黒白の決着
遅くなりましたすみません
「おらおらおらぁ!」
「っ!」
ドラガリュウズが黒い球で猛攻を行うのに対し、ディメロウスは素早い動きに翻弄されつつも小さな盾一つ一つで正確に防いでいく。
「ははっ! どうした? 動きが鈍くなってるぜ!」
「……」
ディメロウスが過去を振り返っている間も激しい攻防が続いていたのだが、身が入っていなければもちろん動きが鈍くなる。この時を、ディメロウスと戦える日を待ち望んでいたドラガリュウズが気付かないハズもなかった。
「……チッ。つまんなくなっちまったなぁ、ディメロウス! もう終わりにしてやるよ! 百年も続いた鬼ごっこも、もう終いだ! 黒帝砲!」
ドラガリュウズは舌打ちすると、口を大きく開けて黒いモノを集束させ、ドス黒い波動を放った。
「……ミラーズ・リフレクション」
対するディメロウスは極めて平静な声で呟き斜めを向いた鏡をいくつも出現させる。
「あん?」
ドラガリュウズはそれに首を傾げる。黒帝砲はディメロウスの目の前に展開された鏡に当たり砕いたが、反射された。反射された黒帝砲は一回り大きくなってその砕けた鏡の向いていた方向――次の鏡に当たり、とそれを繰り返して黒帝砲はどんどん大きくなり、
「……チッ」
ドラガリュウズへと跳ね返った。
「……はっ! そういやてめえには反射があったな! もうちょい楽しめそうじゃねえか! 黒帝剣!」
「……っ」
降ってくる巨大な黒帝砲を見てドラガリュウズは笑みを深め、尻尾の先に黒い刃を纏うと身体を一回転させ尻尾を振るい、巨大な黒い斬撃で巨大な黒帝砲を切り裂いた。
それにディメロウスはやや驚いてドラガリュウズを見る。
「……俺だって他の野郎に殺されねえように工夫してんだよ」
そんなディメロウスを見てニヤリとし、ドラガリュウズは心を読んだかのように言った。
「……あなたのようなドラゴンが工夫だなんて、珍しいこともあるものですね」
「はっ! 否定はしねえが俺だっててめえに勝つために強くなりたいんだからよ、当たり前だろうが!」
ドラガリュウズが言いながら黒い弾丸を無数に放つ。
「……何を言ってるんですか? あなたはとうの昔に私を超えてるでしょう」
黒い弾丸を薄い膜のような盾を展開して防ぎながら少し不思議そうな顔をして聞いた。……昔、ドラガリュウズの黒帝砲を反射させたディメロウスだが、それはドラガリュウズに油断があったからだ。父親よりもディメロウスが弱いことを知っていたための油断。それがディメロウスの反射が成功した理由だった。
今だって本気を出されたら一溜まりもない。ドラガリュウズが何故か遊んでいることに、ディメロウスは気付いていた。
「ま、超えてるとは思うぜ? けどよぉ、てめえが俺に殺されないように強くなってきてんだ。俺がそれに応えなくてどうするよ?」
ドラガリュウズは面白そうに笑い黒い砲弾を放ってディメロウスの盾を打ち破る。
「……どうしても私を殺したいんですか?」
「……ああ。てめえは俺がこの手で殺す! それが俺がここにいる理由だ!」
「……そうですか。ですが、そう簡単にやられる訳にはいきません」
ドラガリュウズが両手に黒い球体を出現させるのに対してディメロウスは口を開きその前に白いモノを溜めていき、光線を放った。
「……チッ」
高い攻撃力の代わりに防御力が低いドラガリュウズは舌打ちして光線を避ける。
「……ミラーリフレクション」
だがその光線の先に鏡のような盾が現れ、光線を倍にして避けたドラガリュウズに向けて跳ね返す。
「ぐっ!」
見事、背中から撃たれたドラガリュウズは呻き声を上げる。
「……ふっ、ははははははっ!」
だがドラガリュウズは背中に焦げ跡を残していながら大声で笑う。
「……」
「……いいぜいいぜいいぜいいぜぇ……! てめえの攻撃力如きじゃ俺の鱗を破れないと分かって自分の攻撃を反射させやがるとか、いいじゃねえか! それでこそてめえ、これでやっと、本気が出せるっ……!」
努めて冷静にドラガリュウズを見据えるディメロウスに対し、ドラガリュウズは狂気を孕んだ笑みを浮かべると、全身にドス黒いオーラを纏った。
「っ……!」
その姿を見たディメロウスは、警戒のレベルを最大にまで上げる。それ程の危機感を覚えたのだ。
「ははっ!」
ドラガリュウズが笑い高速で飛翔する。……ディメロウスがその飛翔した軌道が分かったのは、纏うドス黒いオーラの残留が教えてくれたからで、背後に回り込まれるまでの過程は全く視認出来なかった。
