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英雄、やります(仮)  作者: 星長晶人
アンドゥー教編

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38/85

アンドゥー教に潜入せよ

「……」


 俺は馬車に揺られながら、周囲の敵を警戒していた。いざとなれば倒せるが、あまり手の内は見せたくない。


 今はたまに出るゴブリンを殴って倒したり、他のモンスターも俺が引き付けて、後で馬車に合流するようにしていた。


「……」


 特に会話はない。思案顔で馬車に揺られている伯爵。


「……ん?」


 魔力を探知していると、魔力の集まる場所があった。


「……そろそろ着くようだな」


 俺の様子を見たのか、伯爵は覚悟を決めたような表情で言った。


「着きました」


 しばらくして御者が馬車を止める。


「……でかいな」


 周りは森に囲まれていて、アンドゥー教の拠点は大きな教会だった。


「これはこれは。ヴェライト・アルベルト伯爵様」


 教会の入り口に立っている見張りが恭しく頭を下げて言う。


「中立からやっとこちらについてくださいましたか。それで、こちらの方は?」


 見張りは俺を見て言う。


「私の護衛だ。人工魔物とやらに襲われては敵わんのでな」


 アルベルト伯爵はありそうな理由をつけて俺を紹介する。


「……そうですか。では、中までついていってもよろしいですよ? 教団の人工魔物は始祖様の命令に忠実ですから、こちらについてくださる人を襲ったりしません。ですが、何分初めての方は護衛を連れていらっしゃいますから、例外というわけでもありません」


 見張りは説明をして、俺が中に入ることを了承する。


「それでは中へ」


 見張りは教会のドアを開け、俺とアルベルト伯爵を中に入れる。


「……」


 中は薄暗く、所々にスポットライトのようなものがあるだけだった。


 豪華な衣装を着た老若男女が多いことから、大部分が貴族とその夫人、それと子息と令嬢ぐらいだろう。


 時折鎧を着た騎士や冒険者のような者を見かけるが、その数は少ない。


 もちろん、人間だけだ。


「ヴェライト・アルベルト伯爵。ここからは私が案内いたします」


 伯爵と俺の前に、一人の男が現れた。


「ああ」


 伯爵は頷いて、案内役をかって出た男についていき、俺もその後に続く。


「アンドゥー教信者は大部分が貴族で構成されており、他には王族や商人、騎士がいます」


 案内役が説明をし始める。


「噂の第二王子、か」


 伯爵が嘲りを含んで言う。


「はい。現国王の第二王子にして、王族の立場を利用し遊び放題。気に入って女性がいれば、人妻でも奪っていくそうですね。そして、貴族さえも見下すような傲慢さ。アンドゥー教では、彼を次期国王にし、それから政権を乗っ取ろうという予定です」


「ふん。あんな愚かな王子を王にしたらつけ上がってこの国は崩壊するぞ」


「だからこそ、利用してアンドゥー教が政権を握るんですよ」


 案内役と伯爵は嫌なニヤニヤ笑いをしながら会話を続けていく。


 ……王は穏健だと言ってたハズだが、やっぱり子供は甘やかして育ててしまうんだろうか。


 ……親になってみないとわからないな。


 俺は感情を表には出さず、無表情を保った。


「それでは、アルベルト伯爵も気になっていらっしゃるであろう、人工魔物について、説明しましょう」


 キタ!


「人工魔物とは、百年前に魔物と亜人の生態系について調べていた学者が作り出したモノです。当時テイマーが少なく、魔物に対抗する術が今よりずっとなかった時代ですから、人工的に魔物を作って使役し、対抗しようと思ったのでしょう。亜人は魔物と人間が同居したような姿ですから、魔物の掛け合わせのヒントがあるかもしれないと、実験に加えました。……結果、魔物に寄生させて操るのが一番だという結論に至り、人工魔物の原型が出来たわけです」


 ……魔物は目を瞑るとして、亜人でも実験してただと? いくら何でも、酷すぎるだろ。


 ………………いや、それが普通だったのか? 亜人は人ではなく、魔物と人間の間の存在だと?


