らしい。恐らく各地でドラゴンが出没しているので、その影響で魔物の行動範囲も変化しているのだろう。
「こいつが吸血鬼の正体だったんですね」
「一撃で急所を切り裂く死体の傷跡と、柵や外で調べた爪跡や血痕の付き方で予測がついた。騎士はあらゆる魔物の生態も把握し、その対処法を考えねばならぬのだ」
「はいはい、流石騎士様だね。こいつを村の連中に見せれば、この事件もようやく終わりだね」
アンジーは足でベナガラの死体を蹴って転がす。こんな不気味な魔物がこの世に存在しているとは、ミックにはとても信じられなかった。
「今まで見た魔物の中でもかなり気味が悪いです。他の地域にはこんな魔物がわんさかいるんですか?」
「まあ、そう怖がるでない少年。ベナガラは夜行性で人間を襲う事自体は希……」
突然、オーランドが2人を突き飛ばした。その直後に、黒い影が2人とオーランドの間を通り過ぎた。
「コァアアア!」
甲高い奇怪な鳴き声を上げてもう1匹ベナガラが飛んで来た。倒した物とは別の個体がまだ存在していたのだ。
「オーランドさん!」
オーランドの首の根元が真っ赤に裂け、そのまま地面に倒れた。
「アアアア!」
ベナガラは地面を高速で這って逃げる。その先には村がある。
「あたしとした事が油断した……早く追いかけるよ!」
「でもオーランドさんが!」
「傷を見れば分かるだろう! その傷じゃ即死だ。それよりもこれ以上被害が出ないように、早く始末するんだよ!」
治癒魔法を使えるリサは兄妹たちの所にいる。今から呼んで連れてきた所で、オーランドの蘇生は不可能だろう。
一瞬オーランドとアンジーを見比べて、ミックはベナガラの後を追った。
きっと本当は灯りを持っていた自分が狙われていたはずだ。それにいち早く気付いたオーランドが身代わりになってくれたのだ。暗闇の中で大事な灯りを持っている自分が躊躇っていてはいけない。ミックはそう判断して、倒れたオーランドをまずは置いていく事にした。




