アンドゥー教の秘密を入手せよ
あまりストーリーが進まないので、早めにもう一話更新します
「……」
俺は伯爵についていき、地下研究施設に来たんだが、いかにもな場所だった。
「このフロアは人工魔物を量産しています」
案内役の説明通り、この階にはいくつものカプセルがあり、カプセルの黄緑色の液体の中に、人工魔物の素、黒いモノが伸びたり縮んだりしながらいた。
「……私が見た人工魔物とほぼ同じですね」
この数の人工魔物が解き放たれたら、パニックに陥る。ただでさえ、もう混乱してるってのに。
「おや。人工魔物を見て寄生されていないのですか?」
案内役がやや驚いたように言う。
「……遠目に見て逃げましたから。得体の知れないモノに近付く程迂闊でもありませんよ」
嘘だった。俺は迂闊にも近付いて、一回寄生された。
「そうですか。賢明な判断ですね。人工魔物の情報は、全て始祖様のもとに集まります。どれだけの数が殺され、どれだけの数が寄生したか。人工魔物は始祖様には逆らえませんから、ここでは安全ですよ。それと、ここにいる人工魔物は準備期間中です。この国を貶めるための。あなたの言った通り、人工魔物の素は完成しています。あとは、始祖様が命令を下すのみ、ですね」
……そこまで完成してるのか。ここの数は約千以上。俺の見えない範囲も合わせると、一万いってもおかしくない数だ。
「……貴族やアンドゥー教信者には寄生しないのですか?」
俺は少し気になって聞いてみる。
「はい。まあ、庶民的貴族は寄生される恐れがありますが、伯爵は大丈夫です。商人と騎士も問題ないでしょう。……冒険者はアンドゥー教反対派が多く、アンドゥー教についてくださるのなら、隠れ家を用意しますよ」
冒険者の安全は保証しないってか。
「ここには洗礼のための施設と魔物融合の施設がありますが、貴族の方が見るには惨いことでしょう。オススメはしませんが、覗きますか?」
「……いや、止めておこう」
伯爵は首を左右に振って拒否し、研究施設は人工魔物の量産しか見れなかった。……まあ、子供が改造されてたら、俺が助けそうになってバレるからいいか。放っておくわけにもいかないが、今は我慢しよう。
「では、今日は定例会がありますので、お二人にも参加していただきましょう」
案内役は言って、研究施設から上がっていく。
▼△▼△▼△▼△
「……」
俺は案内役と伯爵についていき、天井がやけに高い大広間のような場所へ入った。教団の中心部だろう。
アンドゥー教信者や教徒、神聖鶏騎士団が集まっており、皆、ワクワクしているような顔で、顔を輝かせていた。
「それでは、アンドゥー教の始祖にして司祭、アンドゥー教最高権力者のご登場です!」
定例会とやらの司会が意気揚々と言った。この世界で言うマイクを持っている。拡声魔法という魔法がかかっているらしい。
「おぉ……!」
誰かが感嘆の声を上げた。
司祭が、高い天井から何もつけずにゆっくりと、神々しい輝きと共に降りてきたのだ。
「司祭様!」
「始祖様万歳!」
信者や教徒達から司祭・始祖コールが行われ、大いに盛り上がっていた。
「……?」
だが、俺は一人、頭に? を浮かべていた。
司祭や始祖と聞いて、どんなじいさんか、少なくともおっさんかと思っていたんだが。
「子供?」
俺と比べてもかなり小さく、俺と同年代ならチビ、中学生ならチビ、小学生なら普通ってとこだ。目測は百五十くらいだな。
「司祭様に失礼ですよ。しかし、驚くのも無理ではありません。司祭様は若干十六歳ですよ」
俺と同い年か。高校によっちゃあ、ドチビだぞ。
鶏冠のようになっている黒髪に黒く鋭い瞳。身長こそ低いものの、纏う雰囲気は貫禄があり、とてもバカに出来ない。顔は美少年で身長通りの童顔だが、冷徹な色を宿していた。
「……司祭ってのは、頷ける」
俺は誰にも聞こえないように呟く。魔力を探ると、俺よりも上だった。さすがは司祭。伊達に最高権力者を名乗ってねえな。
「ーー我が、アンドゥー教へようこそ」
紡がれた声は子供のようで、しかし厳格で冷徹だった。
「今宵はとっておきのショータイムも用意してある。ゆっくりと楽しんでいくといい」
司祭は作り笑いを浮かべて言う。
「ーーと、堅苦しいのはここまでにして」
は?
「俺がアンドゥー教最高権力者、司祭にして始祖たる、コケッティ・コケトリオⅧ世だ!」
さっきとはうって変わって見かけ相応の声で言った。信者から歓声が上がる。
……いや、コケッティ・コケトリオⅧ世って。まあ、鶏みたいな髪型してるけどさ。神聖鶏騎士団に鶏って字があるけどさ。
「……」
これはねえよ。
俺は同年代のチビ司祭を憐れむような目で見る。
名前は自分で考えるんだろ? 異世界から来たんだから。それでコケッティ・コケトリオⅧ世? 俺よりネーミングセンスねえよ。
「今俺のことチビとかちっちゃとか思ったヤツ死刑な。……まあ、俺に逆らうとどうなるか、実際に見てもらった方が早い」
コケッティはそう言うと、司会に顎で合図する。
「はい。それではお待ちかね、本日のメインイベントを始めます!」
わああぁぁぁ! と歓声が上がる。
「この部屋の奥に、魔力を通さない扉があります。その中を、今回は特別に披露したいと思います」
司会が言うと、暗がりでよく見えなかった奥の巨大な扉にスポットライトが当てられ、ゴゴゴゴ、という重々しい音をたてながらゆっくりと開いていく。
「っ!」
俺は魔力を通さない扉が開かれることによってじわじわと漏れ出した魔力を感知し、ある程度の予想をつけ、驚愕する。
……禍々しくて、嫌な、全身を這うようにまとわりつく魔力。フィネアよりも強大で、魔力感知を出来るヤツを絶望させるような魔力だった。
「……アンドゥー教最高傑作……!」
アーティアの話では、ヴァルキリーより強いという。確かに、フィネアよりも強大だ。俺達が束になっても敵うわけがない。
「レディース、アンド、ジェントルメーン! 紳士淑女の皆様! これが我がアンドゥー教最高傑作にして最高戦力、カオスです!」
カオス。確かにそうだ。混沌という点ではその通りだが、気持ち悪い。毒々しい黒と紫が混じり合ったような色に、高さは大体三十メートル。顔はよくわからないが、上の方に大きくズラリと牙の並んだ口があるので、その辺だろう。腕とか脚と呼べるモノはなく、イソギンチャクのようなモノや口だけのモノや触手のようなモノがそれらに近い。全体的にゼリー状らしく、泥々していて下はヌルヌルしていた。
「俺が作ったから、俺の命令には従う。だが、うっかり命令してしまうかもな。俺は気が短いんだ」
……こいつを見せることで、貴族達に裏切れないようにしておくのか。
「では、こいつは俺が命令しなくても食欲旺盛でな。あまり長時間見せるわけにもいかない。そろそろ閉じようか」
コケッティが言い、扉がまた閉まっていく。
「それでは、俺に逆らおうっていう愚か者を始末しよう。神聖鶏騎士団。捕らえよ」
最初の冷徹な口調で命令する。
「……」
鎧を着たヤツらの剣や槍、その後ろにいる魔法使いの杖、そして嘲笑うような信者、教徒の視線。
それら全ては、俺に向けられていた。




