アンドゥー教から脱出せよ
「俺が捕らえろ、と命令した訳を話してやろう」
コケッティは静かに話し始める。
「……」
「殺せ、ではなく捕らえろ、だ。優しさ、なんてつまらないことは考えるなよ?」
当たり前だ。お前に優しさなんてないだろうが。
「貴様を生かすのには、意味がある。もっと絶望させてから殺してやれるからな」
コケッティは酷薄な笑みを浮かべる。
「……何だと?」
俺を絶望させる? どうやって?
「“絶影のスピードスター”を初めに雇ったのは、この国のギルドマスターだ。偶然この国の異世界人は英雄ぶった、とまではいかなくとも、いいヤツではあったわけだ。それで、“絶影のスピードスター”も金をやれば、アンドゥー教より自分側についてくれる、と思ったわけだが、そんなわけないだろ」
コケッティが嘲笑する。
「……それくらい、俺だってわかる。ギルマスが金で動くようなヤツを雇った時点で、民から絞り上げた税金を持つ貴族共が金を出し合って雇えば、アンドゥー教につく」
「ああ、その通りだ。あいつは金が命だからな。金で動き、金で殺す」
能力的に暗殺向きだったな。諜報とか暗殺で稼いでるんだろうか。
「……それが、どうかしたのか?」
「ああ。俺は情報網を使って、この国の異世界人の情報をかき集めた。英雄やりたいヤツには、アンドゥー教は丁度いい標的だからな」
情報は武器になる。コケッティは俺達の情報を集めて、敵対されても対応出来るようにしたかったのか。
「一番面倒だったのが、シューヤ、お前だったらしい。能力がはっきりしない上に、パートナーやら何やらが多くてな。お前がいない時に攻略しないといけなかったらしいが」
「……まさか、あいつらに手ぇ出してねえだろうな?」
俺は殺気を含んで睨む。
コケッティはそんな俺を見て残酷な笑みを浮かべる。
「その、まさかだ。俺が“絶影のスピードスター”に依頼したことは、異世界人の情報収集と、異世界人を絶望させるにはどうしたらいいか」
「……俺の仲間を狙ったのか? あいつらは一人一人が俺より強いんだぜ? 返り討ちにされて終わりだ」
コケッティは俺の仲間を狙うつもりだったんだろうが、逆に俺は余裕を取り戻した。魔物最強のフィネアを筆頭に、全員がかなり強い。あいつらがやられるわけがない。
「そんなに余裕そうにしていていいのか?」
コケッティはしかし、俺の言葉にニヤニヤをさらに深める。
「?」
「“絶影のスピードスター”は、魔力、気、気配、姿、音。様々な自分を消して行動出来る、隠密のスペシャリストだ。いくら魔物でも、そこまで消えているヤツに気付くには無理があるだろ? それに、あいつは影を使って捕らえることが出来る。つまり、気付かれる前に全員、一気に捕らえることも可能。これならどうだ?」
「……」
俺は黙ったまま思考する。
「……てめえが言いたいことは、俺がまんまとこっちに来たせいで、俺の仲間は捕まったってことか?」
「……ああ」
コケッティは俺を見下し嘲りながらも嬉しそうに笑う。
「お前がまんまとこっちに来たせいで、お前の仲間は捕まったんだよ!」
コケッティは俺に絶望を与えようと、さらに突きつける。周りの貴族共も嘲笑して俺を見下す。
「……絶望させる? 笑わせんなよ。仲間を捕まえられて絶望するわけねえよ。あるのはてめえらアンドゥー教への怒りだけだ! ーー爆雷光!」
俺は怒りに任せて怒鳴り、爆雷光を放ち、大勢の貴族共を感電させた。
「……次は、殺すぞ」
俺は残りの貴族共を見渡し、殺気を込めて言った。
別にここで殺してもいいが、それだと穏健派の国王に嫌な目で見られる。アンドゥー教を滅ぼしても、貴族を滅ぼすと、いい顔はしないだろう。
「そんなこと言っていいのか? お前の仲間は俺の手の中にあるんだぞ?」
