飛竜同士の闘い
(天空都市群グングニル中央島北東地区:第二コロッセウム)
光が二人のアニマ―ガスを包む。
その閃光は徐々に拡張していく。
定まった形をつくる。
飛竜の形だ。
輝きは上空まで舞い上がり、そして弾けた。
残光の後には、二頭の飛竜だけが残される。
片方は白銀の凍結飛竜。
もう片方は、表面を渦巻く風に覆われた嵐飛竜だ。
ミリアムハートJrの変身後は、灰色の風に覆われている。
そのため、濃灰のカーテンに仕切られているように、奴の本当の姿は、見ることができない。
「ずいぶん厚着姿だな、Jr! それとも、キーロに感づかれた事実をその風の奥に隠しているのか?」
上空で睨みあいながら、俺は嵐飛竜に話しかける。
「はん。喋る必要はねぇ。知りたきゃ、自力で調べろよ、手負いの氷息帝!」
「言われなくても、そうしてやる」
「できれば、だがな!!」
奴がこちらへ突進してくる。
先遣隊として、奴の放った疾風が俺に殺到した。
俺は急上昇し、その攻撃をかわす。
俺の真下を、触れれば切れるような灰色の風が通り過ぎていく。
だが、それを見ている暇はなかった。
奴は、風を避けた俺の居場所に、先回りしていたのだ。
「甘いな!!」
ミリアムハートJrの竜巻・ブレスが、俺を狙う。
決定的な時間差攻撃に思えた。
しかし――。
俺はさらに上昇し、奴の放ったブレスを腹鱗すれすれに交わす。
そして、奴の頭上をとった。
「何だと!? 上!!?」
「甘いのは――お前だ!!」
六枚の翼を総動員し、奴の頭上で一回転する。
俺の尾打撃が、ブラストワイバーンの脳天に決まる。
奴は数メートル下降して、その衝撃を殺した。
手ごたえのある一撃だったが、決定打にはなっていない。
寧ろ、奴を本気で怒らせたようだ。
ミリアムハートJrが風の間から覗かせる赤い目が、完全に殺気だっている。
「……氷息帝。あんた、そういえば言ってたな。俺に皇帝の力を見せてくれるんだって? それがこれかよ?」
獰猛な唸り声をあげる奴にに、俺は沈着に言い返す。
「安心しろ。これぐらいで済まさない」
「そうか。じゃあ、やってみろ!!」
今度は、さっきよりも強力かつ多量な疾風が俺を包囲した。
前面の何処にも逃げ場はない。
どうやら、奴は本気で俺を沈める気になったようだ。
「ハハハ!! どうだ、これなら逃げ場はないぞ!」
勝ち誇った奴の咆哮が聞こえる。
俺は、肉薄する何十本もの疾風のうねりだけに、集中する。
そして、見つけた。
「そこだ!!」
俺は六枚の白銀翼を折りたたみ、一本の矢となって、風に向かっていった。
強烈な風速が、俺を通り過ぎる。
だが、それだけだ。
風に煽られバランスを崩すこともない。
真空波に切り裂かれることもない。
俺は、真空波と疾風の混じる攻撃の面から、疾風だけで構成される場所を特定し、奴の攻撃をいなしたのだ。
そして、その風の壁を超えた先には、無防備な奴の姿がある。
「なに!? 無傷だと!!?」
虚をつかれたミリアムハートJrの腹部に、弾丸のように頭突きを喰らわせる。
「油断したな、Jr!!」
「ぐほおっ!!!」
灰色の獣は、苦悶の唸りをあげて、コロッセウムの壁まで吹っ飛び、衝突した。
「やったか!?」
今度は、確かな手ごたえがあった。
だが、舞い上がったほこりの向こうから、今度は真空波だけで構成された嵐が俺に迫る。
奴は健在だ。
流石に、ランク11位のグラディエーターである。
今の一撃だけでは倒せない。
「やってくれるな、手負いの分際で!! この俺様に!! ニ撃も!!!」
怒りにまかせた奴の攻撃は、怒涛の嵐のようだ。
ブリザード・ワイバーンは、上へ下へ左右へと曲芸飛行し、その竜巻を紙一重で交わしていく。
