そうくると思ってたぜ
(天空都市群グングニル中央島:第一円形闘技場)
ギラドアの切り札が、第一闘技場を席巻した。
奴の粉塵爆発の前に、逃げ場は何処にもない。
となれば、俺に残された手立ては一つだ。
『――――氷の玉座――――』
氷の繭が、俺の周囲を覆う。
絶対零度の防御壁。
これが、ギラドアのトドメの一撃を防ぐには必要なはずだった。
灼熱と砂塵を巻き込んだ暴風が、やすりのように外壁を削っていく。
凄まじい速度で溶解され、削られていく氷の壁。
零度と灼熱が激しくせめぎ合う。
だが、押されているのは俺の方だ。
――――耐えきれるか!?
北極のような壁の内部で、俺は危惧していた。
玉座が削られる速度が、以前よりも早い。
奴は、持久力だけでなく、単純な攻撃力も練度を増していたのだ。
そして、恐れていた事態がやってくる。
氷の玉座にヒビが入り始めたのだ。
境目から、熱風が侵入し、内部の温度を徐々に上げていく。
これでは、防御壁の崩壊は、時間の問題だ。
このまま手をこまねいていては、粉塵爆発の餌食になってしまう。
壁の崩壊を見守っているだけでは、負け。
壁の外に出ても、勢いが止まぬ爆発の餌食になって、負け。
このままではじり貧だ。
負けてしまう。
いや、だが。
まだ一つだけ、突破口がある。
ギラドアの粉塵爆発は、どちらかといえば上から下へ拡大するものだ。
奴が実際にそれを起こした時、奴は闘技場の中空域にいた。
つまり、相対的に闘技場の上空域は、爆発の勢いが弱いことになる。
俺が玉座を張ったのが、中空域と下空域の間くらいだから、そこから一気に上空域まで達すれば、奴の切り札をかわすことができる。
問題は、その方法だ。
急上昇することで翼への負担がかかるし、なにより中空域を出るまでは、圧倒的な熱と暴風が吹き荒れている。
この課題をどうにかしないことには、上空息を目指したところで、到達する前に丸こげだ。
おまけに、俺は喉元に怪我を負わされている。
氷の玉座を使ったことで、体力も限界に近い。
ピークの勢いは過ぎたとはいえ、七帝の切り札を、一時でも凌げる力があるのか、疑問だ。
だが、もう信じるしかないだろう。
俺の六枚の翼には、俺の競技人生だけがかかっている訳ではないのだ。
もう一つ、それ以上に大切なものを、俺は背負っている。
キーロの夢。
天空獣医師になること。
その為に、大学に入ること。
それには、推薦状がいること。
俺が、それを七帝に返り咲いて手に入れる。
そう誓った。
彼女の前で。
だからこそ、俺は諦めるわけにはいかないのだ。
こんな熱風くらい、どうにかできないといけないのだ。
そうだよな。キーロ。
氷の壁が崩壊した。
その瞬間が、合図だ。
『――――氷河の回廊――――』
濃縮され、オーロラのような輝きを放つブレスが、天空へと放たれる。
その奇跡は、荒れ狂う世界に、一筋の回廊をつくりあげた。
その筒状の回廊を、銀色の飛竜が翔ける。
悠長に飛んでいる暇はない。
回廊はすぐに溶かされ、削られ、みるみるうちに消滅していく。
その刹那的な通路を、俺は矢のように飛んだ。
紙一重のところで、俺は無事に通過する。
思った通りだった。闘技場の最上層部には、爆発の影響が少ない。
ここは安全地帯だ。なんとか、最大の危機は――――。
そのときだった。
気がついたのは。
俺の頭上に、巨影が待ちかまえていたのだ。
「そうくると思っていたぜ」
生命的なセンサーが、俺に危険を知らせる。
だが、全ては遅すぎた。
氷河の回廊は、粉塵爆発のさなかでも、かなり目立ったはずだ。
ということは、奴は俺が何処に移動してくるか、手に取るように分かったということだった。
頭上にいる巨大な死神が、にやりとほくそ笑んでいるような口調で告げる。
「お前なら、俺の切り札を耐えるってな!!!」
つまり、奴は俺を信用していたのだ。
トドメの一撃では、俺が倒れないと。
だからこそ、次の一撃を周到に用意していた。
俺を、今度こそ本当に沈めるために。
「なに――――――!?」
犀粉帝のいる背後を振り向こうとしたが、もう遅かった。
「あばよ――――氷息帝!!」
奴の巨体が、宙で一回転する。
そして、その勢いそのままにしなる尾が、俺の頭頂部を襲った。
頭蓋にヒビが入るような音を効いた次の瞬間には、俺は凄まじい勢いで落下に転じていた。
俺は、もう成す術を持たなかった。