神聖鶏騎士団と貴族の大半を倒しても、コケッティは余裕そうな態度を崩さない。
「……いや。俺の予想だと、“絶影のスピードスター”が勝手な場所に捕らえてる。そして、お前はその場所を知らない」
そうであって欲しいという願いが込められているが、コケッティが苦渋の顔をしているから、合ってるハズだ。
「……確かにお前の言う通り、捕らえた場所は知らない。だが、“絶影のスピードスター”が何もしないとは限らないぞ?」
コケッティは素直に認めるが、下卑た笑いを浮かべる。
「っ! てめえ……!」
俺はその笑みの意味に気付いて怒鳴る。
「まあ、あいつが手を出さなければ、俺が交渉して貰い、ここにいる全員の性処理道具にしてやろうと思ったんだが」
「……てめえ、殺すぞ」
「おぉ、怖い怖い。だが、まだ殺される訳にはいかないんでな。仕方がない。とっておきを見せてやろう」
コケッティはそう言うと、両手を挙げ、天を仰いだ。
「我らが信仰するアンドゥー神よ。今信仰ある信徒達に、貴方の御力を与えたまえ! ーーアンドゥー神装!」
アンドゥー神というらしいアンドゥー教の神に祈った。
すると、俺が倒した神聖鶏騎士団と信徒達に光が降ってきた。
「おぉ……!」
「これは……」
気絶していたヤツも起きる。光が身体に宿り、神聖鶏騎士団の装備が強化された。
「っ!? アンドゥー神なんて、いないハズじゃねえのかよ」
こっちの神は俺達の神が元になってるんじゃなかったのか?
「ああ。いなかったさ。俺が来るまではな」
「……?」
「つまり、アンドゥー教という今までになかった教団を作り、アンドゥー神を信仰させることによって、アンドゥー神が存在せざるを得ない状況にさせた訳だ」
……それで、俺らをここに送ることを決めた神ってのが作ったのか。
「……さあ、貴族の皆さんもどうぞ。初級魔法でもかなり威力が上がっているでしょう。我らに歯向かう反逆者を皆さんの手で処刑してしまおうではありませんか」
演技がかった口調で言う。
「っ!」
神聖鶏騎士団と信徒達が一斉に詠唱を開始する。さすがに、これはヤバい。
「……くそっ」
逃げるしかないか。
「天雷光!」
爆雷光とは違い、殺傷力を重視した雷光で周りにいた騎士達を倒そうとするが。
「全然効かないぞ! 殺っちまえ!」
「なっ!?」
爆雷光より攻撃的な天雷光をまともにくらったんだぞ?
「チッ! 天双牙雷光!」
姿なき雷光の獣が襲うように雷光が激しく襲いかかり、今度はしっかり倒す。……モンスターなら簡単に殺せるんだが、アンドゥー神装とやらの効果か。
「……形勢は不利。一旦引くか!」
俺は雷光の力で空を駆け、襲いくる魔法を避けながら、天井まで向かう。
「逃がすな! 魔法なら当たる!」
コケッティの指示が飛ぶ。
「落天牙雷!」
俺に向かってくる魔法は無視し、殺傷力重視の落雷を起こす。雷の雨のように落ちていく。
「ぐっ!」
俺は魔法が直撃して呻くが、追撃はなく、攻撃は止んでいた。
「雷光拳!」
天井を殴り、そこから外へ出る。
「……畜生!」
俺はアンドゥー教本部から逃げつつ、念話でアーティアに連絡を取ろうとする。
「……通じねえ!? くそっ!」
いつもなら、繋がった、という感覚があるんだが、それが全くない。
「誰か、誰か通じないのか……!」
焦りながらも一人ずつ思い浮かべて、念話を試みる。
「……っ! グラン!聞こえてるか!?」
繋がった感覚があったのはグランだけだ。焦るあまり声に出してしまった。
『……うぅ。シューヤか? 何者かが家にいなかったエイラと俺以外を連れ去った。……すまん』
グランの声は掠れていた。グランがやられた? 本来の姿じゃないとしても?
グラン、今そっちに行く。
俺はグランにそう答えて、自分の家に向かった。




