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滅びたあなたに祝福を、滅ぼすあなたに呪いの詩を  作者: ツンドラ
三章 滅びた者達
22/24

運命

「ハンナ、相変わらず早いな」

「……まさか、本当にこっちへ来てるなんて。やっぱりあなたは油断出来ない。いい加減大人しく死んで」

「ふはは、大人しく死ねとはまた異なことを。ならば私も今一度忠告しておこう。道を開けろ、ハンナ・アンネーリエ。健気に尽くす良妻が勝つ物語など見ていられないだろう?大人しく新妻に道を――――――」


譲れ、カミアが地面を蹴るのと共に、彼女を囲むコンクリート群が一斉にその形を変える。


同時に動いたのはキーラ、ハンナが飛び上がったのと共に手持ちのツールボックスを構えると、開いた口から轟音と共に無数の銃弾が放たれ、その全てをハンナは剣で弾く。


次いで地面へと落ちた白雷を、昇る紫電が受け止め、後方へと弾かれた。


「ふは、三人になって少し安定したか?」

「……それでも、このままじゃ間に合わない……だろ?キーラ――――――」

「ふふ、良く分かってるわね、この世界は今も創世が続いている。だから潰すなら早い方が良いわ。立ちふさがる者は全て眠らせて――――――」

「……そうだな」


少しだけいつもより優しい言葉を使うキーラ。

それはこちらの反応を探っているのか、いずれにせよ特に気にするべきことはなく、一方のハンナは明確な敵意を向ける。


今となっては、いったいいつから狂っていたのかは分からない。


今、さほどの抵抗もなくキーラの提案を受け入れた。

戻りたいとは思わない、もし向こう側に居たらなどと言う戯言も、考えただけで吐き気がする。


「……キーラ、あなたは……昔からずっと嫌な人」

「あら、私はあなたの事が大好きよハンナちゃん。愛しているからこそ、私はあなたの事を全部知っているんだもの」


キーラはそう言うと、手に持ったバッグの底を開く。


同時にカラリという乾いた音と共に床に落ちたのは一つの小さな機械部品。

一見ただのゴミにも見える塊、だがそれがリゼルに対する合図だと分かったのは、何か不吉な予感がしたのか、ハンナの身体が反射的に機械部品を破壊すべく動いた時。


「放電機構」

「……!天雷――――――」

「おや、ここは……通行止めだ!」


一瞬にしてその場から飛び出したリゼルの元へ、一拍おいて嘶いた白い雷を、直後数十メートルと並行して現れた金属の壁が防ぐ。


向こうの世界では考えられない規模と速度は、恐らく彼女がこの機械金属によって発展した世界で強化されているのだろう。

いずれにせよ、彼女たちがここまでした以上ここからリゼルが担うべき役目はたった一つ。


(踏み出すのを躊躇った……ちっ、まだ未練がある……)


地面を勢いよく踏みしだきながら、階段を一歩で登り、目の前にそびえる機関の建物を前に、飛翔デバイスを展開する。


少しだけ脚が重い……手が遅れる……それでも原因は分かっている。


『リゼル……大好きよ。今までも、これからも。私の世界にはずっとあなたしかいない。例え二人の間に何があっても、世界中があなたを嫌っても――――――』

『……分かってる。俺も、一生をかけてお前を守る。例え世界中を敵に回しても――――――』


頭の中を、かつて忘れたはずの言葉が巡る。


今思えば、きっと彼女はずっとリゼルの事を助けてくれていたのだろう。

任務も十全に果たせないリゼルの代わりに数多の世界の未来を摘み、心の摩耗しない任務だけを剪定し、リゼルを目の届く監視下で過ごさせた。


もしかしたらあの日、レザイユへ向かう前に会いに来てくれたのも、そもそもリゼルへの忠告の為だったのかもしれない。


「……はっ、一方的に忘れてたのは俺の方か」


虚空へ溶ける独白に、壁と並行に登っていた身体を翻すと、手元のレーダーを頼りに三階部分で停止する。


歪はこの建物の中心、ここから直線で百メートル程。

機関の建物はリゼルの槍の大砲でも一枚貫くのが限界なため、ここからは壁を壊して走る必要がある。


(……いや、もしかしたら放電機構を使えば――――――)