 ふざけんなよ。亜人も人間もねえし、俺の周りなんか、人間じゃないヤツばっかで、魔物の方が多いくらいだってのに。


 やっぱアンドゥー教とは反りが合わねえな。絶対、滅ぼしてやるよ。


 俺はフツフツと沸いた怒りを決して表情に出さず、溜めておく。一気に開放すればいい。


「そして、魔物や人間、亜人にも多大な被害を及ぼし、人工魔物計画は凍結されました。しかし、それを解凍し、完成させた人物こそが我らが始祖にしてアンドゥー教総司祭様です。何でも。異世界から来たそうで、我々にない技術で人工魔物に知能を与え、操る術を作り出し、完璧な人工魔物を作ったのです。偉大な方でしょう?」


「異世界、とな? 俄に信じがたいが、噂の“絶影のスピードスター”とやらも異世界から来たとか」


 ……まさか、俺と同じ世界の住人? なら、尚更許せねえ。身分差別のない世界で育っておいて、身分差別の教団の司祭やってるなんて!


「はい。現在アンドゥー教研究部では、魔物を人間に取り込む実験、魔物を魔物と融合させる実験などを行っています。後で見せますが、人工魔物と数々の魔物を融合させ、喰らわせた最高傑作は物凄いですよ」


 案内役は自慢げに言う。


 最高傑作ってのは、アーティアの言っていたヴァルキリーでも勝てるかどうかわからないってヤツか。


「一つ、いいでしょうか」


 俺は少し確認したいことがあり、案内役に話しかける。


「いいですよ?」


「……アンドゥー教には洗礼というモノがあると聞いたのですが」


 アーティアが受けたという、それだ。……ろくでもないことだろうとは思うが、気になる。


「よくご存じで。はい、確かに洗礼というモノがございます。先程申し上げた、魔物を人間に取り込む実験のことですよ。最初は老若男女がいる囚人で試していたのですが、実験していく内に若い方がよく馴染むということで、孤児院から身寄りのない子供を集め、洗礼を受けさせました。その中で奇跡の起こった例がありますが、聞きますか?」


 ……ろくでもないことだが、最悪だったな。アーティアは幼い頃に洗礼を受けたってことか。


「……はい。それと、魔物を取り込むことの利点を教えてもらえますか?」


「はい。まず、利点からいきましょう。取り込んだ魔物の特性を自分のモノに出来る、ステータスの伸びが良くなる、などの利点があり、特に欠点がないことですね。何体取り込んでも自分ベースのまま、変化することはなく、完全に馴染むと特性のコントロールも可能です。次に、奇跡の例ですが、数少なく、四つしかございません」


 そこで、案内役は言葉を区切る。


「“東の怪物”と呼ばれる、大陸最強の異形、元は女の子だったそうですが、今では見る影もなく。今まで取り込んだ、喰らった魔物の力を混ぜて使える。さらに変化も出来る、洗礼での最高傑作です。“魂の狩猟者”と呼ばれる、元男の子。魂を喰らうことでステータス上昇、特性を奪うことも可能です。“大量虐殺姫”と呼ばれる、魔物の特性や力を武器にして扱え、機械のように虐殺する女です。四人目は金髪の女の子でしたね。特に噂は聞きませんが、殺した相手のステータスを根こそぎ、HPもスキルも、何もかもを奪える能力でした。確か、奴隷に身を引き取られたかと」


「……」


 もしかしたら、アーティアがそれなのか……? いや、憶測はよそう。奴隷に身を落としたヤツなんて結構いるかもしれないしな。


「“東の怪物”が今から十年前、現在十五歳。“魂の狩猟者”は二十七年前、現在三十四歳。“大量虐殺姫”が十二年前、現在十七歳。金髪の女の子は十四年前、現在十六歳です」


 ……年齢が若いのが多いな。最近の技術なのか?


「洗礼を受ける側の素質だとされています。四人目は完全に行方がわかりません。……説明はこれでよろしいですか?」


「はい。よくわかりました」


 お前らが、最低だってことがな。……アーティアにも手を出していやがったとは。


「それでは、研究施設を案内しましょう」


 案内役はにっこりと内心を見せない笑顔で言った。

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