集合
「それで、次の手はどうする?」
数日後、滅亡世界内、廃都市地下通路
それなりに整備された金属造りの室内で、中心に置かれたテーブルを6つの息遣いが取り囲んでいる。
「その前に、参加するのはこれで全員か?」
「ええ、私達の側は当然。そちらはアイシャちゃんに、ノルンちゃんだったわね?それに――――――」
「……リベラです。一応、ここの都市の代表をしています」
白髪交じりの長い灰髪、端の欠けた眼鏡をつけた男の視線が順にこちらを巡る。
その感情は疑心半分、警戒半分。
それでも、今更そんな当然の反応に驚くことはない。
「リベラさんね。これまでの経緯は聞いているかしら?」
「……ある程度は。正直信じられないことばかりですが」
「ふふ、それでいいわ。ここのような滅びた世界を消滅させることで生計を立てている異世界があって、私達はそこに反逆してここを護りに来た。それだけ理解してくれれば」
キーラの言葉に、一瞬の逡巡の後、リベラが「……そうですか」と頷く。
恐らく、今まで異世界という存在を知覚していなかった相手に、これ以上の説明は不毛だろう。
お互いに、それでもいずれ事が目の前で起これば理解する。
それに彼が何を思うにせよ……『背滅機関』の目的は変わらない。
「それであなた方は、これから私達を護るために、先日こちらへ攻撃して来た彼らの世界を……その、滅ぼすと?」
「ああ、厳密には天滅機関に与する全ての世界をだ」
「ふむ、敵はあの世界だけではないのか?」
「だからこの前の戦いでも私達は勝利できたのよ。後二人はいてもおかしくなかったけれど、天滅機関は『四界連合』っていう4つの世界で構成されているわ」
キーラはそう言うと、亀裂の入った壁に胸元から一つのリモコンのようなものを取り出すと、小さな星系図のような画面を投影する。
無数にあるちかちかと明滅する光に、中でも少しだけ感覚を空けて、4つの一際大きな目印が見える。
「それぞれの世界には、上下が無くなるように使徒が3人ずつ、統合世界だけ4人を保有しているわ。当然その下には十数人の使徒候補生に、数十人の一等天者、数えるのも面倒なくらいの雑兵がいるから、当然一つでも勝てる世界はない」
「最も厄介なのは?やはりあの世界か?」
「ええ、あそこが本部だもの。それでも戦力の配置で言うなら4:2:2:2って所ね」
統合世界の半分、そう言えば聞こえはいいのだろうが、その実戦力の質、特に使徒の実力はどの世界も総じて圧倒的だ。
順位はそれぞれ1-4、5-8、9-12とブロック毎に均等に分けられているらしいので、厳密には個々の戦闘力は席次に完全に準じてはいないのだろうが、それでもどれも世界を代表するトップ3。
「ふむ、イマイチ規模感が掴みにくいな。総人口は?」
「確か、100億くらいじゃなかったかしら?正確なデータは……あったわ。少し昔のだけれど……統合世界が61億、零絶世界が2億、群生世界が3億、天海世界が37億」
「随分と極端だな」
「世界の性質、ということよ。人間が頂点捕食者になれた世界となれなかった世界……あるいはそもそも生存環境が限定されていた世界。理由はいくらでもあるわ」
人間が世界を制していると決めつけるのはただの傲慢でしかない。
千の武器でも傷一つつけられない生物がいるかもしれないし、反対に人間がそもそも適応できる環境にないかもしれない。
いずれにせよ、戦力が変わらないのであれば、注意すべきは滅ぼす際の障害になるかどうかだけ。
「……滅ぼす以外の方法は、無いのでしょうか」
もっとも、まだ解決するべき問題は多すぎる。
「あら、リベラさんは守られることに反対?」
「……そうは言っていません。ですが、そのために相手を滅ぼすというのは――――――」
リベラがわずかに口を噤む。
守られているという状況もあり繋ぐ言葉を言い淀んだのだろう、それでも相手に内容を感じ取らせるのは、ある意味優秀なのか、制御ができていないだけか。
「はははははっ、文句があるのなら代案を出せ、眼鏡男。私達は爆発を無効化する能力だけを持ち、観客の取り囲む処刑台の上で下を向かされ、手足も縛られて、振り下ろされる剣で首を切られる寸前。ただし胃の中に爆弾を一つ隠し持っていて、それを起動すれば周りは皆殺しになる代わりに自分は生き延びられるかもしれない」
「……設定が強引だな」
「ふは、一致する状況が思い浮かばなかったのでな。どうする、リベラとやら。貴様なら爆弾を飲み込んだまま死ぬか?周囲に死をまき散らすくらいならと、気高く」
