解呪
木嶋と永田、田山と堂守莉々は森の中にある空白地帯にいた。
草も木も生えてない空間。
ここには追いかけて来た白い禿頭の男たちは、入って来れない。
この空間にいる限り安全に思われた。
「ちょっと待って、白い男と男の間隔が詰まってない?」
田山が投げた言葉を、残りの三人が確かめる。
「本当だ。近くなっている。この空間が小さくなっているんだ」
無限に安全なのかと思っていたその場所が、ある時間の間だけだと言うことに気づいてしまった。
「なんとかしなきゃ」
三人の目は、堂守莉々に向けられた。
「呪いを解けって言われても……」
何がその呪物なのかわからない。
それらがここにあるのかも。
「莉々さん。呪物はさっき俺が見せたこれで間違いない」
木嶋は、この状況に陥るきっかけとなったものを再び取り出して見せた。
「これが呪物」
「三上紳助の死体があった近くで、儀式に使っていたと思われる場所を見つけた」
「儀式? 一体、誰がそんな儀式を」
木嶋は言った。
「どうして女性を殺していたのか。そこから考えるべきだった。三上紳助の怨念なら、女を殺すなんてあり得ない。女性を殺すとしたら、三上自身を殺した愛人の常盤佳子さ」
「本人を永遠に自分のものにするために殺したのなら、それで終わるはずじゃ……」
木嶋は首を横に振った。
「三上が死んだ直後から、コンビニ周辺では、うわさがあった。コンビニ制服を来た男が、ガードレール沿いに立っている女を誘っていくと。そのコンビニ制服の男は、人間ではなかった。それは、三上紳助の霊だったのさ」
「霊が女性を誘うなんて」
「それくらい女性が好きだったんだろうな」
木嶋はさらに続けた。
「常盤は、死んでもあのコンビニの近くで、若い女を誘ってラブホに消えていく三上の霊を見て思った。死んでも自分だけのものにならないなら、コンビニに近くに寄ってくる女を殺してやるって。そして呪った。だからコンビニのWi-Fiのようなものが現れたんだろう」
「そんなバカな」
土地に近づくものを殺すのだから、土地の呪いと考えるのが自然な話だった。
莉々はそう考え、土地の権利者に申し入れ、土地を祓った。
だが土地から祓われたのは、三上だけだった。
「土地から三上が消えても、田山さんのスマホが例のWi-Fiに繋がったのはそのためさ」
「……」
「ねぇ、そんな話してないで、早く除霊して!」
木嶋と莉々は白い男たちが近づいているのかと思い、周囲を見まわした。
その時、空を見上げていた永田が言った。
「なんか降ってきた」
一センチ角ほどの小さな布切れが、雲から落ちてきた。
布切れはどこかで見たような色がついていた。
永田は布切れを手に取ろうとして、手のひらを構えていたが、布は風に乗って森の方へと流れていく。
布は引き寄せられるように白い男に飛んだ布は、男の肌に張り付く。
張り付いた布は、服を作り出していく。
「まさか」
予想はすぐに結果となって現れた。
「この布、コンビニの制服だ」
白い男はいつの間にかコンビニ制服の男へと変わっていく。
コンビニ制服が成立すると、森から飛び出して、木嶋たちのいる更地に踏み込んでくる。
「まずい。莉々さん、早くこの呪物を祓って!」
木嶋が持っていた袋から取り出されたのはWi-Fiルーターのアンテナだった。
「何も補助はないですが、できるだけのことはします」
「永田、俺たちで莉々さんを守るぞ」
「はい!」
次々と近づいてくるコンビニ制服の『白い男』を近づけない。
永田は中に進んでくるコンビニ制服の男に殴りかかった。
拳が男の頬に当たると、頬は粘土のように歪んだ。
一瞬、動きは止まったが、頬が変形したまま、再び歩き出してしまった。
「木嶋さん、どうしたら……」
永田は困って木嶋を振り返る。
「足だ! 足を潰せ!」
木嶋は足を蹴って変形させていた。
片足が長く、もう一方の足が短いせいで、真っ直ぐ進めなくなったコンビニ制服の男は、円を描くように同じ場所を回り始めた。
「き、きじま…… さん……」
永田を振り返ると、コンビニ制服を来た男に首を絞められていた。
木嶋は、近づいてくる別のコンビニ男の足を蹴ってへし折ると、永田を助けに向かう。
肘打ちをして、コンビニ制服の男の腕を変形させる。
永田がようやく呼吸ができて、咳き込む。
木嶋は次から次にやってくるコンビニ男を睨みつけて言う。
「数が多すぎる」
永田に肩を貸して引き起こすと、防衛する範囲を狭めるために中心へと下がった。
「莉々、早く祓ってくれ」
木嶋の視線は、膝をついて祈る莉々に向けられた。
堂守は顔の前で指を組んで、呪文のように言葉繰り返し唱えている。
何かが起こっているようには見えない。
霊力がない人間には、どれだけ強い祓いの力があっても何も感じることはできないのだろう。木嶋はそう思った。
「木嶋さん、そっちに一人行きました」
コンビニ制服の男が、一人、莉々の方へ抜けて行ってしまった。
木嶋は左右にいるコンビニ制服を引き倒してから、追いかける。
「行かせるか!」
木嶋は肘で男の肩を攻撃し、腕を使って起き上がれないようにして、足をかけて倒した。
コンビニ男は地面でバタバタと足を動かすばかりで、立ち上がれなくなった。
「ねぇ! 本当にこれが『呪物』なの?」
「俺自身に霊感はない。ただ菜々子に言われた探したものだ」
「……」
莉々は布を使って直接呪物に触らないようにして、そのWi-Fiアンテナを持ち上げ、様々奈角度から見直した。
目の前にそれを置くと、言った。
「生きている人が呪っているわけね」
「そうだ。彼女は今、刑務所だ」
「……なぜここに菜々子がいないか分かった」
木嶋は嫌な予感がした。
「この呪物の解呪するためには、菜々子をここに連れてくる必要がある」
「それってどういうこと?」
「言葉通りの意味よ」
木嶋は近づいてくるコンビニ制服の男を蹴り、叩きながら周囲を見回す。
「どこにいるんだ? 見当はついているのか?」
「わからない。けど絶対に見つからないか、普通に辿り着けない場所にいるはず」
「無茶言うな。この世界の地図すらないんだぞ」
コンビニ制服の男を殴り続け、木嶋は息が切れてきた。
「けれど菜々子がいないと呪いは解けない」
「言うのは簡単だ」
「なら、あなたが呪いを解いてよ」
互いに無理なことを押し付けあっていると言うことなのか。
木嶋はやるしかないと、腹を括った。
「俺がここを離れたら、君たちを守れない。一緒についてきてもらう」
莉々は頷いた。
横で聞いていた田山も頷く。
「永田、菜々子を探しに行くぞ!」
「は、はい!」