「ハハァ!! 切れろ、切れろォォ!!」
奴の翼が繰り出す真空の斬撃は、徐々に俺を闘技場の端に追い込んでいく。
このまま、逃げ場をなくし、俺を切り刻む魂胆なのだろう。
さっきのような風を潜る手も使わせない気だ。
嵐飛竜は、執拗に真空波だけで俺を追いこんでいく。
俺はなんとか雨粒のように飛来する斬撃をかわしていたが、徐々に自由がなくなってきた。
何度かに一回、鱗にかすり傷がついたり、羽毛の端が斬られたりしている。
その様子を見て、ミリアムハートJrは、自分の勝利を確信らしい。
「どうした氷息帝!! さっきまでよかった威勢はどうした!? このまま切り刻まれるだけか!!」
奴の放った会心の一撃が、凍結飛竜の脇腹をかすめた。
最小限の被害に抑えられたが、傷口から鮮血が滲む。
その血が灰色の獣を、より興奮させたようだった。
狼のような唸り声をあげ、留めの一撃を放つ。
「沈め、氷息帝!! ――『巨鎌灰嵐』!!!」
言下、処刑人の大鎌そのもののような風の斬撃が、俺の首を狙って放たれる。
コロッセウムの壁ごと巻き込んで、その凶悪な一撃が着弾した。
着弾した周囲を、埃が包む。
円形闘技場に、仮初の静寂が訪れた。
試合の実況が、ミリアムハートJrの勝利を伝えようとした。
灰色の嵐を纏った飛竜は、勝ちどきの咆哮をあげる――。
――はずだった。
ピキ、ピキ。
その音が、試合の継続を最初に知らせる。
氷が張っていく音だ。
その勢いは、徐々に増していく。
ビキビキビキッ!
まるで、氷の拡張する中心部には、繭がある。
周囲の空気すら凍結させるな冷気で、その強固な防御繭はできていた。
そして、その繭から、一縷の冷気が放たれる。
そのエネルギーは一直線に殺到した。
自らの勝利を確信したミリアムハートJrに向かって。
「なに!?」
氷の繭から放たれた凍結ブレスが、奴の胸に着弾する。
「ぬおっ!!」
その冷気は、奴が周囲に纏う灰色の風を凍らせ、砕いた。
「俺の言葉を忘れたのか。いったろう。皇帝の力を教えてやると」
ブレスの源である繭が割れ、その中から無傷の俺が出てきたとき、円形闘技場は静寂から解放され、蘇生したように歓声で沸いた。
最後の一撃が決まる寸前、俺は冷気の繭を纏い、堅牢な要塞に籠ったのだ。
そのおかげで、こちらに新たな傷はない。
体力は、かなり消耗した。
だが、それは最上の一撃を無傷で切り抜けれられた相手も同じことだ。
「があぁッ! クソ!! 俺の鎧が!!!」
「ニ撃目を入れたときに気がついたぜ、Jr。お前が待とう風は、打撃に対しての緩衝材だったんだな。だから、まともに食らったニ撃目の後もピンピンしていた」
だが、自慢の鎧は、俺の凍気によって固形化し、崩れて剥がれ落ちていく。
「はあ。はあッ! ぐおォオオ!!!」
嵐飛竜が雄たけびを上げる。
全ての風鎧が凍結し、剥がれ落ちたのだ。
これで、隠された奴の正体が、明らかになる。
キーロが気づいたという、謎の波動。
その正体は、一体なんだというのか。
ばらばらと、灰色の氷が剥がれ落ちた後、俺はその姿を目にする。
その姿は、やはり親の姿とは異なっていた。
思えば、ミリアムハートSrの両目は、青色だったのである。
風の鎧の奥から覗く赤い両眼で、気づくべきだったのかもしれない。
「――その姿。お前……」
ブリザード・ワイバーンの精悍な眼が細められる。
鎧を失い、真実の姿を円形闘技場に曝した嵐飛竜は、低い嗤いをあげた。
「――ふ。ふふ。この姿を明らかにした奴は、お前が始めてだ、氷息帝」
奴が血走った両目を向ける。
「その代償を払え! お前の選手生命でな!!!」
見たこともない姿の飛竜。
奴は、俺に最後の攻撃を仕掛けた―――。
(続く)




