創造術式
「主、ですか?」
ディメスは半信半疑で俺を見る。……ま、しゃーないよな。
「当たり前だろ? ディメスが俺の身体に容赦ないから、人工魔物に隙が出来てな。バッチリ元に戻ったわけだ」
「……」
まだ信じてくれないか。
「まあ、とりあえず剣抜いてくれ。死にそうだ」
ドクドクと流血して。
「……すみません」
ブシュウゥゥゥ。
「……死ぬ」
抜いたせいで勢いよく血が吹き出した。
「ったく。第四術式、発生」
俺は思い出して、第四術式を使う。傷がみるみる内に治った。
「っ! それはあの時の……!」
ディメスは驚いたように言う。まあ、昨日の今日だからな。
「ああ。術式の使い方は大体理解した。……まあ、その前に人工魔物を倒せなきゃいけないんだが」
「……どうやって、ですか?」
「人工魔物ってのは、乗り移るとか憑依するんじゃなくて、寄生するんだろ?」
「はい。霊体的存在ではありませんから」
じゃあ、いけるか。
「まあ、見てろ。炎術式」
俺の左腕に赤い筋が出てくる。
「浄火」
ボゥ、と俺の全身を炎が包む。
「ギャアアアアアァァァァァァァ!」
悲鳴が俺から聞こえ、黒いモノが飛び出てくる。
「えっ?」
炎の特性は燃焼と爆裂だが、光の特性である浄化を組み込んだ。
「浄化の火ってことだ」
俺の身体から、ウイルスや害を与える寄生虫などを滅する。応用として、他人の病気も治せるんだ。便利だな。
「……サンシャイン・アブソリュート・バースト」
ディメスが手を前に突き出して、何かを呟いた。
まあ、ディメスの魔法だろうな。
「っ!」
カッと目の前が光って、俺は反射的に目を閉じる。
「……?」
何が起こったのかと、光がおさまってから目を開ける。
「……おい」
俺の爪先から三十センチ程しか離れてない地面が消えていた。
「何ですか?」
「いや、やりすぎだろ!」
ぽっかりと半径十メートル程の穴が開いていた。……人工魔物一体に容赦ねえ!
「底が見えないんだが」
落ちたら戻ってくることは出来なさそう。
「これでも威力を押さえた方です。父親は片手でこれの二倍以上の威力を止めましたから」
……さすがディメスの親御さん。ぱねえな。
「……しかし、今となっては自慢になりませんね」
ディメスの表情が少し陰った気がした。……そういや、白帝竜・カイザードラゴンはディメスだけだったな。父親もいないってことだよな。
「何か、嫌なことを思い出させちゃったみたいで悪いな」
「いえ。それより、オーク三体を狩りませんか? この辺にはいないと思いますが」
……まあ、ディメスの魔法で逃げてるだろうしな。
「……主には誤解のないように言っておきますが、私達魔物が使う魔法は、厳密に言えば魔法ではありません。能力です。魔物が持っている力です。魔法は人間が真似をして作ったものが多いんです」
「そうなのか」
まあ、人間は真似することで技術を伸ばした時もあるらしいし、普通か。
「あっ。あちらにオークが二体います。興味でこっちに来そうですよ」
ディメス達上位種ではフツーのことらしいものの一つ、気配察知だ。ちなみに殺気滅殺もその一つ。殺気で殺すヤツな。
「考えるくらいの脳はあるみたいだな」
俺はそう言って、ディメスの指した方向に歩く。
「オークは走っていますね。もうすぐ見えますよ」
結構近くにいたんだろうか。
「ブゴォ!」
匂いか何かで俺達のことを知っていたんだろうか。槍構えて突進してきた。
「……言った傍から」
二体がそれぞれに襲いかかってくる、と思いきや。
「主一人でも大丈夫ですよ。一回やってみましょうか」
二対一か。
「わかった。ディメスがそう言うなら大丈夫だろ」
俺は一歩前に出る。
「試してみたいこともあるしな」
「試したいことですか?」
鎧を作ったあれ。創造術式を、な。
「インドラの槍、ポセイドンの矛」
片手ずつに俺がイメージした神器が出現する。
創造術式は武器や防具を作るためにしか使えず、太陽を作るとか、木を作るとかは出来ないらしい。もっとも、神器を作った時点で物凄い術式だが。
インドラの槍。俺がアレンジを加えているので神話通りとはいかないが、相当な力を持っている。雷を放つことが出来、雷を纏うことも出来る。雷を落とすことも出来る。磁力を発生させたりと、雷を使わせたら超一流だ。黄色く神々しく輝く、先が三つに分かれた槍。槍先の三つは絡み合ってから分かれたような形状。長さは二メートルあるかないかぐらい。
ポセイドンの矛。こっちも俺がアレンジを加えているので、神話通りとはいかないが、相当な力を持っている。これを使うだけで嵐や津波が起こり、水を操る。水を放ったり、水を纏ったり、雨を降らせることだって出来る。大気中の水分も操れるので、かなりのモノだ。水を操らせたら、右に出るモノはないな。先が三つに分かれた、三叉戟という矛。こっちも神々しい蒼い輝きを放っている。長さはインドラの槍とおなじくらいで、二メートルあるかないかぐらい。
「神器を創れるんですか……?」
ディメスが呆然と呟いた。
どうやら、こっちの世界にも神器はあるらしい。
「俺が神器を元にして想像して創造した傑作だ。強そうだろ?」
「……およそ、オークごときに使う武器ではないかと」
ディメスが呆れていた。
「ま、だろうな」
話してる間に接近してきたオークを見る。槍の射程圏内に入ったのか、踏み込んで槍を突き出してくる。
「はっ!」
俺も二本の偽神器を、オークの槍を狙って突き出した。
「ブゴォ!?」
オークの持っている槍が砕け散る。ただの、槍の強度の差だ。
「だらぁ!」
俺に呼応して水と雷を纏う。
「ブゴォ!」
雷が片方のオークの全身をズタズタに切り裂いて、焼き焦がす。
「ブゴォ!」
水がもう片方のオークの腹を貫き、身体の水分を全て枯れさせる(厳密に言うと、水分を外に移動させた)。
「よしっ」
俺は上手く操れたことに喜ぶ。
「……主」
「ん?」
「さっきまでこれでもかという程の晴天でしたよね?」
「……ああ、そうだな」
「何故、こんなにも激しい雷雨になったんでしょう?」
「……俺のせいかっ!」
上手く使えなかったみたいだ。
「……しかも、結構疲れた」
少し息が切れてる。槍ぶっ刺しただけなのに。
「あと一匹残っていますから、その武器は仕舞ってください」
ディメスに言われて、消えるように念じる。
「んじゃ、最後のオークを探すか」
結局、雨と雷のせいでディメスが気配察知に苦労し、見つけて狩り、ギルドに報告してから帰ったのは昼頃だった。
チート発動です。
まあ、もっとチートになっていくと思いますが、よろしくお願いいたします。