大切なものを隠す場所
よく分からない場所で、よく分からないまま木嶋たちは菜々子を探し、彷徨った。
コンビニ制服を着た白い顔の男たちが、彼らの行手を遮った。
当初、木嶋と永田だけが戦力であったが、疲れと共に処理能力が低下すると、若い田山と莉々も、コンビニ男の足を引っ掛けて倒したり、腕を引っ張って互いをぶつけ、一時的に動けなくしたりと、簡単な戦い方を実践するようになった。
動いている敵の数は減ってきたが、そもそも彼らはどこに菜々子がいるか見当もついていなかった。
ただ森を彷徨い、沼を回ってみたり、いつの間にか同じところに戻ってきたりしていた。
当初、安全地帯と思われた更地は、だいぶ小さくはなったがまだ存在していた。
その更地には、真っ白い男のままで入ってこれない。
森の中を彷徨うと、まだまだ白い裸の男が大勢いた。
木嶋たちは少し休むため、更地に戻ったのだった。
「木嶋さん、今度はどこに向かいますか?」
「莉々さん、何か霊感を使って菜々子がいる方向ぐらい分からないだろうか」
堂守莉々は首を横に振るだけだった。
コンビニ男の足を挫き、田山が彼らの方に向かって戻ってきた。
「あの!」
永田が対応する。
「田山さんどうしたの?」
「あの、あそこにいるコンビニ制服の男」
木嶋が素早くその視線の先にいる者を識別する。
「ああ、あいつか。近づいてこないのは無害だ。放っておけ」
「近づいてこないって、変じゃないですか?」
「……」
木嶋は考えた。
確かにこれだけいるコンビニ男の中で、こちらに近づいてこない個体はその一体だ。
もしかしたら、何かあるのかもしれない。
木嶋はボソリと言った。
「木を隠すには森の中……」
永田が首を傾げる。
「なんのことですか?」
「人を隠すなら人混みの中に、みたいなものさ」
あいつが菜々子そのもの?
それとも指揮をしている重要な『白い男』なのかもしれない。
「試しに、捕まえてみよう」
木嶋は永田に合図して、二人で挟み撃ちするように互いに間隔をとるように動き出した。
木嶋が正面から追い、永田は後ろに回り込む。
すると木嶋は、すぐにその個体が他のコンビニ制服男とは違うことに気づいた。
明らかに何か思考して動いているのだ。
そのために、単純に追いかければ捕まることがない。
何度も無駄な動きを強いられ、その間にも他のコンビニ制服男が邪魔に入ってきた。
「永田、もっと真剣にやれ」
「そんなこと言ったって……」
そもそもの疲労も重なって、二人ともかなり苛立ってきていた。
「?」
莉々は横にいたはずの田山がいないことに気づいた。
その瞬間、田山の声がした。
「捕まえた!」
「よくやった!」
コンビニ制服の男を羽交い締めにしている田山に、木嶋と永田が駆け寄る。
「これ、どこが菜々子なんだ?」
「普通のコンビニ男との違いがわかりませんね?」
田山が言う。
「こっち代わってください」
木嶋が田山の代わりにコンビニ男の腕を取って羽交い締めにする。
「うーん」
「永田さん、見かけが男だからって適当に胸とか触ったらダメですよ」
永田は慌てて手を上げる。
「顔の白いの取ってみろ」
木嶋の言葉に従い、永田が顔に手を当てると、拭うように親指を動かした。
顔を覆っている白いものは取れないが、肌が少し『浮いた』ように見える。
「ん?」
「どうした?」
「何か、ブヨブヨとした感覚が……」
永田はそう言いながら、さらに頬の上で肌を強く擦ったりずらす様に動かした。
すると何かが破れるような音がした。
スパイ映画でよくあるような顔に貼ったラテックスがズルズルと取れていく。
「ちょっと、ゆっくりやって、中の菜々子さんの顔が傷つくわ」
顔の上を覆っていたラテックスが全て取れると、眠っている菜々子の顔が見えた。
「意識がない」
木嶋を締めていた腕を少し動かすと、内と外で何かがズレる感覚が伝わってきた。
「これ、同じように全身に貼ってあるな」
莉々が割り込んできた。
「意識がなくても大丈夫。そのまま動かさないで」
莉々は菜々子の顔に触れた。
「何をする気だ?」
「菜々子をブースターにする」
「どういう意味だ!?」
「静かにして!」
莉々は呪物を取り出し、ぶつぶつと呪文のような言葉を呟き始めた。
菜々子に触れていることだけが違う。
木嶋から見れば、それしか違いはなかった。
時折、菜々子の体が痙攣する。
木嶋はその強い力に驚きつつ、それを抑え続けた。
莉々のつぶやく言葉が速くなり、同じ言葉が幾度も繰り返されるたびに、菜々子の体がさらに強く激しく揺れる。
これを続けて、菜々子の体は大丈夫なのだろうか。
もし菜々子がこの除霊に耐えられなかったら。
木嶋は莉々の行為に恐怖を感じ始めていた。
「!」
首に手を掛けられていた。
いつの間にか、コンビニ男が周囲に入り込んでいる。
「永田、何をして……」
木嶋は永田が複数のコンビニ男に囲まれ、体が浮いてしまっているのを見つけた。
田山は倒れていて、やはり複数のコンビニ男に首を絞められている。
これは幻覚……
幻覚だが、限度を超えれば人は死ぬだろう。
そうやって皆、心臓発作を起こして死んだのだ。
呪われたまま生き残っている木嶋が、一番よく知っている。
「これは幻覚。幻覚なんだ。皆んな、しっかりしろ!」
莉々の首に左右の手が伸びてきて、絞め始めた。
苦しそうではあったが、まだ言葉を続けている。
さらに一人きて、首を絞める手が四つに増えると、莉々の声が止まった。
「莉々、これは幻覚……」
莉々はその言葉に応えることなかった。
「莉々、莉々!」
さらに首に手がかかり、ついに呪物も手から落ちてしまった。
ダメか……
このまま皆、呪われて死ぬ。
木嶋も複数の腕で、首を強く絞められた感覚を受けながら、目を閉じた。
『木嶋さん』
声が聞こえた。
「菜々子?」
『あなたが解呪をするの』
「どうやって」
呪文も何も知らない。
霊的な力もない。
「菜々子!」
木嶋が掴んでいた腕は振りほどかれ、逆に菜々子に首を絞められ始めた。
首を絞めてくる菜々子の口は動かないが、木嶋の頭に声は響く。
『あなたしかできない』
木嶋は、腕を振り上げ、首を絞めていた複数の腕を払い除けた。
莉々が落としてしまったWi-Fiのアンテナを拾い上げると、祈った。
「助けてください」
再び、コンビニ男の腕で首を絞められる。
いくつもの腕で、強く、息ができない程に。
「助けてください」
幻覚だ。
何度も自分自身に繰り返す。
これは幻覚なんだ。




