“絶影のスピードスター”
だいぶ遅れました
新年明けましておめでとうございます
「……っ!」
“絶影のスピードスター”に捕らえられた八人の中で、一番最初に気が付いたのはフィネアだった。
「……やっと目覚めたか」
「っ!?」
フィネア含む八人は両手に手錠を嵌められ、囚人のように足が着く程度の高さで、鎖で壁に吊られているが、“絶影のスピードスター”はその部屋の中心に胡座を組んで座っていた。
部屋は煉瓦造りになっていて、灯りは所々にある松明数本のみだ。
「……あなたが私達を捕らえたのね? 何のために?」
「……答えてやる義理はないが、答えてやろう。俺はシューヤと言うヤツのいない間にお前らを捕らえれば金が貰えるからやっただけだ。ああ、命令したのはアンドゥー教な」
“絶影のスピードスター”はペラペラと喋る。
「……じゃあ、ご主人様のアンドゥー教潜入は罠だったわけね」
「もちろんだ。あの無能なギルマス様には驚いたぜ。俺を雇ってくれたおかげで俺がこっちに来ても違和感なかったし、シューヤの潜入を手伝う中立派の反アンドゥー教なんて都合のいい位置にいる貴族がアンドゥー教の泳がせているエサだとも見抜けねえしよ。笑える」
ククッと“絶影のスピードスター”は笑う。
「……ご主人様は無事なの?」
「さあな。アンドゥー教には化け物もいるし、神様ってのもついてるからな。死んでるか、今頃実験体にされてんじゃねえか?」
「っ! ……このっ! ーー!?」
フィネアはショックを受け、魔力を解放し、本来の姿になろうとするが、魔力が出ないことに驚愕した。
「それは魔力封じの枷でな。アンドゥー教が独自に開発したもんだ。量産は出来ねえが、八人程度なら封じることが出来るくらいの数はあるぜ」
「……私達をどうするつもり?」
フィネアは“絶影のスピードスター”を睨んで言う。
「……気に入ったのがいれば俺が貰っていいって話だが、残りは脂ぎったハゲデブ中年加齢臭ムンムンオヤジ共のオモチャにされるんじゃねえか?」
「っ!」
フィネアはそれを聞いて身震いする。……最強の魔物とは言え女。意中の相手以外に犯されることなど、嫌に決まっている。
「……うぅん?」
次はアーティアが戸惑いの声を上げて目を覚まし、リフィア、ナティアミゼル、ディメロウス、メティラティの順で次々と目覚めていく。イシアとチアキは未だに目覚めないが。
「……次々と目覚めやがって。同じ説明すんの面倒なんだが」
“絶影のスピードスター”は面倒そうに頭を掻いて言い、フィネアにしたと同じ説明を繰り返す。
「……そろそろ俺の取り分でも決めるか。飽きたしな」
“絶影のスピードスター”はため息をつき、立ち上がって八人に近付き、一人一人を舐めるように見ていく。それに目覚めている全員は寒気を覚えた。
「……はぁ」
“絶影のスピードスター”はアーティアの前でため息をつく。
「……何ですか?」
アーティアは睨み言う。
「……いや、残りのヤツの貰い手はオヤジ共になるって言っただろ? お前みたいなのがいいんだろうな、と思ってな。何でお前みたいなのがいいのかが分からねえが」
“絶影のスピードスター”はやれやれと首を振って言う。どうやら、アーティアは好みから大きく外れているらしい。
「こんなでけえ乳した女のどこがいいんだか」
アーティアのその豊満な胸を見て言うが、やましさは一切なく、むしろ呆れてさえいた。
「「「……」」」
それを聞いたフィネア達はジト目で“絶影のスピードスター”を見る。それを聞いて真性のロリコンだと看破した結果だ。一概にロリコンとは言えないが、アーティアがその正反対にあることが看破する原因となった。
「……ロリコンですか」
ほっとしたような顔でアーティアは言う。一時的にだが、選考から外れたからだ。
