↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
70/82

急下降物体捕獲練習

(天空都市群グングニル・中央島南西地区沿岸部:資源利用施設 崖の傍)


「で、やるんだな? これからほんとに?」


 俺は、少しいつもとは違う緊張感の中にいる。


 目の前には、保険のパラシュートバックパックを装備したキーロの姿がある。


 今回の練習は、闘技場でのものとは違う。


 安全な都市内部ではなく、危険な都市外部での訓練なのだ。


 イレギュラーな事態もあり得るし、それにより引き起こされる危険も段違い。


 率直にいって、かなり危険な練習である。


「なあ、キーロ。この練習じゃなきゃ、だめなんだよな」


 俺は、まだ躊躇している。


 今回の訓練は、俺よりもキーロの方が危険だ。


 下手をすれば、天空都市下部に装備されたレーザーに、彼女が焼かれてしまう危険もある。


 無論、何重にも安全策は講じてある。


 だが、万が一のある可能性が、それでゼロになるわけではない。


 俺は、不安だった。


 だが、対照的に、キーロは余裕綽綽である。


 まったく、こっちの心配を、なんだと思っているのだか。


「ある程度の危険――言いかえれば、緊迫感があることが、あなたの新しい力を呼び起こす条件よ。それは、この間の襲撃事件でも、分かったはず。今更、やめるという選択肢はないわ」


 キーロは、意志の固まった視線で、俺を射る。


 やれやれ。


 これは、やるしかなさそうだ。


 それに、俺だって実のところは分かっている。


 新しい力をどうにか一週間後の決戦までに呼び起こさなければ、ギラドアとの試合は苦戦するであろうことも。


 頼みの綱が空振りに終われば、正直、勝つのはかなり厳しい。


 俺の『繰り上げ』とはいえ、ギラドアは列記とした実力者だ。


 七帝の名に恥じないグラディエーターである。


 そのギラドアを相手に、怪我を抱えた俺の現状で、どこまで善戦できるかは、かなり眉唾ものだ。


 だからこそ、俺達は例え危険でも、新しい可能性に欠ける必要がある。


 それが、この危険な訓練というわけだ。


「……オッケー。やろうぜ。でも、安全第一だ。外空のコンディションが悪かったら、すぐに切りあげる。それだけは、徹底しよう。いいよな?」


 俺は、この練習に対する決意を固めた。

 

 そうしなければ、俺は上には昇れない。


 キーロとの約束も、果たせない。


 それに、俺の相棒は、かなりやる気だ。


 それに応えなければ、ビジネスパートナーとして。


「やり方は、午前に説明した通りよ。私が落下したあと、指定の時間を開けて、私を回収しに行く。アタックの限界ポイントは、レーザー標準座標の二キロ前。最初は間隔を短めに取るけれど、回を重ねるごとに、それを長くするわ。いいわね?」


「オーケー。記憶したぜ。必ず、無事にこなしてみせる。やろうぜ、キーロ」


 俺とキーロは、軽く拳を合わせる。


 そして互いに視線を合わせ、頷く。


 準備はできた。


 あとは、やるだけだ。


「それじゃ、一回目を始めるわ。最初の感覚は、二十秒からよ」


「了解」


 キーロが、崖の方に歩いて行く。


 そこから落下した彼女を、二十秒後に追い、俺が無事に回収する手はずだ。


 飛びおりる前、キーロがこちらを振り向く。


「ちゃんと、拾ってよね」


 流石に、キーロだって恐怖は感じるのだろう。


 当たり前だ。


 だからこそ、俺は笑顔でキーロを見送る。


「数十秒後に会おう。任せとけって!」


「わかったわ。じゃ、行ってくる!」


 言下、キーロが天空都市の岸辺から飛び降りる。

 

