↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
73/82

入場

(天空都市群グングニル中央島:第一円形闘技場)


 決戦の日が、やってきた。


 現在、十二月十九日正午五分前。


 七帝ギラドアとの指名戦が、すぐそこに迫ってきている。


 俺は、試合前の控室で、精神を集中している。


 円形闘技場の控室は、地下にあり、そこにまで地上の観客たちの歓声が轟いてくる。


 それは、振動となって、俺の鼓膜と心臓を揺らす。


 ミリアムハートJrのときは、試合は第二円形闘技場で行われた。


 あの闘技場も、勿論充分な設備ではある。


 だが、今日の試合会場は、第一円形闘技場だ。


 第一円形闘技場の設備や広さは、他とは別格であり、その建物は天空都市で最も豪奢で巨大な建築物の一つである。


 第一で競技できる天空闘竜士は、インペリアルリーガーとその対戦者のみだ。


 それ以外は、イベントや式典に使用されることを除いて、第一円形闘技場の闘技空間には、何人もはいることはできない。


 この第一で試合できることは、グラディエーターにとって、誉れでもあるのである。


 それは、最高の闘竜士、及びその挑戦者として、天空都市に認められた証なのである。


 俺は、この舞台に帰ってきたのだ。


 ようやく。


「……ようやく、だな。ここから、全てが始まる。全てがだ。待ちくたびれたぜ」


 俺は、そう静かに控室に語りかける。


 答えるのは、一人しかいない。


「そうで。でも、まだまだよ。それに、そう言う感慨は、試合に勝ってからで、いいわ」


 いつも通り、俺の主治医は、落ち着いた様子で控室の壁に背中をあずけている。


 ミリアムハートJrの時とは違って、今回の対戦で、直接的にキーロに不安要素はない。


 だからか、彼女は以前よりも少しリラックスしているように見える。


 だが、やはりそこには、試合の前の熱狂に浮つきそうな覚束なさがある。


 それは、俺も同じだ。


 だが、だからこそ、俺は神経を集中させる。


 俺が、勝たねばならないのだ。


「……そうだな。その通りだ。でも、この雰囲気を、俺は楽しんですらいる。馬鹿な話だと思うだろ? でも、見栄じゃない。本当にそうなんだ。第一円形闘技場の控室には、そういう魔力がある。戦いに臨むグラディエーターを、否応なく沸き立たせる魔法が、あるんだ」


 俺は、目を閉じたまま、いつになく饒舌になる。


 キーロは、意外そうな声音で、それを受け止める。


「ふうん。大事な試合の前なのに、良く喋ることって、あるのね。それも、七帝との決戦の前に。少し、呆れたわ」


「でも、頼もしくもあるだろ?」


「ばかね。そういうのは、勝ってからいえばいいの」


 盛大なアナウンスメントが、選手入場を知らせる。


 ほとんどの間隔なく、俺達のいる控室のドアがノックされる。


 迎えが寄越されたのだ。


 犀粉帝との試合が、始まるのである。


「時間だ。いってくる」


 俺は、両眼を開き、ベンチから立ち上がる。


 そして、前の試合のときと同じように、ドアノブに手をかける。


「ザザ」


 そのとき、キーロが俺を呼び止める。


 振り向かずに尋ねる。


「なんだ」


 彼女は、慎重に言葉を選んでいる。


 それには、時間がかかる。


 俺は、彼女が選び終わるのを、じっと忍耐強く待つ。


 やがて、待っていたそれはやってくる。




「……勝って。前の試合のときみたいに。信じてるから。あなたが、私の夢を託すに相応しい天空闘竜士だって。そう、信じているわ」




 その告白を、俺はそっと受け止める。


 そして、ゆっくりと身体に浸透させる。


 まるで、お守りのように。


 俺は、ドアノブに今度こそ手をかける。


 ゆっくりと、その冷たい金属を回す。


「わかった。勝ってくる。『扉』は開いたんだ。七帝相手でも、わけないさ」


 自分にもいいきかせるように、俺はなぞるように言い終る。


 そして、ゆっくりと廊下へと続く扉を開く。


「あ、そうだ」


 一つだけ、言い残しておいたことを、俺はやはり口にしてしまう。




「俺も、信じてる。あと……」




 続く言葉が、俺の口から自然にこぼれる。





「お前が――――好きだ」





 そういって、彼女の表情をみないまま、俺は地上へと続く石段へと進む。


 さて。


 言うべきことは、行った。


 後は、試合に勝つだけだ。


 犀粉帝、ギラドア。


 巨大な魔獣。


 角獣飛竜(リノファント・ワイバーン)の、アニマ―ガス。


 現ランク七位の、七帝。


 そいつに、俺は勝つ。


 何としてでも。


 そうすれば、俺は見事に『七帝』へ返り咲くことができ。


 キーロは、大学への推薦状を手に入れられる。


 俺達二人の目標は、いや『夢』は、すぐそこまで近くにある。


 手を伸ばせば、届くところまで。


 だからこそ、俺は足踏みする気はない。


 この千載一遇のチャンスを、何としてでも、手に入れなければ。


 そう、俺は意気込む。


 地上の闘技空間へと続く石段を、一段、踏み締めるたびに、決意が漲る。


 俺は、やるのだ。


 俺を見限った世間を仰天させるために。


 俺の矜持を取り戻すために。


 あいつの夢を、叶えるために。


 俺は、やるのだ。


 一段一段が、こまれでの走馬灯のような感覚だった。


 だが、それもやがて最期を迎える。


 開けた場所に、降り注ぐ天空の光。


 そして、その中央には、割れんばかりの歓声が降り注ぐ。


 俺は、久方ぶりの第一円形闘技場の感触を、確かめた。


 いつも通り、渇いた砂が、俺の足元を支えている。


 怪我をする前と、なんら変わらない。


 その即視感が、俺の気持を高ぶらせる。


 そして、これからはずっと、グラディエーターとして、この地を離れたくないと思う。


 広大な闘技場の内部をみわたし、そして天を仰ぎ見る。


 今日は、快晴。


 決戦には、これ以上ないコンディションだった。


 ギラドアは、まだ入場していない。


 七帝故の、社長出勤というわけだ。


 ふん。面白い。


 その間、俺は第一闘技場の空気を堪能する。


 それは、天空闘竜士として、『氷息帝』が息を吹き返す瞬間の始まりでも、ある。



 ――さあ、来いよ、ギラドア。




(続く)


 


 




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。