司祭との決着
遅れました、すみません
これから急展開を迎えますが、落ち着くまでお付き合いいただけると幸いです
俺とコケッティは一時間以上も戦い続けていた。
コケッティの創造した空間に綻びが出るくらいには激しい戦闘。俺は魔力回復薬を全て使い切り、第四術式がなければとっくに死んでいた。
逆にコケッティは魔力量が桁違いに高いのか、回復せずに俺とやり合っている。
「……ハァ……ハァ……!」
「……チッ、クソがっ!」
呼吸の荒い俺と、苛立たしげに舌打ちするコケッティ。闘鬼術式はスタミナの消耗が激しく、解除してある。正直言ってここまでの長期戦になるとは思ってなかった。俺もそれなりに強くなって、相手は戦闘が本分ではない教祖。いくら相手の方が長く異世界にいるとはいえ、戦闘向きと言っていい俺が魔力回復薬を何本も使ってここまで引き分けている。
コケッティもそれ程余裕はないみたいだが、かと言って俺に余裕がある訳でもなかった。
どっちも、ギリギリ。残った魔力で何が出来るかを計算しなければならない。その上で相手の手の内や思考を読んでビジョンを立てなければ、勝てない。
コケッティについて分かっていることは、以下の通り。
雷系統しか使わない(使えない?)。防御より攻撃。槍捌きはまあまあだが、上手いと言う程でもない。どっちかというと魔法使いタイプ。雷を連発してくる。戦闘の臨機応変さは低め。
こんな感じだ。つまり近接戦闘を基本として挑めばいいってことだ。だがコケッティはおそらく俺がこう読んで動くことを読んでいるので、さらに裏をかかなければならない。……かなり面倒だな。
手の内を晒したという点では俺も同じ。コケッティも呼吸を整えながら策を練っているのだろう。苛立たしげな表情ではあるが、その瞳は冷静に俺を見据えていた。
……俺も冷静にならないと。力押しだけで勝てる相手じゃない。相手が雷しか使わないとしても、土だけ使っていれば勝てるという訳じゃない。現にここまで耐え切られている。まあ土系統を使った場合の傾向も見えてきた。ならそれをしっかりと活かすべきだろう。
「……大地結龍……っ!」
大地結龍は途轍もない技、という訳ではない。確かに地面から無数の土で出来た龍が出現して襲いかかってくるのは迫力がある。地面から土を貰って生成するような形なので、大地と繋がった龍に呑み込まれて一つになってしまえ、という意味合いで名づけた。
「……チィ!」
コケッティは舌打ちしつつ回避を選択する。コケッティは雷や雷の力を増幅させるらしいアンドゥー神装で土系統をくらうのは、ダメージを殺し切れないどころか弱点なので大ダメージになりかねない。
必然的に回避が多くなる。たまに槍や雷で攻撃し相殺するのも対処の一つだった。
「……岩石流星群!」
名前そのままだ。岩石を流星群のようにたくさんドカドカと降らせるのがその内容になる。
「ウゼえんだよ!」
コケッティは吐き捨てて槍を薙ぎ払い、激しい雷撃を放って岩石流星群を相殺する。
「そっちこそ、さっさとやられろ!」
俺は言い返して大地槍を放つ。土で出来た巨大な槍だ。攻撃に攻撃して相殺するのは回避に次ぐ常套手段。特に雷単体ではなく槍を使っての強烈な一撃をぶつけてくることが多い。……それでも魔力切れがないんだから不思議だ。もしかしたら魔力供給装置でも作ってあるのか? あり得るな。こいつ、武術っていうよりも科学とか研究に力を注ぐタイプだし。色々人工魔物についても研究してた訳だからな。
それかあのアンドゥー神装が教徒の魔力を供給させる効果でもあるか、だな。いくら何でも魔力が多い方だと初期のアーティアが言っていた俺の、何倍もの魔力を保有している可能性は低い。
「……それなら……っ! 断絶結界!」
結界術式という結界を張るために考えた術式だ。思いついたのはディメスの結界を見た時だが。
「なっ……!」
広範囲に張った薄い膜を見て、コケッティが驚愕する。断絶結界は結界外との空間を断絶する結界で、俺は奴隷達との念話が出来なくなるし、コケッティがもし魔力供給装置を作っていたのなら、供給されなくなる。
「……うぐっ!」
あからさまにガクンと魔力が落ち、その反動でかコケッティが呻く。どうやら成功だったらしい。断絶結界は結構な魔力を消費するからな。第四術式は解除するしかない。
「終わりだ!」
コケッティに隙が生まれたので、勢いよく突っ込み鎌で切り裂こうとする。
「……てめえがな」