カミアの言葉は、決して全肯定されるべきものではない。
考慮されるべきは、断頭台に送られるまでの経緯。
なぞらえるなら、悪者によって首に毒が埋め込まれたまま行われた魔女狩り。
当然無実な人間を殺した罪は消えないが、断ったら自分たちが死ぬとなれば、皆自分達の命より大切なものはない。
処刑台に上げられている爆弾魔は、魔女狩りを止めようと殺人の連鎖を引き起こしたテロリストだ。
「……」
「反対は無いようだな。一応言っておくが、もし皆で決めて滅びを選ぶ方向性になったりした時は教えてくれ。その時には……選択する」
今守っているものを更に狭めるか、あるいは。
とはいえ実際、リゼル達はノルンやアイシャの助けに応じて、機関を滅ぼすと決めた。
しかし実際には、少数世界の者たちは気高く、ほとんどが多数のために大人しく死ぬことを選んだ場合。
「お兄さん……私は、お兄さんたちに助けてほしいと思っています」
「わ、私も……!」
「……!ノルン、アイシャ、ここは大人の話合いです」
「はっ、勝手に発言を縛るな、眼鏡男!貴様たち大人がしっかりとした選択をしないから、未来ある子供たちがこんな滅びた世界に生まれ落ちる羽目になったのだろう?これからの選択はむしろこれからを生きる彼らのためのものだ」
「……ですが、選択の責任を負うには彼らは幼すぎる。正確な判断を下すのにも」
カミアの攻撃的な口調に、リベラも若干弱気ながらも引き下がらない。
この話は、きっと平行線だ。
実際にそういった状況になった場合、できることは更に少数を護るか、大人数の意見を尊重してその場から去るか。
リゼル達は、現状この世界が最優先では有るが、顔も見えない滅亡世界で生きる人々のために抗うと決めた。
ならば、自ら滅びを選択した世界は切り捨てるべき、否、それでもその選択がノルンやアイシャと交わっていなかったら。
「主よ、思考を回すのは結構だが、余分な可能性にまで想像を膨らませる必要は無い。未来を憂いて今を疎かにするようでは――――――」
「……お前、こんな説教くさかったか?分かってる、それよりさっさと作戦を立てるぞ。先ず選択肢としては、3つくらいか?1、武器を手に入れる。2、戦力を増やす。3、この世界を復興させる」
「そうね、3は少しだけ考えがあるわ。だから一旦1と2で考えて。神威武装の作成は確か第三、群生世界だったかしら?」
「そうなのか?俺の閲覧できる情報では見たことが無いな」
「あら、そういえば秘匿情報だったかしら。神威武装は第三世界に存在する特殊な『皇玉甲』とか言う亀の甲羅で作られているのよ。ただ、どっちにしろ作成に特殊な設備が必要になるはず。ここじゃ無理ね」
なら結局2だな、結局自然と削れた選択肢はそれだけ追い詰められている証か。
とは言っても、戦力を増やす手段もそう多くない。
可能性があるとすれば、まだ異世界の存在を知覚していない無関係な相手を巻き込むか。
「戦力の増強とは言わずとも、仲間割れさせるのはどうだ?国家間の同盟でさえ、少しの悪意で簡単に瓦解する。4つも意思を持った世界があって、全てが共通しているなどあるはずがない」
カミアの言葉はもっともだ。
実際、第四世界、天海世界はずっと『地の民』と呼ばれる地上で生きる人々と、『水の民』と呼ばれる海で生きる人々がずっと争っている。
ただしそれは関係値がある程度こちらで把握できてこそ、更に多くの時間もかかる。
こちらが回せる人員は、まともに戦えるのが二人、全ての守りを捨てるなら3人。
数人のお偉方を交渉の場に引きずり出す程度なら、人質をとって何とか可能かもしれないが、それをしたところで殺せて末端に近い数人。
代償は対話能力の一切の欠如だ。
「無理だな。瓦解させるなら、内情に詳しい人間が必要だ」
「はは、内情に詳しい……そうだな。機関の秘密に踏み込めるほど実力があり、こちらへ無条件で協力してくれる。まるで――――――」
「……ちっ」
カミアの言葉に、視線を逸らす。
実際、もしその選択肢を選ぶとするのなら、必要なのは一つの糸。
何度振り払っても消えない、決断の時に一瞬だけ心を乱す……どこまで深い水底に潜っても切れない、一筋の白い光。
「……ふふ。ひとまず、今は正直何をやるにも人手が足りないわ。だから一度相手を整理しましょうか。彼らの世界がどういう関係や役割をしているのか――――――」




