元コンビニの除霊
元コンビニの空き地に到着すると、大手の不動産会社の若手社員は、慣れた手つきで空き地のフェンスにある簡易的な扉を開錠する。
「どうぞ」
堂守莉々(りり)は会釈をすると、土地に足を踏み入れた。
大きなバッグに入れた荷物を端に置き、方角を確認し、土地の端から端までの距離を歩いて測った。
おおよそ、その土地の『ヘソ』と思われる場所に目印をつけると、バッグから道具を取り出して並べた。
フェンスの外から、若手社員が言った。
「それ、キャンプで使う焚き火台だ」
莉々はめんどくさそうに振り返ると言った。
「昔は直接地面に置いて火を焚べていたのですが、昨今それができなくて」
若手社員は苦笑いした。
「護摩行のように火を炊くのですが、私自身は僧ではないので、本来このようにする意味はないんです。ただ、ルーティーンとして儀式の形式を借り、自身の力を引き出しているだけです」
若手社員はさらに意味不明なことを言われて笑うしか無かった。
莉々はキャンプ用の焚き火台で護摩行『もどき』を始めた。
こうすることにより土地に憑いた悪霊を祓うと言うのだ。
莉々は祝詞なのか念仏なのか、聞いても良く理解できないような言葉を、ブツブツと口の中で反復している。
莉々は目を閉じていたが、気配を感じて目を開いた。
コンビニ独特の制服を来た男が立っていた。
それは霊的なもので、フェンスの外にいる不動産会社の若手社員には見えていないだろう。
コンビニ制服の男は、怒りをあらわにした。
『余計な者とはなんだ!』
莉々はこの男が署内で娘の菜々子に憑いていたことを思い出した。
莉々は除霊のための言葉を強く発声しながら、護摩木をくべると、爆ぜるような音と共に、高く炎が上がった。
まるで焼かれたようにコンビニ制服の男は、暴れ出した。
暴れれば暴れるほど、男の姿は薄くなっていく。
莉々が護摩木を追加する。
『このバカ女!! 除霊されてたまるか!!!』
コンビニ制服の男は、腕を振り上げて莉々に殴りかかる。
だが、炎の中でさらに爆ぜた護摩木から小さな炎の塊が飛んでいく。
コンビニ制服の姿が、陽炎のように揺れ始めた。
「消え去れ」
莉々の指が水平に振り出されると、コンビニ制服の男を切り裂く。
完全に色を失い切れ切れになった体は、莉々からも見えなくなって、消えた。
若手社員はフェンスの扉から敷地に足を踏み入れた。
コンビニ制服の男は見えていないものの、莉々の振る舞いから除霊が終わったように思えたのだ。
「まだ入ってはダメ!」
莉々は社員の方を振り返らず、そう言うと、さらに護摩木を放り込む。
社員は、慌てて外に出て、扉を閉め直す。
護摩行のために組んでいた木が、上から数段、焼き崩れた。
まだいるはずだ。
莉々は思った。
あの『コンビニ制服の男』は元あったコンビニの店長で間違いない。
店長の名は三上紳助。
だが、あの男が女を殺すわけがない。
三上自身、女好きであって、死んだ原因も女遊びではあるが、女に恨みがあるわけではないのだ。
この土地には、まだ何か存在するはずなのだ。
例の連続不審死を引き起こした何かが。
コンビニ制服の男が消え去ってから、莉々はこの小一時間ほどの間、悪霊を祓うための言葉を唱え続けてきた。
若手社員は、どこかで時間を潰しに消えては戻ってくることを数度、繰り返していた。
小さい声で、あまり口を開かないのだが、それでも口は乾いてきたし、疲労が蓄積していた。
そしてまずいことに、護摩木が尽きてきた。
炎を絶やさないことで悪霊の燻り出し、および除霊の助けにしているのだが、炎が尽きたら、その二つを己の力のみで行わねばならない。
一度、出直すべきかもしれない。
だが、今回、この土地に入るまで掛かった苦労を、また一からすることになる。
それはかなり憂鬱だ。
『なぜ祓えなかった?』
申し入れる人という人から、繰り返しそれを問われるだろう。
次にくる問いも分かっている。
『本当に悪霊がいるのか?』
その二つをはっきり説明できるように裏を取らなければならない。
今、この場で出来ないことをどうやって土地の外から証明し、そして土地の権利者に説明するのか。
これは、半ば無理なことに思える。
いや、待て。
もしかしたら……
「まだですか? なんか予定より長いんですけど」
莉々は頭の片隅に浮かびかけた何かを失ったことに気づいた。
「除霊中に話しかけないで!」
懸命に考えていた何かを思い出そうとするが、形も何も浮かばない。
そもそもこの土地から発したWi-Fiに接続したことがきっかけで呪われ、死ぬのだ。
この土地に何かいないと話にならない。
目撃もされているコンビニ制服の男。
そうだ。
これでいいはずだ。
全ての呪いはこのコンビニ制服の男が行なっていた。
自らは思い半ばで死に、この世に禍根を残した。
これ以上の除霊ができなくて当然なのだ。
この除霊を行う為に、ここにきたのだから。
莉々は必死に自分自身を納得させようとしていた。