槍を構えると、僅かに穂先を足元に落とし、足元に流れる雷を接触面から槍へと伝わせる。


それは例えるならまるで夜空を劈く彗星、あるいはあらゆるものを貫くエネルギーの砲塔。


「……遅かったな」

「もう追いついた。後は殺すだけだ」


夜空に一瞬だけ煌めいた閃光と共に、巨大な爆発が機関の一部を消し飛ばした。


「……居るとは思ってたよ」

「謝罪は済ませたか、裏切り者。お前の世界のハンナには、俺から謝罪をしておいてやる」


こちらを見る視線に、頭の中を不快感が塗りつぶす。


拒絶か、それとも羨望か、相対した同じ顔の二人は、勝った方が相手の世界を滅ぼし、正しい『歴史』になる。


なればこそ少数が抑制される世界を、守るべきものが壊れていく時間を。


「……放電機構」

「……紫電機構」


――――――夜空へ昇った一筋の花火と直後に散った白い雷が、開戦の合図だった。






「……!行かせない」


それから少し時を遡って……隣を両断した金属の壁にハンナが体を翻す。


彼女の速度は一瞬でも目を離せば置いていかれる。


カミアが試みたのは壁を円柱状に競り立たせ、彼女のリゼルに対する追撃を一秒でも長く食い止める事。


「ははははっ、逃げるのか!」

「……遅いわ――――――」


分かり切った挑発に、ハンナは僅かに腕を振るうと、背後の地面が壁ごと両断される。

それは彼女たちが一度カミアを殺しているゆえか、遠くの物を動かすには触れていなければならないという、リゼルにさえ言っていない能力の()()を突いた一撃。


当然限りなく機械金属に覆いつくされたこの世界ではその遅延も限りなく無いに等しいが、それでもその一瞬で彼女は離脱できる。


「あら、行っちゃうのかしら?これから楽しいパレードが始まるところよ?」


そんな二人の動向を気にもせず、いつの間にか変形した銃を構えたキーラの姿に、二人ともが目を奪われなければ。


「……何を――――――」


ガシャリ……ハンナの言葉をかき消して、直後に辺りを奔った一つの閃光と炸裂音が、地面に落ちた一つの機械片を破壊する。


刹那にカミアが感じたのは地面を揺らす振動、次いで気づいたのは後方から迫る煙と爆風、そして空へと昇る巨大な金属の『何か』。

正確な大きさは分からないが、それが明らかに悪意を持った攻撃であるのは、立ち込める土煙の中で唯一僅かに見えた彼女の表情からでも分かった。


「……キーラ、何をしたの?」

「ふふ、心配しなくても直ぐに答えは分かるわ。いつかの日のために取っておいた私の秘密兵器、こっちの私が壊してなくて安心したわ」


キーラの少しだけ歪んだ笑みに、ハンナは僅かに視線を逸らす。


さっきまでとはうって変わって明らかに隙だらけな今の状態でも動こうとしないのは、それだけ彼女の放った攻撃を警戒しているのだろう。


数十、数百万と世界を滅ぼして回った統合世界、そんな絶滅者達の技術の全てを司る世界最高の科学者。


「狂人女、さてはと思うが、これも時間稼ぎか?だとすれば大したペテン師だが――――――」

「カミアちゃん、滅亡世界の中には、私達の世界よりも発展していながら滅びた世界もあった。どうしてか分かる?」

「……内部で殺し合っただけだろう。或いは私のように――――――」

「あら、カミアちゃんはそんなに凶暴な子だったのね。でももう半分ってところかしら。人間は追いつけなくなるのよ。自分たちが発展させているはずの科学の進化に……自分たちが手綱を握っているはずの兵器の深淵に」


キーラの言葉に、直後上空に何かの気配を感じたのかハンナが上を向く。


それは一瞬の出来事だった。


「……キーラ、あなた――――――‼」


再び発せられたハンナの言葉を遮って、カミアの耳元に不快な音が響く。


何かを爪で引っ搔いているかのような、とはいえ物事の本質はそこでは無いのだろう。


きっとカミアはまだ……キーラという科学者を見くびっていた。

直後に響いたのは一つの巨大な爆発音と爆風、何が起きたのかは詳しくは分からなかったが、一つ確かなのは空から降り注いだ何かがここから近くの場所に落ちたという事。


そして町中のビルに真っ赤なアラートが表示され、目の前のハンナが耳を塞ぎこんだ事実だった。


『緊急警報、緊急警報!天滅機関本部近くにて爆発!死傷者不明、軍と消防隊は直ちに現場へ――――――』


「うふふふふ、凄いでしょう!拡散型超音速クラスターミサイル『リターンレイン』!成層圏で爆発した本体が千に分離、時間差であらゆる場所へ降り注ぐ。正に悪意の極致よ!」

「はははははははっ!!キーラ……やはり貴様も生きていてはいけない人間か!」


カミアの言葉に、キーラが笑う。


今までとは違う、もう優しさの仮面を被ろうともしない、歪で、美しい本当の笑み。


いや、寧ろ彼女のしていることを考えればこっちの方がらしいか。


「……あなた達、狂っているわ」

「あら、私達は滅ぼされた側の報復を行っているだけよ。あなた達だけが好きに世界を搾取して、滅ぼして、おかしいでしょう?だから滅びましょう。私達と一緒に」


キーラの言葉に、直後再び響いた不快な音と共に、どこかで爆発音が鳴る。


同時に、彼女は自分たちの世界が蹂躙されていく事に耐え切れなかったのか、今までで最大規模の白い雷を発生させると、咄嗟に展開した刃の盾を速度で抜き、もはや追いつけもしない速度で彼女の首へ剣を突きつける。


