因縁、決着
黒い異端の戦女神・ヴァルキリー、フィネアと戦女神・ヴァルキリーの追撃部隊との戦闘は最早、アンドゥー教始祖の創造した空間でなければ世界が破滅していたと思わせるモノだった。
平穏な野原だったそこは土が剥き出しになり地面が大きく抉れ、赤い血で地面が染まっていた。すでに半数以上もの白い戦女神・ヴァルキリーが地に伏して死んでいた。
血に染まった大地を作り出している張本人であるフィネアも無傷ではないが、致命傷と思われる傷もない。
魔物の中でも最強と呼ばれる戦女神・ヴァルキリー。しかも百人を相手にしていながら倒されていないとは、同じ戦女神・ヴァルキリーとはいえ異端であるというだけでここまで差が出るというのだろうか。
「……女帝・エクスカリバー!」
フィネアは自らの剣に光の巨大な剣を纏わせ二秒で十回という高速で振るう。受け切れなかった戦女神・ヴァルキリーが二人切り裂かれて絶命する。
「……私のせいだし、私が容赦なく殺してあげるわよ」
汗だくになった状態でもフィネアは飄々とした態度で微笑む。
「ぬかせ!」
プライドを傷付けられたヴァルキリーの一人がフィネアに突っ込んでいく。
「……」
およそ人間には目で追えない速度で突っ込んでくるヴァルキリーを、フィネアは最低限の動作で腰に刃を入れて上下を切り離す。
フィネアは突っ込むことはあっても動きで翻弄しながら戦うことはしていない。ただ、圧倒的なまでの力で捻じ伏せている。
……今度は、同族殺しの称号まで背負っちゃうのね。
そう思うと自嘲気味な笑みが零れた。それを余裕と捉えたヴァルキリーが数人突っ込んでくるが、フィネアは一刀の下に切り裂いていく。
「「「神威、降臨ッ!!」」」
このままではフィネアを倒せないと思った残る四十二人のヴァルキリー達は、ヴァルキリーの奥義を使う。
神威降臨とは、かつて、何百年を生きているフィネアでさえも生まれていないような人間の大昔ではなく、千年も普通に生きる戦女神・ヴァルキリーの基準で大昔。戦女神・ヴァルキリーが魔物ではなく神として存在していたとされる頃。
神と魔物ではもちろん、強さの格が違う。
魔物としての戦女神・ヴァルキリーが、神としての戦女神・ヴァルキリーだった頃の力を取り戻す業である。
戦女神・ヴァルキリー達が神々しい純白の輝きを纏いそこに存在するだけで人間ならあまりの神々しさに平伏してしまいそうな雰囲気さえ出ている。人間でなくても魔物でさえ地に伏してしまいそうだ。
「……神威降臨」
異端であるフィネアにはヴァルキリーとして忌み嫌われるがさらに一つ上がある。しかし神威降臨でも充分に戦えると思ってのことだ。それに、最期ぐらいは戦女神・ヴァルキリーとして同族を倒したいという思いもあった。
ヴァルキリー達からは悍ましいと表現されるが、ドス黒いまでの漆黒の輝きはある意味で美しいモノだった。
フィネアが抉れた地面に足を踏み出すと、地面が勝手に動いて平らな地面を作り出す。
まるで、地面がフィネアに従っているかのような現象だった。
そして神の力を発現した最強の魔物達が激突する。通常状態でも剣の一振りで山一つが消し飛ぶ程だというのだから、普通の世界では使えない威力を持った戦いが始まる。
そんな中、フィネアは過去の出来事を思い出していた。きっとこの戦いが終わったら自分が死ぬにしろ相手を全滅させるにしろ、背負う荷が重くなるだろうから。
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フィネアがこの世に生を受けた時、両親は恐れ慄き愕然とした。
フィネアが異端である黒色をしていたから、フィネアの魔力があまりにも乏しかったから。
異端であるフィネアは集落に災いを齎すとして捨てられる予定だったのだが、魔力が乏しいため害をなそうとしてもなせない、という意見があって他のヴァルキリーと同じように過ごすこととなった。
とはいっても両親はフィネアを最低限の世話のみで放任し、妹を産んだ。今度は異端ではない普通のヴァルキリーで魔力も高かったのでホッとし心から喜んでいた。
そんな両親を見て、フィネアは自分の居場所がここにはないことを悟った。
それまでも奇異の視線に晒されていたため気付いてはいたのだが、理解したのはその時だった。
奇異の視線には晒されていたが、フィネアが異端だということを気にせず遊んでくれたのが同年代のヴァルキリーである。
そのヴァルキリーのおかげで神に潜在能力を開花させてもらう魔方陣を使った儀式、十四歳になる年の成人式までは寂しい思いが薄れていた。
しかし成人式を行った途端、フィネアに隠されていた膨大すぎる力が開花した。
