106話
「ま、それ位頼んでも罰は当たらないだろうね。この件が片付いたならちょっと相談してみようか」
「何から何まで助けていただけるなんて、感謝してもしきれません。本当にありがとうございます!」
兄は深々と頭を下げた。
「顔を上げるのだ。無辜の民の為に力を尽くすのは騎士の務め。少年もそう思うだろう?」
「え? いや、僕は騎士ではないですけれど、困ってる人がいたら助けてあげたくなるのは普通ですから」
冒険者ギルドでも困っている人たちの為に様々な依頼をこなしてきた。大体はギルドの係員から一言感謝の言葉と報酬を貰って終わるのが普通だが、時には依頼者から直々に感謝の言葉を貰う事があった。そういう時に報酬とは別で達成感の様な物を感じる事があった。しかし、一緒にそういう依頼を受けてきたアンジーの表情は険しいままだ。
「お人好しも構わないけれど、必ずしも今回みたいに感謝されるとは思わない方がいいよ。特に村の方はね」
「どういう事ですか?」
「ここの連中は今まで赴いた土地の中じゃ、かなりよそ者を見る目に不信感を感じる。ただの杞憂ならいいんだけどね」
確かに、この村を訪れてから村人たちの表情は暗い物ばかりだった。吸血鬼の事件のせいだと思っていたが、元々あまり来訪者に好感を持ってないのかもしれない。ただでさえ、自分たちの行動は村で目立っていたが、それで村の人たちに反感を抱かれてしまったかもしれない。
「吸血鬼を討伐したら、こんな辛気臭い場所はすぐに去りたいね」
日が落ちるまで、村の方ではなく兄妹たちの所で過ごす事にした。妹の体調を見ておく必要があったが、ミックとリサはここの兄妹たちがすぐ村を発てる手伝いもした。バーズの魔法使いギルドに連絡を取るのに、何枚か魔法が込められた手紙を受け取っている。何かあったらこれに書いて魔力を使えば、独りでに鳥の形に折れてギルドまで飛んで行ってくれる便利な魔法道具だ。
オーランドは外でまた甲冑を脱いで祈りを捧げている。吸血鬼討伐の祈願も兼ねているようだが、野営している時も彼は殆どこの祈祷に時間を使っている。アンジーが言うには、たまに祈りながら寝ているらしく、祈りの言葉が寝息に変わっているそうだ。
そこまでして騎士らしく振舞い続ける事は相変わらず謎だが、トロールに叩き潰された時以外に冒険に支障をきたしてはいないため、そういう風変わりなだけの人物だとミックたちは割り切る事にした。
そして、今夜は月も雲に隠れる暗闇だった。いよいよ吸血鬼を仕留める準備に入った。