「っ!」
慌てて後ろを振り向こうとするが、遅い。ドラガリュウズは拳に大きくオーラを集中させると、ディメロウスの背中を思いっきりぶん殴った。
「ぐっ!」
ディメロウスは焼けるような痛みを感じ、自分の鱗が割れていることを感じながら、十数メートル吹っ飛び何とか止まることが出来た。
「まだまだ気ぃ抜くんじゃねえぞぉ!」
その言葉通り、ドラガリュウズは急いで体勢を立て直すディメロウスに正面から突っ込んでいく。
そこからは、一方的だった。
突っ込んできたドラガリュウズは目で追えないがどこから突っ込んできているのかは分かったので正面に盾を出現させると拳一発であっさりと砕け散り、続け様腹部に拳を叩き込んでディメロウスを後方へ大きく吹っ飛ばす。吹っ飛ぶディメロウスに追撃しようとしたところ、ディメロウスが盾を展開したので吹っ飛ぶディメロウスの後方へ先回りし、尻尾を掴んで振り回して思いっきり投げ、そこをさらに追撃するためディメロウスの上を取るとディメロウスの頭を身を翻して遠心力を加算した尻尾を叩きつけて下へと吹っ飛ばす。ディメロウスは激しい空気の抵抗と止まない猛攻のため一方的に攻撃されていた。
「はっ! 何だよディメロウス! てめえ、人間と一緒に暮らして弱くなったんじゃねえか? 弱いヤツとつるむから弱くなるんだよ! てめえは甘くなった! 弱くなった! かつて俺がてめえの家族をぶっ殺した時みてえな殺意が感じられねえ! ……それとも何か? あの人間殺せばいいのか?」
ドラガリュウズが高速でディメロウスを縦横無尽に攻撃する。そのためディメロウスは四方八方から攻撃されているのに一箇所に留まっているように見える。
「……主を、殺す?」
「あん?」
だがその途中、ディメロウスが攻撃してきたドラガリュウズの腕を掴んだ。
「……てめえ何言ってやがんですか? 殺しますよ?」
その身体には綺麗な純白のオーラが纏われていて、その顔には怒りが刻まれていた。
「っ! てめえ俺の黒帝武闘を!?」
その姿を見たドラガリュウズは目を見開いて驚く。
「……黒帝武闘というんですか。では私のこれは白帝武闘と名付けましょう。……で、てめえさっき何て言いやがりました?」
ディメロウスはドラガリュウズを放り投げて言いつつ、聞いた。
「……てめえが主って呼んでるあの人間、俺が殺してやろうかって言ってんだよ。あんな雑魚、てめえが守る価値もねえだろ?」
ドラガリュウズはそこにディメロウスの怒りに繋がるモノがあると見て、さらに挑発する。
「……主が雑魚、ですか……。残念ながら今はまだその言葉を否定出来る程主は強くねえですが、私が守る価値もねえとは聞き捨てならねえですね。私の居場所を壊したてめえと私の居場所をくれた主、どっちにつきたいかは一目瞭然じゃねえですか。主はてめえ如きに殺されるような人ではねえですが、主に手を出すんならここで殺してやります……!」
ディメロウスは激情を胸に、ドラガリュウズへと突っ込む。それを見てディメロウスの後方へ回って避けるドラガリュウズが見えていたので、ディメロウスは尻尾を振り上げるが、素早い動きで回避され左へ回られる。それも見えていたため裏拳をドラガリュウズの顔に叩きつける。
「ぐっ!」
本来攻撃が高いドラゴンではないのでダメージは低く、吹っ飛ばすとまではいかなかったが、ドラガリュウズが怯んだ。ディメロウスはそれを見逃さず、右拳の前にいくつもの六角形の盾を展開して並べると、一番手前にある盾を殴った。それがディメロウスの拳をくらって次の盾にぶつかり、衝撃を反射してさらなる勢いをつけてまた次の盾へ。そうしてドラガリュウズよりも速い盾を飛ばし、腹部に直撃させる。
「がっ!」
吹っ飛ぶドラガリュウズは十数メートルで体勢を立て直し、ディメロウスへと突っ込んでいく。
ディメロウスは所々鱗が割れ純白の身体に赤い鮮血が垂れている。対するドラガリュウズは攻撃特化のため持久力、耐久力が低いもののあまり攻撃を受けていないため傷は少なく、しかし息切れは激しい。一撃でもくらったらディメロウスの負けは決定してしまうだろう。
「……黒帝、砲ッ!」
突っ込みながら口を大きく開けドス黒い波動を放ってくる。
「白帝盾」
ドラガリュウズはスタミナが切れ始め、ディメロウスは血を流しすぎた。互いに早く勝負を決めたいという思惑があったため、互いに最強の技で迎え撃った。勝った方が勝利に近付き、負けた方が敗北に近付く。