そのためヴァルキリーはフィネアを集落から追放した。そしてフィネアには内緒で追撃部隊が編成された。
その追撃部隊のリーダーを務めたのが成人式までフィネアと遊んでくれたヴァルキリーだった。魔力が乏しく異端として寂しい思いをしていたフィネアに同情してのことだったが、成人式で魔力が自分より圧倒的に上だと分かったそのヴァルキリーは裏切られたと感じて怒り、自ら追撃部隊に志願したのだった。
追撃部隊の本来の存在意義は集落では死刑を行わないが、追放者や逃走者などの犯罪者を集落外で殺すというところにある。フィネアの場合も集落外追放したところを不意に襲って殺すというのが追撃部隊の意味であった。
追撃部隊と遭遇したフィネアはその先頭にいた仲の良かったヴァルキリーの顔を見て裏切られたと思った。だが相手は一方的にフィネアを罵り問答無用とばかりに攻撃を仕掛けてきた。
これが、後に幾度となく繰り返される異端の戦女神・ヴァルキリーと戦女神・ヴァルキリーの追撃部隊の戦闘の、最初だった。
繰り返していく内にフィネアは諦めていた。このまま自分は戦女神・ヴァルキリーとして他種に恐れられ、異端として同族に追われ続ける。自分の居場所はもうどこにもないのだと、十四歳で追放されたフィネアは思った。
いつからかフィネアは泣くの止め不敵な笑みを浮かべて追撃部隊をやり過ごすようになった。
追撃部隊や他の魔物をヒラヒラとかわして過ごし続けること、何百年。すでに日数や年数を数えるのは止めていた頃だった。
足元に魔方陣が展開され、一瞬動きが止められる。フィネアは見ただけでその魔方陣が召喚の魔方陣だと理解した。戦女神・ヴァルキリーを召喚するために魔方陣だったからこそ一瞬でも動きを止められたのだろうが、戦女神・ヴァルキリーを超えた存在であるフィネアは容易に破ることが出来た。だがその時もいた追撃部隊にも長く続く逃走生活にも飽きていたフィネアは、その召喚に乗ってみることにした。
「っ!? 逃がすか!」
追撃部隊のリーダーであるヴァルキリーもその魔方陣が召喚だと分かったのか発動する前にフィネアを倒そうと突っ込んでくる。
突っ込んでくる追撃部隊を死なない程度に、しかししばらくは追ってこられないように渾身の力を込めて広範囲に薙ぎ払いを行う。
「っ!」
「じゃあねー」
吹き飛ばされる追撃部隊を光が増してきた魔方陣の中でフィネアが飄々と手を振った。
そしてフィネアは、一人の少年と出会う。
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そして現在、フィネアが召喚される前に放った一撃の傷から人工魔物に侵入されてしまった戦女神・ヴァルキリーの追撃部隊は異端のヴァルキリーと激戦を繰り広げていた。
とはいうが、実際には超高速で超絶破壊力を誇る攻撃が飛び交う戦闘で押しているのは数的不利なフィネアであった。
一振りすれば相手の一振りを弾きながら相手を消し飛ばす。一発毎に地形が変化する攻撃が飛び交い、その度にヴァルキリーが一人、また一人を消し飛んでいく。
「フィネアぁ!」
「ふふっ」
幼い頃は一緒に遊んでいたヴァルキリーが最後の一人として突っ込んでくる。フィネアは普段通り不敵な笑みを浮かべて迎え討った。
「……っ!」
ヴァルキリーは肩から腰にかけてを深く切り裂かれ、力なく地に落ちていく。
「……あり、がと……」
しかしそのヴァルキリーは清々しい表情をしていた。長年争い合ってきた二人だが、最強の魔物であり元神として誇り高いヴァルキリーが人間の造った人工魔物に乗っ取られてしまうという失態をしてしまったので、その苦しみから解放してくれたフィネアに対して感謝したのだ。
それに、融通が利かないと言われるヴァルキリーであっても何百年もの間戦い続けた仲で、フィネアに手加減され逃走と追走を繰り返してきた仲だ。戦っていく中で互いを漠然とであるが理解していた。
互いに裏切った訳ではなく、奇妙な運命だったのだと、分かり始めていたのだ。
「……」
だから感謝の意を述べたヴァルキリーを、驚き見開いた目で見て、しかし微笑んだ。
「……じゃあね」
フィネアはそう言ってヴァルキリーの最期を見送ると、神威降臨を解いて上へ上がる階段で座り込む。
異端として絶大な力を持っているフィネアでも、同族と戦うのは精神的にも肉体的にもキツい。
「……ちょっと、休憩しようかしらね」
フィネアは弱々しく微笑むと、階段で横になり目を閉じた。
落ちる意識の中でフィネアは、シューヤに褒めてもらおうと心に決め、その情景を思い描いて微笑んだ。




