ボスの役目
ついに八階へと辿り着いた俺達。
だがすでに人数は俺を含めて三人と心許ない。
一緒にいる二人はかなり頼もしくあるのだが、次の階にカオスがいても苦戦すること間違いなしだ。
敗北の危険性は、かなり上がっている。
階段を勢いよく駆け上がると、日光が白い世界を生み出し、消える頃には階の様子が確認出来た。
フィールドは広大な荒野。毎度のことだが、階段の長さと空の高さが合っていない。変な空間だ。
青空が頭上に広がっている。
広い空間だが、ここにもカオスはいない。
いたのは、恐竜で言えばプテラノドンなどの翼竜に近い姿をした、前足が翼になった蜥蜴のようなモンスター。
ワイバーンだ。
しかも、その蝙蝠のような翼には、ガトリングを着けていた。機竜・ワイバーンだ。
「……くっ、ふははははははっ!」
「……グラン」
グランは仮の姿から、そこにいる機竜・ワイバーンと同じ姿に変貌する。……遠近法を考慮しても、グランの方が一回りも二回りもでかい。
「……シューヤ! ここは俺にやらせてもらおう! 同族を操られて黙ってられる程大人しくも、同族と戦えるようなチャンスを見逃す手も、ない!」
グランは鋭く連なる牙を見せて笑う。
……もう減ってきてるからあんまり戦力を裂きたくはないんだが、ここはグランに任せるか。
「……すまねえ、グラン。情けねえ限りだ」
相手の集団では二番目に体格がいい機竜・ワイバーンがグランに頭を下げた。
「……ふん、全くだ。俺が率いた群れとしては追試並みの点数だな」
グランは翼を組んでふん、と鼻を鳴らす。
……こっちの世界にも追試ってのがあるんだろうか?
「……グランディア様」
憮然として群れを見据えるグランに話しかける一体のワイバーンがいた。
「……メディフィナータか。お前までいるとはな」
グランは愛しむように目を細めてそのワイバーンを見る。……名前の印象は女っぽいな。外見だと全く区別がつかん。ちょっと身体の線が細いかな? ぐらいの差だ。
「……俺の三十二番目の妾だ」
グランは俺にソッと耳打ちしてきた。……三十二って。滅茶苦茶プレイボーイじゃないっすか。いやこの場合は節操ねえな、って言った方がいいのか?
「……モテまくりじゃないっすか」
俺は少し皮肉を込めて賞賛してやる。
「……皮肉っぽいな。だが自然界において、強く気高いオスがモテるのは当然のことだろう?」
グランは少し眉を寄せるが、ニヤリと笑って言った。……それってライオンとかの獣の話だよな。まあ、人間にもそれが当てはまる場合があるから否定は出来ない。
「……で、俺らのリーダー様はどこに行ったかと思えば人間如きとつるんでたとは、一族の笑いモノだな」
群れの中で一番体格が良く、奥でボスのように君臨しているワイバーンが嘲笑して言った。
「……ディレイグ……!」
グランはその自分の次に体格が良いワイバーンを睨む。
「……あいつは俺の五番目の妾の三番目の子供だ」
……お前、どんだけ子供いんの?
俺はグランにジト目を向ける。……だってそんなに妾と一人につき何人も子供がいたら、軽百人くらい子供がいることになるぜ? 滅茶苦茶チャラいじゃないっすか。グランディアハーレム王国の結成じゃないっすか。
「……上の子供は俺が若い頃から世界中を飛び回っては強いヤツと戦っていたせいでグレてな。勝手に一人立ちしていきやがったが、上の子供でも残ったのがあのディレイグともう一人だけだ」
「……お前がちゃんと子供を構ってやらないからグレてんじゃねえか。ちゃんと子供の面倒見ろよ。小さい頃はちょっと遊んでもらえるだけでも結構嬉しかったりするんだぜ?」
「……うむ。年をとってから結構反省している」
俺がちょっと説教すると、グランは先程の好戦的な威厳はどこへやら、少ししょんぼりとして言った。……まあそりゃあ一から五番目の妾の二番目の子供までの内、何人いるかは分からないが男は全員去ったんだろ? 反省もするわな。
「……グラン。ディレイグじゃねえが、そんなに人間と親しく話してると、俺でもちょっと幻滅だぜ? 何より、お前が戦女神・ヴァルキリーの異端っつう最強を前にして戦ってねえってのが一番おかしい」
群れで二番目に体格が良いワイバーンが言うと、他もうんうんと頷いた。
……いや、お前どんだけ好戦的なヤツだったんだよ。
俺は仲間からもそんなことを言われるグランに、呆れた瞳を向ける。
「私と戦ったら死ぬからじゃない?」
ギロッ。
軽い口調で言った戦女神・ヴァルキリーの異端、フィネアを群れ全員が睨んだ。……グランの強さは全員共通で信頼してんのね。
「……俺がフィネアと戦わないのは、勝てないからではない。俺が今まで勝てなかった相手などたくさんいる。勝てると分かっていて戦うなど、面白くもないわ」
グランはニヤリ、と戦闘狂らしく笑う。
「俺がフィネアと戦わない理由は、俺がお前達と戦わなかった理由と同じ。仲間だからだ」
グランは清々しいような真顔で告げた。……グランって親分肌だからなぁ。結構身内に甘いんだよ。短い間で、しかもモンスターの中では男一人という中でも、皆を仲間として扱ってくれる。
「……ホントに堕ちちまったみたいだな、親父ぃ……!」
ディレイグがギリッと牙を噛み締め、苛立った様子で睨み付ける。……もしかしたら、どんな強い相手にも臆することなく戦うお父さんに憧れていた口なのかもしれない。俺の勝手な想像だが。
「……いけ。ここは俺が引き受けた」
グランは真剣な声で言う。……俺から見上げる横顔は、少し悲しそうにも見えた。
「……いくわよ。じゃあグラン、無事帰ってきたら戦ってあげてもいいわよ?」
先立ってフィネアが駆け、俺も後ろ髪を引かれながら、遅れて駆け出す。
「……ふん。試合ならするが、殺し合いはせんぞ。シューヤが許せば別だが」
「……アホか。俺がそんなこと許す訳ないだろ。バカ言ってないで無事生きて帰って来い」
俺は呆れて返しながら、階段を真っ直ぐ見据える。……ここはグランに任せよう。
「……ああ。このグランディア、男として約束は必ず守る!」
グランは猛々しくそう言うと、勇猛に翼を羽ばたかせ、宙へと舞い上がる。
「……この人数相手に勝てると思うなよ、クソ親父!」
「……ふん。このグランディア相手にこの程度の人数で勝てると思うな、クソガキ!」
ディレイグはグランを睨んで、グランはニヤリと笑って、吼えた。
後ろで戦闘が始まる前に、俺とフィネアは階段を上がっていった。




