表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/82

台風の目

(天空都市群グングニル・中央島北西地区:第三・コロッセウム周辺)


 カプセルホテルに一泊し、12月2日の朝を迎えた俺は、この第三円形闘技場でキーロと合流した。


 早朝から、ここで訓練するためだ。


 俺は今、555位のノーマルプロ。


 そのランクに与えられる練習場は、試験会場と同じ第三コロッセウムである。


 スーパーリーガーになれば第二、インペリアルリーガーになれば第一が使える。早く、第一とは言わずとも、第二円形闘技場くらいは使えるようになりたい。


 第三コロッセウムも、広さ的にはまあまあなのだが、人口密度に余裕がない。


 俺の変身後の姿である、翼長27メートル、体調17メートルのブリザード・ワイバーンが飛びまわるには、少し窮屈なのである。


 なので、人のいない早朝四時から、俺達は訓練に励むというわけだ。はあ。眠いなぁ。


「はい! 人型練習ウォームは此処までよ。次、変身訓練(アニマ―ジュ)!」


 号令のホイッスルを、キーロが鳴らす。


 やっているメニューは、リハビリのときと同じものだ。だが、消化速度は格段に早くなっている。


「おう! 人のいないうちに、飛んでおくぜ!」


 俺も明朗に応えて、アニマ―ジュを完了させる。


 一気に上空まで舞い上がり、準備がてらにコロッセウムを数周する。


 朝の新鮮な空気が、俺の巻き起こす風圧によってかき乱される。


 舞い上がる砂塵も、最北島の新雪のように真新しい。いい気分だ。


 と、ここでキーロの笛がまた俺に注意を促す。


「なに締まりなく悠長に飛んでるの! それで七帝に返り咲くつもり? さっさと、外周してきなさい! 二十分よ!」


 この場合、中央島の沿岸にそって、一周二十分で飛んで来い、という指示だ。


「何周だ? 四か?」


「四じゃダメ! 六よ!」


「うへえ。それで二十分かよ」


「泣き言はいりません。もう、時間測ってるから」


「厳しいねぇ。行ってくる!」


 俺は第三円形闘技場から飛び去って、真っ直ぐに北西の沿岸地帯を目指した。外周トレーニングは、そこから始まる。


 不可視の保護膜を抜けて、天空都市の外側に出る。


 そこは、上空数万メートルの厳しい環境だ。雲すら俺の下界にある。


 酸素が薄いこの環境で、身体能力を鍛えることが、キーロの狙いだろう。


 なんとか、毎周ニ十分で五周したあと、燕返し(ターン)や急旋回ロールの切れを確認して、今日の訓練は正午くらいに終了した。


 午前中で訓練のを終わらせたのには、理由がある。


 午後は、指名戦を受けてくれる対戦相手を探すのだ。


 なんでも、キーロは午前中、競技協会に申請書類を出していたらしい。


 俺が外周でいない間に、申請しに行ったのだろう。


 勿論、申請書類とは、指名戦の申請書類である。


 有り体にいえば、「ザザと対戦希望の選手は、ぜひ名乗り出るように」という張り紙を、専門の掲示板に張り出すのだ。


 指名戦が成立するには、直接お互いが合意するか、掲示板を見て希望の相手を選ぶか、二通りがある。


 この場合は、後者だ。俺よりもランクの高いスーパーリーガーを、今回は指名している。


 掲載された申請書をみたスーパーリーガーの誰かが、指名戦を承諾し、協会にその旨を伝えれば、条件の確認作業を経て、指名戦が成立する。


 さて、俺の申請書が張り出されたのが、今日の朝十時。


 市庁舎前の専用掲示板に着いたのが、昼の十二時半。


 まだ二時間ほどしか経っていないが、誰か承諾者がいるかもしれない。


 期待に胸を躍らせて、キーロと掲示板をのぞきこむ。



 ……が。結果は空振りだった。



「……ないな」


「ないわね。署名が。張り紙が触られた痕跡すら、ないわ」


「参ったな。張り紙の位置、間違えたんじゃないのか?」


「そんな訳ないでしょ! 私を疑うつもり?」


「いや、そうじゃないが……。もっと、目立つ場所に張ってもいいと思うぞ?」


 キーロが掲載した俺の用紙は、巨大な掲示板の右隅に追いやられている。


「あ……。そうかも。申込者が殺到すると、それはそれで困るから、わざと人目につかない所に、張ってみたんだけど……」


「裏目に出たな」


「うう」


 キーロは、天才だがこういうところは少しドジだ。意外な弱点である。


「まあ、まだ掲載されて二時間だ。焦ることはない。真ん中らへんの空いてるスペースに張り直して、誰か承諾者がいないか、待ってみよう」


「そこのベンチで? いいけど。寒いわ、私」


「着込めばいいだろ?」


「気のきかない人ね」


「……。つまり。飲み物を催促してるのか?」


「温かいの。ロイヤルミルティーよ。あと、微糖。カロリーもオフのやつにして」


 全く。俺は相変わらず小間使いさんだ。


「はいはい。分かりましたよ」


 この付近に自販機はない。


