ヴェライト・アルベルト伯爵を説得せよ
かなり遅くなりました。
すみません。
さらに、遅くなった割りにはそこまでの内容ではないという……
あらためてすみません
「……話はギルドマスターから聞いている。なんでもアンドゥー教反対側中立派の私の護衛として潜入したい、と?」
恰幅のいい中年の男が白の混じった顎髭を撫でながら言う。
「……はい。ヴェライト・アルベルト伯爵」
俺は恭しく一礼する。作法は一通りアーティアに教えてもらった。
伯爵は五爵でも真ん中の権利を持つ。……アンドゥー教に従った方が確実にいいのにな。
「して、貴殿は?」
「……冒険者のシューヤでございます」
余計なことを言わず、最低限のことを言う。
「シューヤよ。貴殿は何故、アンドゥー教を狙う? 直属の神聖鶏騎士団に、噂の人工魔物までいるのだろう? とても腕利きの冒険者とは思えんが」
僅かに嘲りを含めて言う。……アーティアがいたら、脅してくれたかもな。いなくてよかった。
「……私はそこまで強いわけではありません。仲間が強いのです」
俺は正直に答える。術式を使えば、こんなヤツすぐ殺せる。……出来ればそれはしたくないし、面倒なことになる。
「……ふん。捨て駒ということか。まあ、新参者なら仕方のないことだろう」
嘲るように言う。……実際は俺が中心だけどな。
「アンドゥー教には強力な生物がいるということですから」
俺が捨て駒だということを肯定する。自分を侮らせた方が今後のためにもなる。
「だが、潜入なら他に適した者がいるだろう。“絶影のスピードスター”とやらが」
“絶影のスピードスター”って、結構有名なんだな。ギルマスに聞いた話だと、気配、殺気、魔力、存在。それらを全て消せる能力の持ち主だとか。存在が消えてたら知ってるヤツはいないから、姿を消すレベルだろう。……まあ、それら全部なら存在を消したも同然だけどな。
「ですが、彼は忙しい身ですから。アンドゥー教ごときに呼ぶ方でもないでしょう」
「ほう? 新参者にごとき呼ばわりされるとは、アンドゥー教も堕ちたもんだな」
「……いえ。私は強さを言っているのではなく、平民だろうがいる有能な人物をないがしろにするような教団はごときを付けようとも構わないと思うだけです」
貴族相手に失礼な気もするが、しょうがない。
「……まあ、そういう愚かな貴族もいるがな」
アルベルト伯爵は苦々しい顔でそう言うが、俺に貴族をバカにされたからなのか、愚かな貴族がいるからなのかはわからない。
「それで、協力していただけるのでしょうか?」
俺は半ば強引に本題に入る。
「……危険性もあるが、ギルドマスターの頼みだ。受けるとしよう。だがーー」
アルベルト伯爵が俺を値踏みするように見る。
「貴殿は貴族である私を守ってくれるのか?」
「……それは、バレた時にですか?」
「ああ。これでも領地を持つ身だ。妻子も妾もいる。それに、死にたくはない」
……結局は保身のためか。
俺は内心失望するが、人間皆、死ぬのは怖いもんだ。俺だって、死にたくはない。
「……貴族をバカにしたようなことを言った私を信用して欲しいとは言いません。ですが、伯爵夫人やご家族を悲しませるのは不本意であり、護衛に全力を尽くします」
例え愚かな貴族だろうと、家族を悲しませるのは忍びない。
「……その言葉、しかと受け取った。私がこの件、受けよう」
アルベルト伯爵は大仰に頷いて言う。……これで一段落か。
「日時はいつにします?」
「……ふむ。明日は用があるのでな。貴殿が良ければ今日、ということになるが?」
貴族は何かと忙しいんだろう。明後日も予定があるかもしれない。
「……急ですが、準備は大丈夫ですので、今日でよろしいですよ」
俺も、なるべく早く情報収集しておきたいしな。
「……そうか。では、私の馬車で教団へと向かおう。貴殿は御者が出来るか?」
なるべく人数を少なくしたいんだろうか。
「……出来ないこともないですが、それでは遅くなるかと」
遠回しに腕がイマイチだと告げる。
「そうか。では、こちらで御者を用意させる。すぐに発てるようにしておけ」
アルベルト伯爵は命令して、去っていく。
「……作戦の第一段階完了、か」
俺は誰もいなくなった部屋で一息つく。
「……さて。俺もあいつらに頼りきりじゃなく、ちょっとは活躍するか」
俺は大きく伸びをして言い、伯爵家を出た。




