星銀河組壊滅
「……ごめんなさい!」
一人の少女が謝りながら――超絶的な大爆発を起こす。
「ぬおおおぉぉぉぉぉぉ!?」
「ほ、本気で殺す気ですか、お嬢!」
それに逃げ惑う強面の恐竜っぽいモンスター達。
「……で、でも、もう完全に人工魔物に身体を乗っ取られて戻らないんですよね? ――それなら、私が責任を持って殲滅します!」
ウェーブのかかった金髪に碧眼をした巨乳美少女が、怖そうな恐竜のようなモンスターの蹂躙しようとしているという光景が、そこには広がっていた。すでに何体かは被害が出ていて、焼け焦げた者や潰れている者など、様々である。
「で、でも重力とか隕石とか、痛いっすよ!」
「じゃあ消し飛ばします! スーパーノヴァ!」
一体の抗議を聞き入れた美少女、メティラティは両手を前に伸ばし、群れ近くの虚空に何やら赤い球体を作り出す。
「……そ、それはヤバ――」
その近くにいた一体が恐怖の顔をするが、それは止まらない。むしろ大きくなっていき、しかし一気に収縮される。そして次の瞬間には、物凄い轟音と熱風と衝撃を撒き散らし、それが大爆発を巻き起こした。
その半径二十メートル以内にいたモンスター達数体がそれに呑まれて消し飛んだ。
もちろんその爆発はシューヤ――緋崎柊耶やリフィア――咲崎夕美のいた世界で住んでいた地球の外側、宇宙で起こる超新星とは違う。原理は兎も角規模は桁違いに小さい。
家族のように今までを過ごしてきた者達を殺すのに心を痛めながら、メティラティはそれでも逃げようとはしない。
自分にこの場を任せてくれた少年に報いるためでもあったが、目の前にいる家族のような者達は自分がやらなければ、という思いがあった。
メティラティは重力加算、隕石落下、超絶爆発を巻き起こして仲間を蹂躙していきながら、昔のことを思い出していた。
▼△▼△▼△▼△
メティラティはメテオグラビトンレックスの突然変異として、星銀河組というヤクザの家系に生まれた。
代々当主を継いできたのがメティラティの祖先ということになる。現当主である父親とその父親を尻に敷いていいように扱う母親の間に生まれた。二人は突然変異として人の姿をしたまま生まれてきたメティラティを受け入れてくれ、一度真の姿を見せた時も驚きはしたが拒絶したりはしなかった。
次期当主または次期当主の妻としてメティラティは大事に育てられてきた。
だが突然変異として生まれてきて真の姿では母親の胎内から出られないため人の姿を取り、メテオグラビトンレックスとしては異形にして最強の力を持つメティラティは人の姿を取ることでスペースを確保し力を制御して抑えている。その事情を知らない組の者では敬遠され、抗争をしている他の組からは出来損ないだと思われているのか誘拐や殺害の的になっていた。
そのため危険だと思った両親がメティラティを安全な場所にいるように義務づけた――監禁だ。
メティラティの世界はこの頃から一つの小さな部屋だけになってしまっていた。
だが激しくなる抗争と忙しくて疎遠になっていく両親とは別に、父親の弟である叔父が聞かせてくる旅での出来事に心をときめかせていた。
叔父は人間の姿を取って人間と共に行動したり一人旅をしたりと世界中を歩き回っているような人で、メティラティにとって知らなかった広い世界についての話は何とも興味深いモノだった。
幼心に自分も叔父のように世界中を旅して回りたいと思ったこともある。だが今は両親や組の者に守られ自分一人では狩りも満足に出来ず、第一この部屋からは出ることも出来ないと、諦めていた。
だがある日、そんな生活が百年も続いて叔父の帰りをまだかまだかと待つ日々を過ごしていたメティラティに、変化が起きる。
突如として魔方陣が足元に出現し、それにされるがまま草原に似ているが原住しているモンスターのいない奇妙な空間に呼び出された。
そこで会ったのが自分より強いか同等の力を持つモンスター二体(グランディアとディメロウスの噂は叔父から聞いていた)とただの人間の少年がいた。……もちろんそこには神の遣いであるという女性もいたのだが、すぐに別れてしまった。
少年が何を考えているかは兎も角として、自分の念願の世界中を旅するという夢が叶うかもしれないと思い、少年との契約を結んだ。まだ世界中を旅するという夢は叶っていないが、晴れて籠の中の鳥から自由の身になったメティラティは、少年のために戦うと決めた。
そして少年の優しさに触れ周囲に触発されて結ばれると、それが一気に高まり、世界中を旅するという夢から、いつしか少年の傍にいるという夢に変わっていた。
……だから……っ!
メティラティはその想いを胸に、仲間を蹂躙していく。
「ごめんなさい、お父様! ブラックホール!」
一言父親に謝り、大技の連続で魔力を尽きかけていたため、残り数体をまとめて倒そうと、更なる大技を使う。
ブラックホールとは光さえも脱出出来ないとされる強い重力を放つ天体である。もちろんそれをそのままこの場に出現させれば使った本人も無事では済まないので、ある程度制限がある。
飲み込み中で強い重力により滅茶苦茶に圧し潰すことが出来る。
「……メティラティよ、すまなかったな。これからはお前の好きなように、自由に生きるといい」
父親は傷だらけで怖い顔を少し柔らかくして微笑み、ブラックホールに引き摺られていく。
「……はい、お父様」
「……メティラティよ。最後は、最期ぐらいはパパと、呼んでくれないだろうか」
「……スーパーノヴァ!!」
父親の最期の頼みを、メティラティはしかしそれには答えずブラックホールが他の数体を飲み込んでいく中で、父親の眼前に小さな赤い球体を出現させ超絶爆発を巻き起こし、消し飛ばした。
「……ごめんなさい、無理です」
メティラティは父親の消えた虚空に向かって深く頭を下げた。
「……」
そして誰もいなくなり、メティラティ一人だけとなった階層で、自分を大切にしてくれた家族を殺したという事実が心に染み入ってきて、涙を頬に伝わせた。
怖いけど優しかった父も、正直面倒だったけど自分を慕ってくれていた組の者達も、もういない。そう思うと寂しかった。
「……泣いてるんですか? まあ私には関係ありませんのでお先にご主人様の下へ行かせてもらいますが」
そこに何故か別の階層で戦っているハズのアーティアが突如として現れそう言うとメティラティには構わずさっさと奥にある上へと続く階段へと上がっていってしまう。
「……そうですね」
一見冷たいようなアーティアの言葉に、メティラティは思い出したのだ。自分にはもう仲間がいると。
励まされたメティラティはしかし、アーティアのように階段を上らず階段に腰をかけて消費した魔力が回復するのを待つことにした。