「……未成熟が好きで何が悪い。こいつとかいいな」
“絶影のスピードスター”はアーティアから目を逸らし、リフィアに目を向ける。
「……むっ。私は別にロリータじゃないの! これからアーティアさんみたいに大きくなる、将来性があるんだから!」
リフィアは自身の危機とはいえ、言い返した。譲れないことであるらしい。
「……じゃあこっちか。まあ、この中じゃあ三人だな」
リフィア、イシア、ナティアの三人を指差して言った。イシアを指差す時点で、真性のロリコンであることが露見するが、“絶影のスピードスター”にとってロリコンであることは恥ずべきことではなく、誇りに思ってもいいことであるということか。
「……イシアちゃんに手を出したら、許さないわよ」
フィネアが殺気を含めて睨む。まだ年端もいかない無邪気なイシアにこれ以上辛い想いをさせるわけにはいかなかった。イシアより遥かに年上の姉として。
「……今は手を出さねえよ。それに、三人の内一人は引き渡さねえと、ロリータを入れないといけねえんだ。貴族のオヤジ共の中にも俺と同じような好みを持つヤツはいるからな」
「……そんなの嫌! お兄ちゃんにもあげてないのに、他の人にあげるなんて!」
リフィアは叫び、全身から炎を迸らせる。他と同じように魔力封じの枷をされているのに。
「!? チッ。神と契約してやがったか。神ってのは魔力とは別に力の源があるからな。うぜえ」
“絶影のスピードスター”は呻いて、しかし別の枷を取り出す。
「……これは神封じの枷だ。まだまだ試作品だが、効力はあるちょっとした副作用があるくらいでな」
ニヤリと笑い、それをリフィアの両手に付ける。
「ーーああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
リフィアは絶叫し、やがて力なく気絶した。
「っ! リフィアに何をしたの!」
「死んじゃいねえよ。気絶しただけだ。……まあ、それより、お前らの主、シューヤと鳥野郎ともう一人の女、お前らを助けに来ると思うか?」
「来ます。それに、チアキさんも拐ったとなればアスラバハムートのムートガランさんが黙っているハズがありません。必ず来てくれます」
アーティアははっきりと答える。それは短い付き合いだが、シューヤが仲間を拐われて放っておくわけがないと確信していて、まだまだ伸び盛りな実力を信用しているからだ。
「……まあ、信じるのは勝手だが、どうだろうな。生きていれば来るかもしれないが、アンドゥー教にはあの魔物がいる。俺なんかに捕まったお前らなんざ一瞬で塵に出来る程の怪物がな」
「……そうでしょうか? 私達の実力は、正面からぶつかればあなたを一瞬で塵に出来る程の怪物並みですよ。そんな私達が束になれば勝てるかもしれません」
「……そういや、お前は実物を見てるんだったか。何年前の話だか知らねえが、お前が見た頃よりさらにより強力に醜悪になってるぜ。洗礼を受けただけの人間と、異端のヴァルキリーとその他だけじゃあ到底勝てねえよ」
アーティアの事情を知っているらしい“絶影のスピードスター”は言った。
「……その他でまとめないでくれますか? 分からないチアキさんとまだ成長途中のイシアちゃんを除けば、各界最強とも謳われる私達ですよ?」
アーティアは自信を持って言い返した。
「……そんなの関係ねえと思うがな。まあいい。俺はまずこいつを貰う」
“絶影のスピードスター”は気絶したリフィアの顎を持って顔を上げる。
「リフィアに触れないで!」
フィネアの制止の声も無視するが、そこで扉が壊され、砂煙が舞う。
「……おい、てめえ。俺の妹に何してんだ?」
怒気と殺気を含んだ声が聞こえた。
「……おにぃ……ちゃん……?」
目が覚めたリフィアは掠れた声でそう呼んだ。




