トドメの一撃
(天空都市群グングニル中央島:第一円形闘技場)
皇帝になったギラドアは、ごり押し一辺倒だけではなく、狡猾な持久戦を仕掛けてくるようになった。
なんてこった。
これは、かなり分が悪い。
回復したとはいえ怪我人の俺と、もともと頑強で万全な状態のギラドア。
試合が長引けば、どちらに有利に傾くか、そんなことは誰でも分かる。
俺は、どうすればいいか頭を捻っていた。
だが、いい考えなど浮かばない。
奴のプレースタイルは、さっきから一貫している。
お互いに攻撃を撃ちあうが、それが致命傷にはならず、徐々に擦り減っていく。
そんな、七帝と元七帝の試合には相応しくないような、消耗戦が続いていた。
だが、これはフィニッシュへの準備段階に過ぎない。
ギラドアには、もう一つの奥の手がある。粉塵だ。
奴は可燃性の粉塵を、翼膜からばら撒くことができる。回数としてはそれほど多くは使えないが、かなり強力な代物だ。
(アウラのように、常に使えるわけじゃない。そこが、奴の切り札の搦め手だ)
それを、俺が疲弊しきった頃に、満を持して使ってくるだろう。
すでに、ブリザード・ワイバーンの身体には、紅い擦過傷が滲んでいる。
無論、奴も俺の凍気を受け続けているが、まだ余裕がありそうだ。
単純なフィジカルでは、ギラドアの方に軍配があがる。
それを最大限に生かして、回避力に優れた俺の体力を削ってきている。
うーむ。これは、奴は本気だ。
自分の従来のプレースタイルを捨ててでも、こちらに勝ちに来ている。三度目の正直を求めて。
そして、正直この戦術は絶望的に効果的だ。
怪我をした俺の身体では、七帝であるギラドアの攻撃を避けきることはできない。
加えて、強靭な筋肉の鎧を貫通して、奴を凍結させるのは至難の業だ。
結果、俺は消耗し、試合はギラドアの優位に進んでいる。
これまでの試合は、展開がめまぐるしいものが多かった。
一瞬で形勢が逆転し、刹那の集中力と機転で決着がついた。
だが、この試合は全くの別物だ。
まるで、自分では押し返せない岩を、坂道で押しとどめているかのような気分になる。
岩が重すぎるので、自分で動かすことはできない。加えて、徐々に身体が悲鳴を上げ始める。
このままでは、押しつぶされるのは時間の問題だ。
かといって、逃げることもできない。状況を打破する手立てもない。
俺は、焦りつつあった。
「どうだ、元・氷息帝さんよ!! 逃げ場のない戦いに引きずり込まれた気分はどうだ? そろそろ、諦めもついたろう?」
ギラドアが、威勢のいい怒声と共に、こちらへまた突っ込んでくる。
「最初の買い言葉とずいぶん違う試合運びだな、ギラドア!! 出家でもしたのか? 精進料理にはまったとか?」
俺が地道な試合運びを揶揄しても、犀粉帝にプランの変更はないようだ。
また、奴が突っ込んでくる。これで、何度目だろう。
「まったく!! 何発凍結ブレス喰らえば気が済むんだ!!!!」
奴の角が目前に迫る。
「お前こそ、もう満身創痍だろうが!!!」
俺はそれを紙一重でかわすが、やはり浅く喉元を裂かれる。
くそ。ダメージを負いたくない所に負ってしまった。これでは、ブレスを吐くときに怪我が影響してしまう。ギラドアに決定打を与えるのがまた、難しくなってしまった。
「ははは!! ザザ、もう試合を投げたらどうだ? 喉元の傷は、身体とは訳が違うぜ?」
黒い魔獣が勝ちどきの咆哮をあげる。
まずいな。奴は勝負所を逃がさない。俺の戦力が殺がれたところで、一気にカタをつけに来るつもりだ。
ギラドアの粉塵は、広範囲に爆風と高熱を巻き起こす。たとえ第一闘技場でも、全域にその充分な破壊力を振るえるだろう。
ギラドアの計算された消耗戦によって、身体の各部に細かいダメージを負った俺が、その破壊力をいなせるかは、正直かなり心細い。
そう考えを巡らせているうちに、奴の翼膜から黒い燐粉のようなものが分泌され始める。
犀粉帝トドメの一撃が、いよいよやってくる。
「さて、これで終いにしようぜ、氷息帝? 今日こそ、この犀粉帝の華々しい初勝利の日だ。過去最低の皇帝に引導を渡してのな!!」
次の瞬間、第一闘技場は凄まじい熱風に支配された。




