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番犬

「まずい、応援を呼べ!」

「お、おい見ろ!天者達が倒れてるぞ」

「武器を奪え!武器さえ手に入れば俺達だって――――――っ!」


崩れて燃え上がる街の中心、天者らしき死体から武器を奪い取ろうとした男の首が飛ぶ。

切ったのは天者の一人、そしてそのままこちらに気付くよりも早くカミアが続いて首を飛ばす。


「ふはははは、良いな!戦争とはこうでなくては!」

「騒ぐな。忘れてないだろうな。ここからは俺が注意を引く。その間に探せ」

「ふふふ、分かっているとも」


薄っすらと笑う彼女に視線を外すと、そのまま直ぐに隣に立っていた気配が消える。


恐らくアルス・バトラールのいる場所は、この牢獄都市よりも更に下層。

何せ今の所、何人天者を殺しても、少しだけ囚人たちが武器を取り始めただけ。

この都市に収容されるのはどれも内外問わずとびきりの重犯罪者ばかりと聞いたが、その割にはそれほど目立つものもいない。


長い事収容されているであろう囚人たちはおろか、()()()()()にも。


「見つけたぞ、貴様が首謀――――――!」

「邪魔だ、消えろ」


走りながらしばらく、数人の天者を切り伏せる。


今の所、最初にこちらに気付いた天者を除いて、いるのは精々四等から五等天者。

一般的に、天者は身体能力が一般の人々よりも高い。

それは最低である五等にしてもしかり、だからこそ内部に割く戦力はそれだけでも足りると判断しているのかもしれないが、ここは法に違反した天者なども収監される監獄のはず。


どこかに親玉がいるか、あるいは。


「止まれ!そこのお前――――――」

「……部隊長。それでもまだ弱い」


再び地面を蹴る。


槍を突き出すと、合わせて男は飛び退き、今度は雷を纏って地面を蹴る。

中空にいる男の更に頭上、背後から足を振り抜くと、剣を構えたままの身体を地面に叩き落とす。


うめき声すらあげる暇もなく、原型をとどめていない肉塊は、周囲の天者達の気配が変わったのを感じた。


「主、見つけたぞ。奥にある砦の裏、最初に使ったのと似たような装置があった」

「分かった、先に向かえ。俺はもう少しこの辺りを荒らして親玉を――――――!」


引きずり出す。


再び槍を握ると、直ぐに消えるであろうカミアをしり目に、地面を踏みしめる。

放電機構で幾つかの建物を破壊する、異質な気配を感じたのは、そんな無計画を実行しようとした瞬間だった。


「共感機構」


遠くからでもはっきりと聞こえた声。

否、それはきっと気配だった。


「ほう、親玉の登場か」

「……ちっ、俺が時間を稼ぐ。お前は下層に――――――っ!!」


刹那、言葉を言い終えるよりも早く、突然と前に現れたカミアに突き飛ばされる。


何が起きたのか、それを理解するよりも早く目の前を一筋の音が通り抜けたと思うと……カミアの左腕と右足が弾けた。


「あれ、何か関係ない奴やっちゃった?まあいっか、庇ったって事は敵だよねぇ」


声が聞こえる。

同時にいつの間にそこにいたのか、見えたのは深い紫色の乱れた長髪に左目から顔にかけて深く刻まれた傷、着崩した服の隙間から見える同じく傷だらけの肌。


「くそ、『番犬』か」

「にゃはははは、初めまして。二人って聞いてたけど、早くも後一人だねぇ。念のために聞くけど、あんた達が背滅機関であってるかい?」

「……放電機構」


会話を打ち切って、最大出力で地面を蹴る。


今目の前にいるのは、天海世界のナンバー3にして天滅機関第十使徒『番犬』ディアドール・メフィスト。


実際にあったことは一度もないが、使う武装だけは珍しいからこそ知れ渡っている。


「おや、会話の途中でなんて、行儀がなってないねえ」

「雷星剣」


数十メートルを一歩で詰め、脚を勢いよく振り抜く。


しかし直前、ディアドラは身体を空中で横に捻って躱すのと同時、地面をえぐりながら手に持った『鞭』を地面を抉りながら打ち上げ、雷の軌道を逸らす。

喰らった一撃は先ほどのカミアを思い出したが、義足だったためか、何かが起こる気配はない。


当然、生身で受けるのはまずいだろうが。


「にゃは、いいねえ……その殺意。機関に逆らうなんてどんなおバカさんかと思ってたけど――――――」

「お喋りだな、大人しく死ね」

「はは……良いのかい?あたしが話すのを止めたら、折角のお芝居が無駄になっちゃうよ」

「……!」


こいつ、カミアを()()()()ことに気づいてるのか。

そのうえでわざわざ泳がせてる、何のために。


「……何がしたい?」

「いやいや、特に意味は無いよ。ただあたしはずっとこの牢獄の看守長を受け持ってる。あたしのモットーは『罪には罰を』だ。まあ個人的な心情みたいなもんだね。数日前にあんた達の対策会議があったんだけどね、そこで初めて思ったんだ。無実の人々の存在を抹消し続けている私達の罪は()()()()()()()かどうか」


