罠にかかる者
月末。
署に電話がかかってきた。
その者が指名した人物はしばらく署に来てないとして、電話は別の者に回された。
「替わりました、永田と申します」
電話の先から、震える声が聞こえてきた。
『木嶋さんいないってどういうことですか?』
「待って、えっと君は? 田山さんだっけ。確かにずっと消息が不明なんだけど、俺は死んだとは思ってない。絶対に生きているよ」
永田も木嶋の家族から聞いてこの田山の代わりに呪いを受けたことを知っていた。
それでも、木嶋が死んでいない、そう思っていた。
『あの、ごめんなさい。私、また、例のWi-Fiにつながってしまって……』
「わかった。すぐいく。例のガードレールの通り?」
電話をしていると、永田のところに菜々子がやってきた。
『コンビニの土地を除霊しているところを見たって噂だったし、もう大丈夫だと思っていたのに……』
「大丈夫だ。とにかく、こっちがいくまでそこを動かないで」
何かいいたげな菜々子の対応をするため、永田は電話を保留した。
「堂守さん、何か用?」
「電話の相手、もしかして田山とかいう人?」
「そうだけど」
菜々子は頷くと顎に指を当てて少し考えた。
「待たせてるんだ」
「彼女、また例のWi-Fiに繋がったってことですね? そして、永田さんはその田山さんのところに行くんですよね?」
「ああ、そうだ」
「私も行きます」
永田は慌てて保留をとく。
「すまん。すぐそちらに向かうから、とにかく落ち着いて」
『お願いします……』
電話を切ると、二人はすぐに用意して署をでた。
永田と菜々子が田山のところについた。
辺りは暗くなり始めていた。
永田は、田山が震えながら差し出すスマホを受け取って、その画面を確認した。
「これが、うわさの……」
四つの選択肢が並んでいる。
知らない人の名前と共に、田山の名前もそこにあった。
菜々子は背伸びしてその画面を覗き込んだ。
田山は菜々子に近づいてくると、言った。
「もしかして、あなた霊能者?」
「多少見えますが……」
菜々子がそういうと、田山は何かを察したようだった。
「莉々さんと何か繋がりが……」
「娘です」
「やっぱり」
田山は菜々子を抱きしめる。
「助けて、この呪いを解いて」
「私はそういうことは出来ないんです」
「なんでよ、お母さんはやってくれたじゃない」
菜々子は今歩いてきた方向を振り返った。
「母もくると思います」
「えっ」
田山は菜々子が見ている方向に目をやった。
そこには髪と髭が伸びほうだい伸びた、薄汚い男がいて、二人を見ていた。
菜々子はスマホを取り出し時刻を確認した。
「そろそろくると思うんだけど」
そう言うと、ガードレール脇をノロノロとタクシーが入ってきた。
三人がいる空き地にくると、車は止まった。
支払いを済ませ、タクシーからおりてきたのは菜々子の母、莉々だった。
「この子のスマホを見せて」
「お母さん、この土地の除霊は終わっているの?」
「いいからこの子のスマホを見せて」
永田が慌てて、莉々にスマホを見せる。
莉々はゆっくり画面の上から下まで、慎重に確認した。
「……何かわかりますか?」
永田の問いに、莉々は首を捻ってみせた。
「土地についた霊はいなくなったはずなのに」
菜々子がそれを聞いて、莉々に近づいた。
「除霊したのはコンビニ制服の男?」
莉々は頷く。
「それじゃだめなの」
菜々子は話し始める。
それは過去、このコンビニの夫婦の間で起こった事件のことだった。
話の終わりに、菜々子はいう。
「だから、夫の霊が女性を殺す理由がない」
「最終的には女性に殺されているのよ」
「だけど、それは無差別に女性を恨む理由にならない」
菜々子が言い切ると、莉々は下唇を噛んだ。
「じゃあ、なんだっていうの? この土地にからは他の悪霊は出てこなかった。徹底的にやったのよ、ありったけの護摩木を費やして」
「そう、夫の三上紳助でも、妻の幸子でもないとしたら、残る人物は一人……」
菜々子がそう言うと、長髪で髭面の男が突然、動き出した。
「!」
全員の目が男に向けられた。
男はゆっくりと近づいてくる。
田山はその男の様子を見て、気味が悪いと思い、菜々子を盾にするようにして隠れた。
男の方から、強いアンモニア臭が漂い、永田が鼻をつまんだ。
菜々子は男の顔をじっと見たのち、言った。
「木嶋さん」
『えっ?』
永田と田山が顔を見合わせてから、その男をじっと見直した。
「木嶋さん、木嶋さんだ」
「生きてた。やっぱり生きてた!」
体の汚れのせいで、二人は喜びはするが、近寄れなかった。
「こんな状況になるまで何もできなくてすまん」
「木嶋さんがここにきたということは……」
「そうだ」
木嶋は薄汚れたスーツの内ポケットから布袋を取り出した。
手のひらに収まる小さな袋だった。
袋も木嶋の姿のように薄汚れている。
「お母さん!」
菜々子は木嶋が持ってきたものを見るなり、言った。
「呪物を、木嶋さんが、呪物を持ってきてくれた」
「どういうこと!?」
「私たちは、呪いをかけたものを勘違いしていたのよ」
莉々はそう言われて、何かに気づいた様子だった。
「……あっ、もしかして、生きて」
菜々子は頷いた。
その瞬間、その場の光が失われた。
周囲の街灯やビルの灯りさえ見えない。
「しまった!」
永田、木嶋、田山の三人には何が起こったのか分からなかった。
ただ最悪な事態に巻き込まれたことだけは理解できていた。