ドス黒い波動と白の壁がぶつかり合う。
「くっ……!」
黒と白のぶつかり合いは拮抗しているかに見えたが、ディメロウスの表情が険しい。白の壁がミシミシと軋み、亀裂が入る。押されているのだ。
「俺の、勝ちだ……っ!」
ドラガリュウズはそう言ってさらに黒帝砲を強くする。すると、白帝盾に大きく亀裂が入り、そして破れた。
「っ――!」
威力が白帝盾のおかげで弱まったとはいえ、満身創痍。ディメロウスはドス黒い波動に包まれた。
「……へへっ――っ!」
ついにやったかと笑うドラガリュウズは驚愕に目を見開く。全身血だらけで生きているかも定かではないような状態で、確かにディメロウスは宙に羽ばたいていたのだ。
「……はっ! さすがに白帝盾を破った後で消し飛ばすってのは虫が良すぎるよなぁ! じゃあ黒帝砲の上、黒帝大砲でトドメを刺してやるぜ、ディメロウス!」
驚いていたドラガリュウズだが、笑って口の前に大きなドス黒い球体を形成していく。
「……おらぁ!」
ピクリとも動かないディメロウスを消し飛ばさんと、黒帝大砲が放たれる。黒帝砲とは比べ物にならない規模の波動。だがドラガリュウズはそれを使ったことで力尽きたのか全身に纏っていたドス黒いオーラを消す。
「……白帝、鏡盾……っ!」
ディメロウスはカッと右目を見開き、自身の前に六角形がいつくもくっついたような巨大な白い盾を出現させる。
白帝竜・カイザードラゴンの代名詞、白帝盾。ディメロウスが得意とする、攻撃反射。この二つを組み合わせた、ディメロウスだけの最強の盾である。
「なっ……!」
黒帝大砲は数秒白帝鏡盾とぶつかり、そして反射した。勢いを増した黒帝大砲がドラガリュウズを呑み込む直前、驚愕の表情をしそして、どこか爽やかな顔で笑った。
「――」
ディメロウスは力尽きて白帝鏡盾も白帝武闘も解除し、フラフラと上へ上がる階段に足をかけた。人間の姿になって残り少ない魔力を使い自分に治癒の魔法をかける。
「……あー、クッソ。負けちまったな」
「……」
階段から真正面の場所にドラガリュウズがいて、しかし飛ぶのもやっとのようだ。翼膜が破れているため、そう長くは持たないだろう。
「……何か、用ですか?」
ディメロウスの傷は治った。だが血が足りないためしばらくは動けないだろう。今のままでは殺されるかもしれない。
しかしドラガリュウズの笑みに今までのような狂気が感じられないため、話しかけた。
「……俺に勝ったてめえへの、餞別だ。受け取っとけ」
ドラガリュウズはどこか清々しい笑みを浮かべてディメロウスに黒い球体を放り投げる。
「……これは?」
ディメロウスはそれを受け取り尋ねる。
「……俺の心臓、みてえなもんだ。それはな、黒帝竜だろうが白帝竜だろうが、どっちかに殺されると生み出せるモノで、それを喰らうことでその一方の力を手に入れることが出来る。最後の攻撃を凌げたのは、てめえの家族ぶっ殺した時に見つけて、ま、親父に教えられてはいたんだが、白帝盾使って何とか俺の命を数秒繋いだって訳だ」
「……」
「……俺の力、強いぜ? てめえの家族の力も加わってる。だからよ、精々、俺の分までてめえは生きてくれよ」
ドラガリュウズの身体が次第に黒い粒子となって消えていく。力を酷使しすぎたせいで、身体の負荷が大きくバラバラ――と言うよりも粉々になってしまうのだ。
「……礼は言いません。が、ありがたく受け取ります」
ディメロウスは早速それを齧った。……見た目や触感とは違い、何故か歯がよく通る。そして極上の美味!
「……やっぱ強いな、姉ちゃんは」
『姉ちゃん』。それは二体がまだ幼い頃、ドラガリュウズがディメロウス呼ぶ時の呼び方。
「……」
黒い球体をペロリと完食したディメロウスは、昔に戻ったようなドラガリュウズを見据え、
「……じゃあな」
同じく昔の口調で応えた。
「……っ」
ドラガリュウズはそれに驚きつつも嬉しそうに笑い、ついに粒子となって散った。
「……」
ディメロウスは気丈に保っていた意識が緩み、階段に崩れる。治癒し黒い球体で力が湧いてきたディメロウスだが、血を流しすぎて意識が持たない。
「……主」
かつて自分が失った、ドラガリュウズに奪われた温かい家庭。それを作り自分の居場所をくれた主を想い、一刻も早く駆けつけたいという気持ちはあるのだが、
「……」
ディメロウスはついに気を失った。