少しだけ、こちらへ向けて歪な笑みを浮かべるディアドール。


初めて投げられた問い。

とはいえ、ここでのリゼルの答えは向こうも分かり切っているはず。

罰せられるべきだからこそ、背滅機関は存在しているの。


滅ぼす者達へ等しい滅びを。

死の恐怖を忘れた者たちに等しき死を。


「当たり前だ。生きるために必要でも、犠牲が無かったことになるわけじゃない」

「それなら、あんたは普段何気なく殺している生き物たちに思いを馳せたことはあるかい?口にした生き物たちや、歩いていて何気なく踏みつぶした生き物たちに」


彼女が話しているのは命の価値、ようは少数の命は食事などと同じ、必要だからこそ消費しているだけ。


ただ、そんなのは下らない屁理屈にすぎない。


「話を拡大し過ぎだ。意思疎通が取れない相手と取れる相手じゃ話が違う。人間を殺すのは内側なら犯罪だろう。異世界は除外か?」

「にゃはははは、まあ、それはそうなんだけどねえ。でも、食事が食べなきゃ死ぬように、異世界を滅ぼさないとこっちが歪で滅びるんだ。それなら、殺すのは罪かい?」


無駄な会話だ。


結局この議論の行く末は、生存権を盾にした多数と少数の戦争。


実際、別に四界連合は罪を犯しているという訳じゃない。

もしリゼルも守る何かがあったのなら同じ立場でずっと槍を振るっていただろうし、たまたま守るものが少数の側にあっただけ。

偶然希望を諦めきれない程度の力があって、偶然谷底に突き落としてくれるカミアやキーラがいて、偶然守るために多数を滅ぼす必要があっただけ。


「どうだい、リゼル・レインライト。あたし達は裁かれる必要があるかい?」

「……あんたは、自分で罪を犯していると()()()()()のか。ならこの場から今すぐに消えろ。罰が必要かどうかは、俺達が『証明』してやる」


その言葉を最後に、再び槍を構えたまま地面を勢いよく蹴りあげる。

不意打ちと咎められるかもしれないが、それでもこのまま無意味な会話を続けるよりはマシだ。


いかに正当で耳障りの良い理由を創り出して主張しようとも、結局必ずどちらは滅びねばならないのだから。


「にゃははは……ああ、少しだけ嫌な気分だねえ」

「なら、そのまま死ね。あんたが守護者でいられないのなら、俺達はまた一歩――――――」


滅びに近づける。


槍を振るうと、直前でディアドールの身体が後方へ跳ね、再び地面に稲妻を走らせる。

頭上への急加速からの蹴り落とし、さっきの三等天者はこの速度差についてこれていなかったが、当然使徒は違う。


「放電機構」

「共感機構」


鞭が空気を裂く。


脚を振り落とすのと同時に雷がディアドールの頬を焼き、直後に腕と頬に鋭い痛みが奔る。


なるほど、自分の痛みも移せるのか。

だとすれば、殺すのにあまり痛めつけない方が良い。

今のも結局こちらが鞭の分と合わせて2撃、唯一マシなのはハンナ程のスピードが無い事だが、変則的な鞭は避けるのも至難の業。


「かで――――――」

「遅いねえ」


ガシャリ、発射された大砲が空中で弾ける。


狂った攻撃速度、いや、これは反射神経か。

あらゆる攻撃が刹那に対応されて、音速を超える鞭で、後だしで返される。


「ちっ、ほうで――――――!」

「……あんたとは、もっと話をしてみたかったよ」


刹那、爆風を薙いで放たれた鞭に、一瞬だけ反応が遅れた。


今度はこちらが反射的に空中へ飛び退き、咄嗟に眼下に無数の電界を放って直ぐ、視界に一瞬だけ映った返す一撃が脚に絡みつき、そのままの勢いで地面に叩き落とされる。


そして、こちらが咄嗟に槍を身体の前で構えた瞬間に、わき腹を一筋の痛みが通り抜けた。


「……!ぐっ、ごほ……っ!!」


鞭で打たれたとは思えない、胸を貫かれたような痛みと、口元から溢れる赤い血液は、きっと名もなき命を奪った代償だ。




『リゼル、念のため確認しておくけれど、万が一カミアちゃんがいない状況で使徒や候補生との戦闘になった時は、迷わずに逃げなさい』


そして、自力で強くなることを諦めた、一人の改造人間が飛び立てる限界なのだろう。


『……ちっ。分かってる、まだ俺だけの力じゃ、使徒候補生にも勝てない』

『ふふ、理解しているなら良いわ。彼らは数多の時間と犠牲を機関に捧げた最強の戦士達、ずっと逃げていたあなたとじゃ、決して埋められない差があるわ』


そう、使徒や使徒候補生は、機構適正に突出した者達が更に過酷な任務と訓練に挑み続け、限界を幾度も超えた果ての果て。

機構適正だけはあった、覚悟も決めず不貞腐れて楽な道を歩き続けていただけの人間が敵っていい道理はない。


選択には結果を、結果を覆すには代償を、代償を払うには覚悟を。


『はっきり言うな。だから今から追いついてやる。()()()()使()()()技術と薬(魔女)の力の力を使って』


口に出した言葉に、目の前のキーラが笑う。


もはや見慣れた歪な笑み、いつも優しさに溢れている彼女がそれを見せるのは、こちらの望む答えが『彼女の答え』と一致していた時。


『……ふふっ、うふふふふふふ……ええ、その通り。私の最高傑作であるあなたが使徒候補生如きに負ける?それは私のポリシーに反するわ。だから特別に、一時的な『力』をあげる。使徒に及ぶのは難しいけれど、効果は10分。副作用の説明はどうせ無駄だから省くわね。必要になったら――――――』


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