空き地
どこからか、声が聞こえる。
木嶋は、その声に応えようとした。
うつ伏せに寝ている感覚。
アスファルトだ。
車のホーンの音が、激しく鳴らされる。
「轢かれたいのか!」
罵声と共に、再びホーンの音が聞こえる。
木嶋は力を入れて体をずらした。
車が目の前スレスレを通り過ぎていく。
同時にタイヤが何かを踏みつけ、割ったような音がした。
「!」
後輪も同じところを踏みつけ、同じ様な音がした。
車が去った後を見ると、そこには棒状のものが割れて落ちていた。
「あれは……」
木嶋が持ってきた『呪物』としてのWi-Fi装置のアンテナだった。
呪いが解けた、のだろうか。
車が乗って、割れたから? 祈ったからではなく?
いや、車が踏みつける前の状態はわからないし、目が覚めたほうが先だ。
もし呪いが解けてないのなら、俺は先に死んでいたのではないか。
「……菜々子、莉々、田山、永田!」
木嶋は近くのフェンスに掴まりながら、ゆっくり立ち上がった。
ここは元いたガードレールがある、あの通りだ。
彼女たちはすぐに見つかった。
四人は、コンビニがあった空き地の中に入っていた。
空き地に人が入れないように囲ってあったのだが、扉の鍵が開いている。
木嶋は中に入り、倒れている彼女たちに声をかけた。
反応はない。
「菜々子!」
木嶋はまず、菜々子のところへ行き、体を揺すった。
「おい、しっかりしろ」
見ると、菜々子の首に紫色に跡がついている。
手の平を顔の近くに差し出すと、息はしているようだ。
手を引っ込めようとすると、その手を掴まれた。
「やったんですね」
「俺に結果を聞くな、俺にはわからないんだ」
菜々子は、笑った。
「安心してください。呪いは解けてます」
「そ、そうか。よかった」
コンビニがあった小さい空き地から、木嶋は空を見上げた。
夜が過ぎ、明るくなり始めた空の色を見て、生きていることを実感した。
次の月の月末、木嶋はスマホを握りしめてガードレールの通りに来ていた。
例のコンビニの空き地の前に立つ。
通信残容量のないスマホ。
Wi-Fi接続画面を繰り返し更新し、何度も画面を確認する。
すると一人の女性が近づいてきた。
「大丈夫みたいですね」
「田山」
「いや、もうやめましたから。なんとなく、来てみただけです」
木嶋は頷いた。
もう連続不審死が起こらなければ、あの奇妙な『キャプティブ・ポータル』画面が表示されなければ、事件は解決したということだ。
全く現実的な解決方法ではないが、市民の平和が守られるなら、どんな方法でも構わないだろう。
木嶋は『呪い』で事件が解決したのならそれでもいい、と考えを変えていた。
木嶋は何日かここに顔を出し、スマホの画面を確認し、事件の終焉を見届けたのだった。
監視カメラの映像が流れている。
小部屋を真上から撮った映像に見える。
突然、小部屋にいる人物が真上を見上げる。
「うっ」
監視していた人が、声を上げた。
監視カメラを通じて、目があった気がしたからだ。
小部屋にいる女は、目を飛び出しそうなほど見開き、天井についているピンホールカメラの位置を正確に見つめると、笑ってきた。
監視していた男は、背筋に寒いものを感じた。
その様子で気付かれてしまったようで、横に座っている男から、ポンと肩を叩かれる。
「それにまともに付き合ってると身がもたないぞ」
「けど、なぜ分かるんですか。前、見せてもらったけどピンホールカメラなんて、いちほとんどわからなかったですよ」
「確かになぜかカメラの位置がわかるやつが時たまいるな。霊感でわかるという奴もいた」
監視カメラ映像から目を離していると、その小部屋にいる女もどこかをみている。
「この女も、最近まで、こうじゃなかったんだが」
「そうなんですか」
「数ヶ月前に面会した刑事が、また面会を申し込んできたから、シャバで、なんかあったんだろうな」
画面に面会リストを表示させながら、そう話した。
「面会って、どうしたんですか?」
「精神科の先生の回答次第だけど、どうみても無理だろ」
監視カメラ画像をみて驚いていた男が、あたらめて手元のパソコンでその見つめ返してくる女のデータを表示させる。
罪状は殺人と死体遺棄。
氏名には常盤佳子と表示されていた。
「何があったんすかね」
「最初の異常行動の時、たまたま居たんだけどさ」
どこからか見られている気がするのか、言いやめて、一旦、周囲を見回した。
「『呪い返しだ、助けて』って繰り返してて」
「呪い返し?」
「しらねぇよ。刑務所の中から、ずっと呪ってたんじゃないの? それがやり返され……」
二人は、急に話をやめた。
正面の監視カメラ画像は、すべてのモニタが常盤の部屋の画像に切り替わった。
そこには、真上を指さし、歯を剥き出しにし彼女が映し出されていた。
常盤は笑う様に何か喋り続けているのだった。
おしまい