だがコケッティはガクンと魔力が下がったものの、突っ込んだ俺に対して槍を突き立てる。……右の脇腹を槍で貫かれる感覚は、正直言って説明したくない。脇腹の肉がごっそりとなくなり、焼けるような激痛がずっと襲ってくる。生温かい血が俺の右脚を中心に覆ってきて、悪寒が背中を這い回った。
槍の突き刺しは、激痛を与え続けることが可能で、さらにいえば横に薙ぐことで脇腹を削り取ることも出来るいい手だ。
「……終わりだって、言っただろ!」
俺は第四術式を解除した状態でよかったと思いつつも、激痛に顔を歪めながら鎌を大きく振り被り、コケッティの小柄な体躯を深く袈裟斬りする。ドバッと鮮血が溢れ出し、目を見開いて槍を手放し後退するコケッティ。……何とか出来たが、痛みなら血の出すぎやらで厳しい。意識が霞む。血を流しすぎたか。
第四術式は魔法と違って、効果を発揮する時に魔力が消費される。闘鬼術式だと魔力ではないが、常に消耗するタイプ。単発の魔法だと、基本的発動に魔力が消費される。
つまり第四術式を発動していた場合、槍で貫かれると身体を再生させようと常に魔力を消費し続けてしまう。痛みを我慢する必要はあるが、解除しないと無駄な魔力消費が多くなってしまう。
「……てめえ……っ!」
コケッティは鎧ごと切り裂く鎌単体でも高性能だということに俺が内心驚いていると、ギロリと怒りの形相で睨みつけてきた。俺は槍を引っこ抜いて第四術式を使い、傷を治す。ぽいっと槍は投げ捨ててやった。ちゃんとコケッティが拾いに行かないよう目を光らせたので、コケッティは一瞥したが追わなかった。
「……俺だってあんま魔力使いたくないんだよ。だから物理で当てられるようにしたって訳だ」
まあ、ゴリ押しでも攻撃出来たかもしれないが、相手の攻撃をくらうというのは相手に一瞬の隙が生まれるタイミングでもある。殺人に特化した者なら兎も角殺しとは無縁だった俺や、ましてや戦いを本分としないコケッティが相手なら、生まれるだろう隙。ヒット・アンド・アウェイに徹されていたら無理だっただろうが、コケッティも魔力が供給されなくなったか何かで焦りを覚えた。それが功を奏し、見た目では俺が有利の状態に持ってくることが出来た。
ただ、魔力量が残り少ない。
「まあ、俺が傷を負ったところでハンデにもならねえな。てめえがどう推測したかは大体分かる。俺が魔力を供給する装置を作って、その装置とのリンクを切るためにこれ発動したんだろうけどな。ほぼ当たりだ。だが俺は今まで供給された魔力しか使ってねえ。つまりてめえは今魔力が切れそうで、俺は魔力が満タンな状態って訳だ」
魔力のアドバンテージがあるせいか、コケッティはベラベラと喋り出す。
「……そうかよ」
確かにコケッティの言う通り、俺の魔力切れは近い。だが魔力総量がガクンと落ちた今のコケッティが相手なら、いけない訳でもない。アンドゥー神装もそう長くは持たないハズだが、その前に俺の魔力が切れる。早々に勝負を決めなければ。
「おら、くらえ!」
コケッティは激しい落雷を放ってくる。俺は仕方なく回避を選択する。……出来るだけ消費は抑えないといけない。攻撃より回避の方が魔力の消費が少ないからな。
コケッティの魔力が切れるまで回避し続けるのは、難しいし危うい。
「……ここは近接か」
魔法合戦なら同等になってしまうが、近接なら戦闘向きの俺に分がある。格闘技は一通り齧ったしな。
「はっ! 近付けさせるかっての!」
コケッティは俺が接近戦に出ることを読んでいたのか、遠ざかりながら雷電で攻撃してくる。……近接するには、まずは雷電を掻い潜るしかないか。
ガイアの鎌には雷を弾く効果もあるため、普通の雷系統魔法なら弾ける。だがコケッティの持つ槍も同じく神器であり、完全には弾けない場面もある。
しかし俺にも余裕はない。のんびりしてられない。
「……チッ!」
鎌を携えて直撃しそうな雷だけを弾き、高速で飛翔しコケッティの下へ次第に近付いていく俺を見て、舌打ちした。
「はぁ!」
岩石流を伴って鎌を振るう。無数の岩石をコケッティに向けて放ち、いくつか当てる。直撃だけは避けられたが、よろめくコケッティ。俺は好機と見て一気に肉薄する。
「はあああぁぁぁぁぁぁぁ!」
突っ込み交錯する瞬間にコケッティへ鎌を当てる。肉を切り裂く手応えが残り、刃に鮮血がこべりついていることを確認し、脇腹を深く切り裂いたことを把握する。
「……あ……ぐっ」
鮮血が噴き出し空中でフラつくコケッティは、左脇腹に手を当てヌメリとした感触の液体に顔を歪める。
