104話
暫くして腐敗臭の中、最近襲われたらしい家畜の死体が地面の下から出て来た。肥えたブタの死体で臭いは酷いがまだ原形をとどめていて、吸血鬼の残したであろう抉るような大きな傷が首に残っているのを見つけた。
「ふむ、爪で切りつけた後に噛り付いたのか。夜の暗闇の中でも正確に急所の首を狙ったと思える。ならばこいつは……」
オーランドは1人納得した様に頷き、埋葬場所を掘ったばかりのミックに告げる。
「少年、この一番新しい死体を持って行こう。家畜を襲った犯人をおびき出すために」
「え、死体を勝手に動かすんですか?」
一度埋葬された死体を動かすのは信心深いミックにはあまりやりたくない仕事だった。そう思ってると、オーランドは掘り出した豚の死体を担ぐ。
「少年はこの穴を埋めておいてくれ。某はこれを用いて犯人をおびき出す罠を作る」
そう言って死体を担いだまま村に戻る。死体を運ぶ姿を村人に見られたらまた不審がられるかもしれないのに、彼は全く関心がないようだ。ミックは急いで埋葬部分を埋めなおすと、オーランドを追いかける。彼は村と兄妹の住んでいる小屋の間に死体を置いて、その周囲に簡易的な鳴子を作っていた。
「いいんですか? 村の人たちがまた怖がってましたよ。死体を担いで村の中を歩いていたって……」
「少年、死体はただの肉の塊である。我々も死んだら平等に死体になる。これはもうブタではなく、ブタであった物に過ぎない」
「はあ……」
信心深いミックはその死体でも尊んで大切に扱うべきだと思っているが、オーランドはまた彼独自の価値観があるようだ。
「大切なのは死体その物ではない。その死体が元は何でどうしていたか、某はそこに重点を置いている」
罠の準備が終わったようで、オーランドはふり向いてミックに顔を向ける。今までにないくらい真剣な表情だ。
「某は偉大な騎士ローランド・マカブルである。だが、死んだらその死体は某ではない。ただのローランド・マカブルであった物に過ぎない」
回りくどい言い回しだが、生きている今の内が自分だという事であるという事だろうか。だから彼は騎士としての行動という物にこだわるのだろう。
「そろそろ令嬢たちも戻ってくるころ合いだろう。一度合流して、今夜の計画を伝えねばなるまい」
そう言って、オーランドは兄妹のいる小屋に向かって行った。今夜の計画という事は、吸血鬼に対する何らかの行動を起こすつもりなのだろう。吸血鬼と疑われる妹とは別に存在する吸血鬼、そいつを炙り出すために、この罠を準備していたのだ。
吸血鬼の正体は何者なのか、ミックは気になりながらオーランドの後を追った。




