アンドゥー教潜入計画
「それでご主人様。具体的には何を?」
俺とアーティアは家の中々に広く、軽く演習場並みの広さの庭に相対していた。
「アーティアって結構強いんだよな? 俺、まだ見たことないんだが」
「大体、他の娘達と変わりませんよ。第一、私は色々と紛い物ですから。ただの人間ではありませんしね」
……そうなのか。前言ってたアンドゥー教の洗礼ってのが関係してるのか?
「ただの人間じゃなくても、ちょっとした人間ではあるんだろ? それであいつらと同等なんて、凄いな。主な武器とか戦い方は?」
「主に使うのはナイフや小刀で、あまり大きいモノは使いません。戦い方は、威力ではなく速さを重視しています」
メイド忍者みたいな?
「アーティアが出来ることって何だ?」
「……私は幼い頃から立派な奴隷になるように調教されました。剣術も武術も魔法も暗殺術も、家事からご奉仕まで様々なことを覚えましたので。ステータスも全てが六桁という、高くても特化していないモノです」
……何でも出来るオールラウンダータイプか。
「まあ、六桁って凄いな。アーティア。武器の扱い方を教えて欲しいんだが」
「はい。何を教えましょうか?」
「剣と槍と矛だな」
今んところ、それくらいだ。
「わかりました。私の分の神器も作ってください。実戦は上達の近道、ですから」
「ああ。聖槍グングニル、魔槍グングニル」
俺は片手ずつに純白の槍と漆黒の槍を出現させて、アーティアに聖槍グングニルを渡す。
「グングニルですか。オーディンの槍ですね。しかも白と黒、両方も。さすがはご主人様です」
アーティアは受け取って、軽く振り回す。
「ご主人様が考えたとは言え、神器は神器。しっくり馴染みます」
本物じゃないが、気に入ってくれたらしい。
「じゃ、始めるか」
「はい」
アーティアは頷いて、聖槍グングニルを構える。俺はそれを真似て構える。
▼△▼△▼△▼△
「……」
チー……ン。
そんな音が聞こえそうな程、俺は死にかけていた。
あの後剣、矛と試したが、基礎は叩き込まれたのでいい。
が、アーティアに神器の力をもってしても傷さえつけられないとは。レベルやステータスの差があっても悔しい。
「……ご主人様、昼食のお時間ですよ」
メイド服にエプロン姿のアーティアが俺を呼びに来る。
「……はいよ」
俺はのんびりと家に入る。アーティアはあれだけ俺をボコッといて、ピンピンしてやがるぜ畜生。
「ご主人様、どうします?」
「ん?」
俺が席に着いて飯を食べ始めると、アーティアが声をかけてきた。
「アンドゥー教ですよ。最近人工魔物の数が増えてきていて、国内に入ってくるのも時間の問題です。人間に寄生出来ることがわかっている今、それを防がなければ」
確かに。人間に寄生されたらヤバい。
「……俺の考えじゃ、アンドゥー教信仰の貴族にアーティアを送って偵察と情報収集しようと思ってたんだが、そうのんびりしてる暇もないか」
情報は武器である。誰かが言った通り、俺はそれを実行して情報を仕入れようと思ってたんだが。
「時は一刻を争いますから。アンドゥー教に忍び込めばいいのでは?」
……確かに、な。だが、貴族や王族中心のアンドゥー教に奴隷や冒険者が入っていくのは怪しまれそうだ。
「……俺にいい考えがある。護衛をすればいい」
「護衛? 誰のですか?」
「俺にいい考えがあるって言ってるだろ。アーティアは来るな。皆には数日ぐらい出掛けると言っておいてくれ」
「ご主人様、私も行きます!」
「いや、今回は単独行動の方がいい」
「……ご主人様は私を信用してくださらないのですか?」
「……いや、違う。信用してるからこそ、この家と皆、俺の帰ってくる場所を守って欲しいんだ」
アーティアをじっと見つめて言う。
「……はい。寂しいですが、ご主人様を信じています。見送る前に、魔力を感知出来るようにしましょう」
「……それは役に立ちそうだ。サンキュ、アーティア」
俺はアーティアに魔力感知のやり方を教えてもらい、皆やっぱスゲェ! と思いながら家を出た。
意外と、エイラとイシアも魔力が高い。レベルもそれなりにあるらしい。……ってか、俺よりも上だった。
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「マスターと面会出来るか?」
俺はギルドに行き、受付嬢のリンナに話しかけた。
「はい。大丈夫ですよ」
「じゃあ、今すぐ面会したいんだが、大丈夫か?」
「はい。何か急用のようですし、どうぞ」
相変わらず、俺にはにこりともせずにリンナは俺を二階に案内する。……俺、何か嫌われてるんだよな。
「……シューヤか。何か用か?」
マスターが若干やつれて座っていた。リンナは失礼します、と言って去っていく。
「ああ。単刀直入に言う。アンドゥー教に潜入したい。中立派だが、アンドゥー教反対派に傾きつつある貴族か王族で、それをアンドゥー教に知られてなくて、愚かじゃない貴族はいないか?」
「……注文が多いな。だが、いることにはいる。それで、貴族を探してどうする気だ?」
……いるのか。ならいい。
「ああ。俺は中立派貴族の護衛としてアンドゥー教に潜入する。中立派から賛成派に傾いた、と偽ってな」
そうすれば、アンドゥー教にバレることなく潜入出来る。
「……わかった。その計画を伝えて、了承が取れたら連絡する。無理でも連絡するが、そしたら俺が中立派の商人を紹介しよう」
「ありがとな」
「ああ、シューヤ。アンドゥー教殲滅について、助っ人を雇った。“絶影のスピードスター”と呼ばれる、お前達と同じ異世界人だ。かなりの使い手だが、金でしか動かない。金払いのいいヤツにつくのがそいつでな」
……それって、逆にピンチだろ?
「……マスター。あんまり、俺らの情報を異世界人に渡すなよ。せめてマスターが善人だと思ったヤツだけで頼む。異世界から来たって人間は人間。悪は悪なんだからな」
“絶影のスピードスター”ってヤツは金払いのいいヤツにつく。ということは、マスターより高値で雇われれば簡単に裏切るってことだ。特に、今回は雇ったのが失敗だったと思う。
アンドゥー教は貴族などの金持ちに信仰される宗教。もしそいつがこっちに来てアンドゥー教に見つかれば、倍の金でも出されてこっちの負けだ。
「わかった。くれぐれも気をつけよう」
「……ああ」
俺はいや、もう気をつけてねえし、と思いながらも頷いて、マスターの部屋を出てギルドを後にする。
「……ふぅ」
ちょっと、最悪の事態に備えてネガティヴ思考でもしてるか。備えあれば憂いなし、ってな。