 確か、市庁舎の中にあったはずだ。休憩スペースに、数台置いてあるだろう。


「ちょっと行ってくるから、変なのに絡まれるなよ」


「失礼ね。私、これでも大人なんだから。もう十七歳。成人なのよ」


 確かに、天空都市の成人年齢は満十七歳だ。


 だが、自信満々のキーロをみると、何となく不安になる。


 こいつ、一応、そこそこ小奇麗な顔だからな。なんとなく、精緻な人形然とした雰囲気があるし。


 それに魅せられる男がいないとも、限らない。……俺は魅せられないけど。


 それに、十二月ねんまつは恋愛シーズンだ。ナンパされないとも限らない。


 ……ま、心配のしすぎか。


 こいつなら、軽いナンパくらい、あの電気ショックで撃退できるだろう。


「早く買ってきなさい。乙女を凍えさせるつもり?」


 キーロが催促する。二度目だ。


「わかった。いってくる。そこにいろ」


 俺は、自分で浮かびあがらせた不安を自分で始末し、自販機へ歩き出した。


 思った通りに、市庁舎の休憩スペースに、自販機はあった。


 ロイヤルミルクティーもある。これは、キーロの分だ。


 俺は、青汁に飽きていたので、ミネラルウォーターを買った。


 熱々のミルクティーを右手、冷たい水を左手にもち、キーロの元に帰る。


 代金は、俺持ちだ。そろそろプロとしての給料が振りこまれないと、財布事情がさびしいってのに。


 まあ、嘆いても仕方ない。次の指名戦で、勝てばいいのだ。そうすれば、プロとしてのファイトマネーが、懐に入る。財布も分厚くなる。色々買える。万々歳だ。


 最初のファイトマネーで、バイクでも買おうかと夢想していたとき。


 俺は、異変に気がついた。


 キーロが、背の高い男に絡まれている。


 男は一人だ。ブロンドで、洒落たコートを着ている。


「もう、興味ないったら! あっちへ行って!!」


 キーロは辛辣な態度をとっているが、男はどこ吹く風だ。


 慣れた様子で、キーロに話しかけている。


 へー。ほんとにいたんだな。キーロをナンパする奴。


 感心してる場合じゃない。助けないとだめだよな、やっぱり?


 でも、ナンパ男が電撃に痺れる様も見てみたい気もする。


 あ、待てよ。隠れて見てたことがばれたら、俺も一緒に電撃の餌食になりそうだな。


 ……うむ。助けよう。情けは人のためならずだ。


 そうおもって駆け出した一歩目。先にキーロが帯電する指をナンパ男に向けた。


 一瞬、手遅れだったかと脳裏で呟きかける。


 ――だが、その指は空を切った。


 見切られていたのだ。手のうちを知らないのに、男はキーロの手首を掴んで止めている。


 すごい動体視力と反射神経だ。


 タダものじゃないな。


 しかも、空いている方の手で、ナンパ男はキーロの顎を持ち上げている。


 あー。なんだっけ、あの動作。たしか、地上界の極東地域一部で一時期流行ったやつだ。


 思い出した。顎クイだ。顎クイ。初めて見たな。


 いや。感心している場合じゃないか。


 唐突過ぎてどう反応すればいいか分からなかったが、こう反応するのが正解だろう。


「おい! 何して――」


 颯爽と登場しようと思った。


 が、その瞬間、今度は男に塞がれていない反対の手で、キーロが不届きものに電撃を流し込む。


 男は悲鳴をあげた後、地面に倒れた。そうとう加減なしで打ち込まれたのだろう、男の全身から煙が立ち昇っている。


「ふん! このスケベ!! 地獄に落ちなさいよ、ナンパ野郎!」


 やっぱり、キーロに護衛は必要ないな。こいつ、人間の姿なら最強だ。


 電撃に痺れたナンパ男は、暫く痙攣していたが、しばらくして回復したようだ。


 金髪のナンパ男が、ゆっくりと立ち上がる。


「痛えなあ。利き腕だけじゃないのかよ。顔に見惚れてる間に、油断したわ」


 ハスキーで淀みのない声だ。しかも、声の端々に自信が満ちている。


 何事もなかったように、頭をかく金髪。キーロの電撃から、もう回復している。


 こいつ、相当タフだな。何者だ?


「ふん。さっきのでわかったでしょ。私、興味ないから。何処へでも消えて」


 キーロが俺の凍結ブレスより冷たい目で、金髪を睨む。


「気の強い女は、タイプだぜ。おまけに、才能もあって芯もあるタイプはな」


 冷たい眼で睨まれても、金髪は意に介しない。


 奴は、正面からキーロを見つめた。


 獲物を狙う獣の目で。


「それに。俺を無視する女は、久しぶりだぜ。この、グレイ・ミリアムハートJr様を無視する女はな」


 ミリアムハートJrだって!?


 知っている名だ。


 スーパーリーグで台風の目となっている男。


 それが、この金髪の正体だったのか。


 その金髪ナンパ男――ミリアムハートJrは、キーロを獲物でも眺めるように、凝視していた。





(続く)


 


 

 


 

 


 


 


 


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