意外な変化
(天空都市群グングニル中央島:第一円形闘技場)
皇帝という矜持。
それは、ギラドアという闘竜士を完成させる最後のピースだったに違いない。
今対峙する奴は、過去のスーパーリーガーとは訳が違う。
列記とした、皇帝なのだ。
七帝の一角、犀粉帝ギラドア。
奴は、三度目の正直を、本当に実現するつもりなのだ。
三度目の対戦で、今まで勝てなかった俺に勝利する算段を。
奴の角が肉薄する。
その突きは、以前よりも数段速い。
「くっ……!!」
俺は、脇腹の傷が開くのを承知で、身体を捻った。
そうしないことには、串刺しになってしまう。
凶悪な犀の角が、わき腹と翼の間を通り抜ける。
何枚か、白銀の羽毛が散った。
勿論、その借りをただで許す俺ではない。
急下降して奴とすれ違いざま、凍結ブレスをお見舞いする。
「当れ!」
凍気が奴の尾を霞める。
当りはした。だが、これでは到底、致命傷にならない。
余裕の声音で、ギラドアが旋回して強襲してくる。
「どうしたザザ!! この程度かよ!!!!」
「なわけねーだろ。飽きもせずに何度も突っ込んで来て!!!」
今度は、俺も奴へ向かっていく。
すれ違いざまの一瞬で、勝敗がつく。一撃離脱は俺の十八番だ。
奴の角が目前に迫ったとき、俺は六枚の翼をフル稼働させた。
空中で美しく反転する。そうすれば、俺の全身は奴の下方へ沈みこむ。
「なに!?」
刹那、俺を見失ったギラドアが、攻撃を逃れるため上昇しようとしたとき。
俺の凍気が、奴の下腹部を今度こそ捉えた。
凍結飛竜の口内から溢れる絶対零度が、ギラドアの下腹部を襲う。
「ぐおおお――――――――!!!」
容赦のない一撃に、奴は苦悶の表情を浮かべた。
「ふん!! ちょっとは効いたか!!!」
そのまま、俺は奴と距離を獲ろうとした。
だが、その進路は既に阻まれたいた。
棘の生えたギラドアの尻尾によって。
右目の数センチ横を、棘が霞める。
凍結飛竜のこめかみが切れ、血が右目の視界を汚す。
「う―――!?」
急旋回してよけたが、これで二度目の被弾だった。
そして、この展開は今までにない。
つまり、これが新しいギラドアの試合運びなのだ。
「お前――――ずいぶん、大人になったんだな。辛抱強く敵の攻撃を受ける代わりに、相手にも攻撃を確実に当てて消耗戦に引き込む。以前のお前なら、絶対に採用しないやり方だ」
角獣飛竜の売りは、頑強でパワーのあるフィジカルだ。
以前なら、それを利用したごり押し戦術だけで、奴は闘っていた。
だが、今の奴は違う。
その強靭なフィジカルを受けに利用し、狡猾に消耗戦を展開してくる。
単細胞みたいに突っ込んでくるだけよりも、百倍厄介だ。
頑強さなら、角獣飛竜は現七帝の中でも、三番目か四番目くらいだろう。
その防御力を余すところなく発揮されれば、苦戦は必須だ。
おまけに、俺は怪我人。
正直言って、消耗戦は分が悪い。
しかも、奴はまだ粉塵を使っていない。
あれは連発できるものではないから、最後の切り札なのだろう。
恐らく、こうした消耗戦で戦況を優位にしてから、一気に勝負をつけにくるはずだ。
(ふん。流石に、『皇帝』だな、ギラドア! 以前のお前に教えてやりたいぜ、立派な選手に成長するってよ!!)
半分皮肉でそう思ったが、半分は感心してもいた。
あの自己顕示欲の塊みたいなアニマ―ガスが、強力とはいえどちらかといえば地味な戦術をしぶとく展開してくるのだ。
勝利への意欲と、天空闘竜士としての勝利への執着。
その二つの正しい具現を、『七帝』という称号が可能にしたのだ。
「こんな地味な闘い方は、俺の全く俺のこのみじゃねぇよ。だがな……」
奴は、また旋回してこちらへ向かってくる。
俺を徹底的に消耗させる気だ。
最後の一撃で落とせるようになるまで。
「――俺様は、皇帝だ!!! 七帝には、なにより勝つことが求められるんだよ!!! わかるか、ザザ!!!」
奴の巨躯が、再び俺の目前に迫った。




