ボスとして
遅くなりました、すみません
「ふはははははっ!」
八階にて、縦横無尽に空を跳び回りその巨体の割りに素早く敵としている自分と同じモンスターの攻撃を器用に回避しながら、しかし自分の攻撃は的確に当てるという芸当をやってのけているのは、同じモンスターの中でも一番の巨体を誇る機竜・ワイバーンの王の中の王、グランディアだ。
人工魔物に身体を乗っ取られ同士討ちをさせられているにも関わらず楽しそうに笑っているのが、彼の性格を現しているようだった。
戦闘狂。
グランディアの性格を一言で言えばそうなる。
グランディアは幼い頃から群れの同世代または大人に喧嘩を挑み勝敗は兎も角として毎日傷だらけで帰るような生活を送っていた。攻撃し攻撃される。それが楽しかったのだ。
大人のラインになり体格がいいため頭角を現してからも、戦闘の楽しさを忘れられず日々群れか群れから出た外で目に入った魔物と戦う日々を過ごしていた。
そんな生活が百年続いた。いつの間にか周りには多くの機竜・ワイバーン達がいて、長として群れを任されるまでになっていた。それは一重にグランディアの強さ故のことであった。
だがグランディアは長という地位にも、自分に言い寄ってくる女にも興味がなかった。
ただ、強い者と戦えればそれでよかったのだ。
そのためグランディアは長に任命されながらも相変わらず世界を飛び回り、強者を探し求め発見すれば勝負を挑む、ということをやっていた。
グランディア以外に長として相応しい者がいないこともあって除名されはしなかったが、群れの中で不満は高まっていた。
グランディアはほとんど強い者探しの旅に出ていたが、たまに帰ってきては群れの不満が高まっていることを悟ると、女に興味はないため妻を作らなかったものの、優秀な遺伝子を残すという意味で妾を取った。それは暗に「跡取りは作ってやるから俺のやり方に口を出すな」というグランディアの心情を表していた。
グランディアが群れを率いることはなく、グランディアの幼馴染みであり誠実かつ真面目で群れのことを第一に考える群れの中ではグランディアに次ぐ実力を持つ者がいたため、群れを実質的に率いていたのはその機竜・ワイバーンであった。それでもグランディアが長であったのはその幼馴染みの方に原因がある。彼は子孫を残せない身体であったのだ。
そのため二人の協力関係は途切れることなく続いた。
だがそれに不満を持つ者は当然いた。
グランディアの子供達である。
娘達は兎も角息子達は不満だった。父親は長であるのに何故好き勝手世界中を飛び回って戦っているのかと。そして何故長ではない者が群れを率いているのに長である父親は黙っているのかと。
もちろん二人の性格がそうさせており、互いに利害が一致しているということもあった。だが父親が長であることが誇らしくあっても実質的な長ではないということが子供達の不満を募らせていたため、ほとんどの息子はグランディアに不満がある者達を集って群れを抜け独自の群れを形成していった。
それでもグランディアの強さに惚れ込む者達は群れを抜けようとはしなかった。
そうして世界を放浪し強い者と戦い勝つことも負けることもあったが戦いを止めることはなかった。だが最近戦闘狂として名が売れていたグランディアを避ける者さえ出てくる始末となり、群れのボスは制覇してしまうまでに戦い続けていて、戦えば死にかけるようなヘラとの戦いも経て、ようやくグランディアは群れに長く滞在するようになった。たまに溜まったフラストレーションを発散するために戦いに出ることはあったが、群れにいてのんびりするようになった。
それはグランディアの相手がいなくなり、心にぽっかりと穴が開いてしまったためであった。
自分の戦闘意欲を満たしてくれるような、強者がいないのだ。
基本群れにいることが多くなったグランディアを歓迎した者もいたが、歓迎しなかった者もいた。その一人が、今グランディアの前に立ち塞がるディレイグであった。
上の子供では唯一去らずにグランディアの群れにい続けたディレイグは、グランディアの帰ってくることは少なくともどんな強い相手にでも戦いを挑むその姿に憧れている節があった。そのためいつか戻ってくるだろうという反対を押し切ってグランディアを探しに出た結果、こうなっている。
だがグランディアはそんなディレイグ達群れに戻ってきて欲しい派閥とは裏腹に、戦女神・ヴァルキリーの異端、メテオグラビトンレックスの突然変異、白帝竜・カイザードラゴンの生き残りというグランディアが戦いたいランキングでも上位に位置するような魔物を召喚し、契約する人間に自分も召喚された。異なるモンスターが一緒にいて、人間に召喚され契約するという状況だけで異常だというのに、まさかそこに自分がいて仲間になるというのだ。
グランディアの退屈を埋めるには充分だった。
事実、シューヤについてきたおかげでこうして今まででは絶対に戦えなかった機竜・ワイバーンとも戦えている。
「はっ!」
グランディアは滑空しながら笑うと幼い頃からずっと自分についてきてくれた、ディレイグに次いで二番目に体格のいい機竜・ワイバーンを口から放つ凝縮された光線で両断する。
「グランディア様……!」
三十二番目の妾、メディフィナータが正面から突っ込んでくる。それをグランディアは避けずに真正面から突っ込みガトリングで蜂の巣にする。
「……すみません」
メディフィナータは崩れ落ちるところでグランディアに抱えられ、死ぬ間際に謝る。
「……」
グランディアは何も言わずにそっと地面に下ろすと、次の敵を狩ろうと飛翔する。
グランディアを連れ戻したい者達が集まったここにいる機竜・ワイバーン達は、グランディアの手で葬られて皆清々しい顔をして逝っていく。
「親父ぃ!」
最後の一体となったディレイグがグランディアとの一騎打ちに臨む。
「……ディレイグ。群れはどうなった?」
グランディアはディレイグの弾幕を回避しながら尋ねた。
「……俺の腹違いの弟が長やってるよ! 親父がいなくなった後の群れをまとめてるのは相変わらずヴィレッタさんだ!」
ディレイグは攻撃の手を休めないまま、グランディアの質問に答える。
ヴィレッタというのはグランディア不在の群れを率いていた幼馴染みのことである。
「……そうか。なら安泰だな!」
そう言うとグランディアはギアをさらに一つ上げてディレイグの背後に回り込みガトリングを乱射する。
「くっ……! ガアアアァァァァァァァァ!!」
ディレイグはガトリングに撃たれながらも口から直径三メートルもの光線を放つ。
「……すまんな、ディレイグ。せめて俺の全力で、お前を倒す!」
グランディアはディレイグに謝ると、口からディレイグが放った光線の十倍もの直径を持つ光線を放ち、すぐにディレイグの光線を押し返す。
「……っ。じゃあな、親父」
ディレイグは光線に呑まれる瞬間清々しい表情でそう言い、跡形もなく消し飛んでいく。
「……柄にもないことを言うもんではないぞ」
グランディアは忘れ去っていた頬を伝う涙に苦笑しながらゆっくりと上へ続く階段へ向かい、鷹に姿を変え階段で身体を横たえる。余程疲れ果てていたのか、そのまま目を閉じて眠りに落ちていった。