「あら、やらないの?」

「ミサイルを止めて。分かってる、どうせあなたを殺したら止まらないし、あなたは実験凶でも、殺人狂じゃない。あなたは……私があなた達のリゼルを追いかけるのを止めたいだけ」

「ふふ、思ったよりも冷静ね。でもそうね、ならこうしましょうか。止めたら殺されちゃうでしょうし、私はミサイルの落下地点を順番に教えてあげるわ。止められるかはあなた次第だけど」

「……それで、そこの女が援護へ向かうのを見逃せと?」

「何か問題かしら?別に良いわ、私はこの世界の人がどれだけ死んでも困らないもの。何十万、何百万でも……うふふふ、本当に私達なら機関も滅ぼせちゃいそうね」


キーラの言葉に、ハンナは僅かの逡巡の後「分かった」と短く言葉を切ると、直後目の前から白雷が空へと昇る。


それは恐らく次の着弾場所を止めに行ったのか、いずれにせよ確かなのは、この場から彼女がこちらに一切の不利益を与えることなく撤退をしてくれたこと。


もし、彼女があの世界に一緒に来ていたならば……その時はまた違う結果になったか。


とはいえ少なくとも、今この場だけは彼女へ感謝すべきだったのかもしれない。


「なるほど、これからは科学者と名乗る輩には警戒をすることにしよう」

「あら、そんな寂しい事を言わないで?そうしたら私は今からミサイルの着弾地点を予測しないといけないから、カミアちゃんにはリゼルの事をお願いしても良いかしら?」

「無論、いちいち答えの分かっていることを聞くな。そういえば、少しだけ気になっていたのだが、世界の分岐点とやらは結局どこにあった?主は興味が無いようだが、私はいかんせん死んでいたものでな」


加えて分岐点が分かれば、彼がどのような状況でどういう選択をするのか、あるいは大切なもの同士を天秤にかけた時の判断基準なども分かるかもしれない。


万が一にでも、彼が叶わぬ願いを抱かないように。


「分岐点?そういえば、そういう話をしたわね、ふふっ。あなた達の分岐点は思っているよりもずっと前よ。初めてあなたたち二人が出会って、任務から帰って、あなたが初めてハンナちゃんと出会った時――――――」


初対面での出会い、言っていることはわかるが、あの時のカミアは武器に変形しており、特に言葉も発していない。


強いて言えば、言葉を発しようとして止められただけだが。


「恐らくカミアちゃんが得ている場所は別よ。正解はハンナちゃんの()()()()()()()端末が地面へ落ちた時」


キーラの言葉に、カミアは僅かに目を見開く。


『……机の右上から直ぐだ。気をつけろ』


あの時、リゼルのその言葉を最後に、二人は彼女の執務室を後にした。


今考えれば、あれはリゼルがハンナを思っての言葉だったことに疑いは無い。

とはいえまさか、たったあの一つの出来事が世界の分岐にまで繋がっているとは。


「あの子達は本当に可愛いのよ。今度見せてあげましょうか。リゼルが端末の位置を教えた事でハンナちゃんは安心した。ああ、彼は何も変わっていないって」

「ふは、下らないな。ならば教えなかった時は不安を口に出してしまうとでも?」

「ええ、そうよ。だからもしかしたら……あれがリゼルにとっては最良の未来かもしれないわ。他には何も手に入れられなくても、例え世界中から恨まれても――――――」


元々、リゼル・レインライトの居場所など世界中のどこにもない。


キーラの言葉に、まるでカミアは自分の人生の総評を聞かされているようだと思った。


下らない、実に下らない。


だがやはりカミアにとっては……彼でなくてはならない。


「ふふふ、良い顔よ、カミアちゃん。私達は世界に居場所を見出せなかった。だから私達で理想郷を作りましょう?一人でも多くを暗闇に落として、洗脳して……私達は、私達だけはとっくの昔から壊れているんだもの」


キーラの言葉に、カミアはまたイリアの事を思い出す。


彼女が死んだのは裏切った国々のせい、ならばカミアが手を貸さなければ死ななかった?

否、その時はきっと誰か他の力がないものが割り当てられ、きっと平和の願いすら果たせずもう少し早く死んでいたはずだ。


ならばカミアにとってはどうする選択肢が正解だった?


――――――全部、壊して


「ああ、貴様は本当に嫌な奴だ。ちなみに、ルルアとやらは生きているか?」

「いいえ、ハンナちゃんが殺しているわ。あなたを殺してから少し後に、一度でも好意を持った相手は全て――――――」


覚悟を決めた人間は何をしでかすか分からないというが、本当に彼らは似た者同士だ。

境界を勝手に作ったら最後、反対側を滅ぼすのを躊躇わない。


善も悪も、ましてや中立でさえも。


「ふ、ははは、ははははははっ!ああ、なるほど……運命というのは考えても下らないか!良いな、実に良い。ならばそろそろ下らない後悔劇場は終幕としよう。あるいは全てを知っている私達ならば――――――」


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