これがパリイだ(たぶん)
このエロティックタワーにいるケルベロスは、かなり変わったモンスターというよりも改良を重ねられている。
本来のゲームでも、出てくることは本に書かれている一部のみで、モンスターの名前を適当にあげているものだと誰もが思っていたが、実際には隠しボスとして存在していた。
問題としてはゲームのときですらも、まともにどこで出てくるのかはわからなかったが……
今回は地下でこうやって戦えることになったというわけだ。
「うおおおおお!」
「何やってんのよ!」
「天敵なんだよ」
俺はそう言ってしまうのには理由があった。
盾をもってはいるものの、モンスターのケルベロスが出してくる体液はその盾すらも溶かしてしまうほどの溶解液だ。
溶解液を出すモンスターというのは、確かにゲームで登場する。
これに関しては状態異常というものではないため、俺には対処が難しいものだ。
よって、盾を使う俺からすれば完全に天敵と言える相手なのだ。
「攻撃してなんとかしてくれ!」
「やってるけど、当たんないのよ」
目が潰されていることで見えないケルベロスは、わかる通り音に対してかなり敏感だ。
そのこともあるのか、ナオが攻撃を繰り返すがまるでそれをわかっているかのようにケルベロスは避ける。
では、他のヤンやカナならどうなのかといえば、攻撃は当たらない。
カナに至っていえば、武器が短いこともあって全く役に立たない。
逆にいいことといえば、ケルベロスの攻撃もこちらに当たらないことくらいだろう。
音によってケルベロスは攻撃を避けるし、逆にこちらに攻撃を当てようとしても音によって攻撃をしているわけでそれは、ずれる。
こうなれば、完全に泥仕合のような戦いになる。
こういうときにやれることは、俺が盾でパリイすることで体勢を崩すことだが、盾は溶けてしまうため使えない。
だったら、それを無効化するスキルでもあるんじゃないのか?
普通ならばそう考える。
でも、実際にはそんなものなどない。
「ちょっとでもあの溶解液に当たったら、服が溶けるんだぞ」
「うるさいわね、このままだとジリ貧でしょ!」
ナオが怒鳴るように言ってくる。
どうして俺が怒られないといけないのだろうか?
できたらやっているというのに……
「動きを止めるくらいはできるが、弾くのは無理だ」
「しょうがないわね」
許しがもらえたということで、俺は狙いをつける。
ケルベロスは、攻撃が当たらないことで警戒をしている。
グルウウウウウウなどという唸り声をあげながら、誰を狙ってくるのか考えているのか、ゆっくりと歩いている。
やるなら今だな。
俺は盾を取り出すと、地面にそれを突き立てる。
ドンと音とともに、重たいものが置かれた音がした結果、ケルベロスも狙いを決めたようで、俺のほうへと向かってくる。
向かってくるのが見えた俺は、立てた盾の後ろからさらに離れる。
地面に突き立てただけの盾。
ケルベロスの溶解液じゃなくても、突進だけでも簡単に吹き飛ばされそうなやり方だ。
誰もが何をしているんだろうと思っただろうが、ここからが俺の考えた溶解液に当たらないように盾を使う技だ。
俺はまた盾を取り出す。
この盾は、普通に持つのではなく横向きといえばいいのか、普段上を向いている部分を前にして……そう、サーフィンボードを持つような……持ったことがないので知らないのだが。
こうして俺は倒れないように、少し離れた距離から盾で盾を支えることに成功した。
「こいや!」
「グガアアアアアア」
「うおおおおおお!」
いつものようなパリイではないので、突進の威力はかなり高い。
とはいえ、俺だって強くなっている。
服は少し破けたものの、ケルベロスの攻撃を確実に弾き返した。
「今だ!」
「はあああああ!」
「おい、バカ!」
気合を入れて攻撃をしたからか、ナオは声を出してしまう。
ケルベロスは、その声に反応するようにして、体を動かして攻撃をかわす。
せっかくのチャンスだったというのに、完全にやらかした形だ。
「ご、ごめん」
「謝っている暇はないぞ!」
「わかってる」
攻撃を避けながらも、俺に謝ってくるが、ケルベロスは盾によって動きを止められたのに警戒したのか、攻撃をやらかしたナオに集中して攻撃を行う。
避けることに集中すれば、攻撃が当たることはないと思っていたが、どうやらそれも時間の問題みたいだ。
ケルベロスからはさらに多くの溶解液が零れ落ちている。
これによって、周りにまき散らされている量も増えていく。
攻撃だけをかわすだけなら簡単だが、問題はそこではないことは誰が見てもあきらかだ。
「ど、どうすれば!」
「わ、わかりませんわ」
てんぱっている二人は完全に使えない。
となると、この状況を変えられるのは俺だけだ。
タイミングを見ないといけない。
攻撃は俺でも盾をもっていなければ避けることは可能だ。
でも、俺の攻撃がケルベロスにダメージが入るかどうかで考えれば、まずありえない。
どうやったら、この状況をなんとかできる?
弱点を攻撃するとかか?
攻撃が当たらないのに?
考えてもいい答えは見つからない。
相手の溶解液が対処できないほどの量になる前に、何か手を打たないといけない。
ナオはというと、なんとかできないかと短剣を投げたりもするが、溶解液によって溶かされてしまう。
小さすぎるゆえということもあるが、ケルベロスに攻撃を当てるには最低でも正面からでは絶対に無理だ。
口から零れる溶解液が前方に撒かれてしまうので、投げた短剣が当たったとしても、剣としての部分がなければ対したダメージにはならない。
これまでの溶解液でも、使えるようなものといえば、俺が出した盾くらいだ。
当たった盾の表側は確かに少し溶けたような跡があるものの、それ以外は無事だ。
盾なら、多少なら受けられるってことか……
待てよ、そうなると一つだけあるな。
俺はあることを思いつく。
やる価値はあるな。
できるかどうか?
そんなものは、やってみたらわかることだ。
どっちにしろ、何もやらなければ溶解液によって、誰もがやられてしまう。
俺はじっとケルベロスとナオを見る。
ここからはタイミングが大事だからだ。
決して溶解液によって徐々に肌が見えているナオを見ているわけではない。
「くう……」
ナオの体に一瞬だけ溶解液が掠めたことで、痛かったのだろうか、苦しそうな声をあげる。
その声を待っていたかのように、ケルベロスはさらに詰め寄るが、ナオも負けじと短剣を振るう。
ここだ!
俺は叫ぶ。
「カバー!」
スキルを使うことで、ケルベロスとナオの間に入ることができた。
俺はそのままナオの短剣攻撃を後ろに向けていた左手の盾でパリイする。
キンという音が鳴るとともに、パリイによる反動によって前に押し出されると、今度はすぐにケルベロスの攻撃をパリイする。
どちらの攻撃も、完全にタイミングを合わせることによるスキル、パリイが発生しなければいけない。
かなりシビアながらも、俺は成功させた。
「うおおおおおおお!」
「グガアアアアアア!」
二つのパリイによって勢いがついた結果、さすがのケルベロスも体が弾くことができる。
ここまでくればわかるだろう。
後はこのケルベロスを全員で……
「あ……」
「ガアアァァァァ……」
袋叩きにしようと思ったのだが、ケルベロスの姿はない。
完全に俺たちは忘れていた。
この場所には下に落とされるくぼみが多くあることを……
そして俺は思わず声に出す。
「アイテムが入手できないだろ!」
だけど、その言葉はむなしく地下に響くだけだった。