 すぐに、その姿は下界へ消えていく。


 俺は、流行る鼓動を抑えながら、時間を数えた。


 そして、二十まで数えた瞬間、下界へ飛びこむ。


 落下しながらアニマ―ジュし、飛竜の姿になる。


 そして、数キロ先まで見渡せる視力と、飛竜の勘でターゲットを探し当てる。


 いた。


 数百メートル下に、小さな人型の存在がいる。


 キーロだ。


 俺は、翼を折りたたんで、矢のように彼女へ肉薄した。


 天から降るつららのように、凍結飛竜の身体は加速度を持って、小さなキーロへ接近した。


 距離を詰めることに、そこまで難しさはない。


 問題は、どう捕獲するかだ。


 前にも触れたとおり、飛竜の歯と顎は強靭である。


 口内に柔らかい人間をはさむのは、危険すぎる。


 口よりも、後ろ足で捕獲したほうがいいだろう。


 一カ月ほど前、キーロが例の投身説得を図ったときは、余裕がなくて口で捕まえたが、今回は以前よりは余裕がある。


 後ろ足の鈎爪を、キーロの華奢な肉体に食い込ませないように、最新の注意を払いながら、俺は彼女を捕獲する。


 捕まえた後は、翼への負担がかかり過ぎない程度に、進行方向を下から上へと変換する。


 勿論、このとき、のんべんだらりと方向転換などしない。


 鋭い急旋回(ターン)を使って、俺は巨躯の向きを上へと向ける。


 このとき、身体にかなりのGがかかる。


 たぶん、後ろ足に捕まえられているキーロからすれば、ジェットコースター以上の恐怖があるはずだ。


 それを証明するように、後ろ足の中で悲鳴がする。


 あーあ。かなりすごい悲鳴だ。


 でも、やるって行ったのは、お前だぞ、キーロ。


 一度目の挑戦は、無事に終わった。


 キーロが飛びおりてから、それほど時間を開けていないせいもあっただろう。


 飛びおり地点に戻ってくると、俺はアニマ―ジュを解除する。


「……どうだった、キーロ?」


 俺は平気だが、キーロは少し青白い顔をしていた。


 無理もない。


 人間には酷な環境である外空域で、ジェットコースター以上の最恐アトラクションを体験したのだ。


 こりゃ、俺よりもキーロの身体が心配だな。


 アニマ―ジュしてないただの人間の姿で、どれ程耐えられるのか……。


 俺は、少し彼女のことが不安になり、傍に遭ったバッグから、スポーツドリンクを手渡そうとした。


 が。


 片手をぶんぶんと振って、拒否される。


「いい。吐きそうだから」


「おいおい。まだ、一回目だぜ? 大丈夫かよ??」


 これはかなりの懸念材料だな。


 ここのところ、キーロは受験勉強と俺の主治医としての業務で、ろくに寝てないみたいだし。


 かなり、酷い状況かも?


「一旦、休むか?」


 そう提案する。


「いい。休んでる時間なんて、ない。私達には、後一週間もないのよ?」


 だが、キーロは続行するようだ。

 

「わかった。でも、無理だけはすんなよ?」


「……うん。でも、慣れだと思うのよ。はあ。こんなことなら、絶叫系アトラクションに、ちゃんと乗っいた人生を歩めば良かったわ。初めて乗るのが、これだなんて」


「遊園地とか、行ったことないのか?」


「……私、苦学生だもの」


 そうだったのか。


 まあ、確かに、俺と出会う前のキーロは、あんまり裕福な生活を送ってないだろうしな……。


「ふーん。そうなのか。なら、今度、行ってみないか? 北東地区に、大きいのがあるだろ」


 意外そうに、俺を見つめるキーロ。


「へ? いいの?」


「いいも何も。お前には、返さなきゃならない恩が山ほどある。安いもんだよ、遊園地くらい」


 キーロの瞳に、少しだけ生気がよみがえった。


「そう……。じゃ、行ってあげてもいいわよ。受験勉強の息抜きにね」


「おう。任せとけ。あそこ、いい絶叫系が沢山あるんだぜ?」


「それは、もういい。もっと、和やかな時間になるようにして」


「そうか?」


「そ・う・よ!!」


 まあ、さっきとんでもない絶叫マシンに乗ったばかりだからな。


 こう思うのも、当然か……。


「さて、無駄話は、お終い! 二回目、行くわよ」


 キーロが、雄々しく立ちあがる。


 だが、まだ足取りは頼りない。


「それで、行けるのか?」


「い・け・る・わ・よ!! 自分で言いだした練習だもの。投げ出すわけないでしょ」


 俺は、キーロのこう言うところを尊敬してる。


 彼女は、ネガティブな言動をほとんどしない。


 常に、前向きだ。


 俺は、彼女のそういう長所に、助けられてきた。


 今も、そうだ。


 だから、せめてこいつの足を引っ張ることだけは、しないようにしたい。


 それだけじゃなくて。


 いつか、キーロが俺をもっと頼ってくれるように、なればいいのになぁ。


「よし! じゃ、二回目だ。次のタイミングは、どうする?」


 以上のような思いを隠して、俺は主治医に負けないように、元気よく意気込む。


 新しい扉への暗中模索は、始まったばかりだ。



(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。