「……クソが」
吐き捨てるが、俺に雷電を放つことで魔力は消費され、元々戦闘が本分ではない。墜落しそうな雰囲気さえあった。ヨロヨロと飛び、しかし顔面蒼白の状態で俺から離れていく。……今更逃げようってのか。
「……コケッティ。てめえは俺の仲間に手を出した。そのことを、精々死んでから悔いろ!」
俺はおそらく、冷徹な目をしていると思う。他人の命は平気で奪う癖に、自分の命が危うくなったら逃げようとする。惨め極まりない行為だ。
「……や、止め――っ!」
大上段に鎌を振り上げ、逃げるコケッティの背後からトドメを刺そうとする俺を振り返り、コケッティは恐怖に引き攣った顔で命乞いをしようとしてくるが、無視。……てめえに生きる価値なんてねえよ。俺は英雄じゃないが、おそらく貴族よりも平民が多い。それを考えて英雄を名乗るべきだったな。
「……終わりだ」
俺は怒りを滲ませた顔ではなく、冷徹な無表情でコケッティに鎌を振り下ろす。少しの確率でも仕留め切れないことがないように、残る全魔力を込めた一撃だ。
「……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
山が円柱となって落ちてくるような一撃をまともに受けたコケッティは潰れ、地面に叩き付けられる。
「……ぁ」
俺は魔力が切れて発動していた術式が消え、ガイアの鎌も虚空に溶けて消える。飛行状態を維持出来なくなり、真っ逆様に地面へと落ちていく。……もしかしたらこれで死ぬかもしれない。けどまあ、いいか。きっと皆には怒られるだろうが、コケッティは倒したことだしな。
流れていく景色が地面に近付いていることを知らせてくる。
「……まだ、諦めるのは早いんじゃない?」
聞き慣れた声が、耳に入る。
高速で落下していた俺の身体が、何者かに受け止められた。出来るだけ優しく、俺の身体にダメージが少ないように。
「……フィネア」
俺は視界に入った、俺を抱き止めてくれた者の名前を呼ぶ。その後ろには駆け付けてくれたらしい他の皆もいる。
「あーっ! それ、私の役目ですよ!?」
頬を膨らませてプンプンと怒るのは、メイド服姿のアーティアだ。
皆ボロボロで、魔力も残り僅か。でもその表情は晴れやかで、結果がどうなのかなんて聞く必要もなかった。
「……悪い、助かった」
俺はフィネアに礼を言って、立たせてもらう。
皆が口々にカオスを倒した一番の立役者は自分だと言い張るのに苦笑し、俺達は束の間の安息に談笑していた。
「? おかしいですね。始祖が創った空間なら、死によって消えるハズですが」
アーティアが、きょとんと首を傾げて言った、その時。
「「「……っ!?」」」
空間を裂く嫌な音が聞こえて、虚空より大軍が出現する。
「……何――っ!」
俺は目を見開いて驚愕する。一体一体が、今の俺より強い。俺は仮にも英雄で、召喚された身だ。ある程度は強い気でいる。魔力が途轍もなく、幾万の軍勢を見て戦おうと思うヤツも、勝てると思うヤツもいなかった。万全な状態ならまだしも、皆が皆魔力切れやそれに近い状態。
絶望的だった。
「アンドゥー教始祖兼司祭、コケッティ・コケトリオⅧ世ッ! 貴様を倒したというシューヤよ! 我らは魔界の王が一人ベルゼブブ様に選ばれた精鋭部隊ッ! 貴様らを滅しに来た!」
いつかの戦った悪魔。その特徴と一致するようなヤツが多く、凶悪そうなモンスターや魔族と呼ばれるヤツらもいる。
……俺を、殺しに来たってのか。そういや、レッサーデーモンだかそんなヤツと戦ったな。タイミングが良すぎる。クソッ、こっちの状況を把握してやがったのか。しかも空間を乗っ取ってここにいるんじゃねえだろうな。
「……マズいな」
俺は呟く。皆の顔も険しく、いい状況でないのは理解出来た。
「……ヘラ。邪魔だ、潰せ」
「はいっ、ご主人様っ♪」
そこに冷静な声音と嬉しそうな声音が続いて聞こえ、軍隊の前半分の真ん中辺りの上空に、黒い塊が出現する。
「……ダークネス・スフィア」
呟きの直後に膨張する黒い塊。
「……は……?」
俺は呆然としたのも無理はない。それだけで、黒い爆発は全てを呑み込み軍勢の半分を、いとも簡単に消し去ったのだ。
「あんまり人間を苛めちゃダメよ、魔王さん」
「……余計な口を叩くな、ヘラ」
「……あんっ♪」
余計な口を叩いて尻を叩き、叩かれた方は嬉しそうな声を上げる。
ドSとドMの変態コンビ、参上である。




