そこにいるんじゃなかったの?
※
ナオは考えていた。
ここから何をすればいいのかを……
(一緒に行くのはいいけど、ここからはどこにいけばいいのよ)
後ろに少し離れてヤンがついてきている。
「ねえ」
「なんでしょうか?」
「この後、どうするのかわかる?」
「どうするのかでしょうか?」
「まあね。ちょっとあるでしょ、なんか」
「なんかでしょうか……」
ナオの曖昧な言葉にヤンは言葉に詰まる。
何かと言われても難しいからだ。
そして、二人の間に沈黙が流れる。
(どうしよ、何も思いつかないんだけど)
さすがに沈黙を続くのはきついとナオも考えてはいるものの、話題がない。
「ちょっとお茶でもいかない?」
「構いませんが、どこでお茶をされますか?」
「あ、えっと……」
適当なことを口にし、まさかのってくると思っていなかったナオは取り乱す。
「いや、違くて……」
「何か間違いがありましたか?」
「そう言われたら、間違ってはないんだけど……間違ってはないんだけどね」
「では、参りましょう」
「違うの……そもそも行かないの」
「どういうことでしょうか?」
不思議そうにしているヤンを見て、ナオは思う。
(どうしてこう、天然キャラみたいな感じなのよ、ヤンは……)
ナオが見ている限りでは、ヤンという女性は天然キャラではなかったはずだ。
そこからナオが考えるヤンがどうしてこういう反応をするのかということは……
「私で遊んでる?」
「なんのことでしょうか?」
「絶対に遊んでるでしょ」
「どうなのでしょうか?」
ヤンはとぼけるように口にするが、それでナオは確信する。
(ヤンも私と同じ存在ってこと?)
これは、もしかしてとナオはずっと考えていたことではあった、自分と同じようにこの世界の住人ではないのではないかと……
(このことは、伝えるべきなの?)
とはいえ、知った情報をあなたに伝えるべきかについては悩んでしまう。
一緒にいるタイミングでは、絶対にナオたちにわかるような言葉使いだったりはしていなかったからだ。
(普段は言えないってこと?)
ナオが考えられることがこれだった。
実際のことはわからないとはいえ、考えられることというのが、今はそれだけだった。
自分と同じ存在だというのであればとナオは考えると、次に言うべきことを口にする。
「じゃ、ヤンはどこに向かうべきだと思う?」
「わたくしですか……難しいことを聞かれますね」
「難しいことなの?」
「はい。だって、わたくしが行きたい場所というのは、わたくしだけが得をする場所になりますよ」
ヤンはナオを見据えてそう言う。
偽りのない言葉だということをナオはすぐにわかった。
(自分だけしか得をするってどういうこと?)
だけど、言っている内容をナオはわかっていない。
それはそうだ。
ナオはこれまで自分が主人公に選ばれないように動いてきた。
主人公に選ばれることによって得ることができる恩恵など、知ることはない。
頭には多くのはてなが浮かぶ中で、ヤンはナオに言う。
「わたくしが、今後を選んでもよろしいでしょうか?」
「いいわよ」
「そ、そうですか」
「うん」
ヤンはナオが悩むことなく言ってくることに戸惑っていた。
普通であれば、自分だけが得をすると言われれば、断ると考えた。
でも、ナオは違っていた。
得をすること。
そう言われて、なんとなく考えたのが、自分がヒロインとして選ばれることだと瞬時に察したからだ。
逆にナオはヒロインとして選ばれたくない。
よって、何かを言われたとしてもいいよと答えることはナオからすれば普通のことだった。
(なんにしろ、誰を選ぶのなんか坊ちゃまのあいつ次第だしね)
ナオはそう考える。
すでにいつもとは違う、メインヒロイン五人が一緒に行動している時点でどうなるのかなんて、誰もわからない。
「じゃ、行くわよ」
「わかりましたわ」
元気よく言うナオに少し不満ながらも、ヤンは自分が有利に働くようにと、これまでの経験を頼りに歩いていく。
ヤンが知っている内容があった。
それは、ヒロイン変わる可能性があるタイミングだ。
本来ヒロインと喧嘩をしたり、モンスターに襲われたりすることになればゲームオーバーへとなるのだが、その前に他のヒロインに相談として会話を過剰に繰り返しておくと発生するのが、入れ替えというものだ。
ゲームをやっているときも、できることではあったが、普通にやっていると意識することはないようなものだが、だからこそ余計に知っているものからすれば必要なことだった。
今であれば、ヒロインの好感度については一定であることはヤンもわかっていた。
よって、選ばれるために必要なことは単純で、気に入られるかどうかだけだ。
気に入られるためには、何がいいのか?
ヤンはわかっているつもりだ。
この終わっているような世界に共感すること。
そして甘い言葉をささやくことだ。
「わたくしなら、できますわ」
自分なら選ばれることができるとヤンは服のボタンを少し緩める。
その後ろでナオは安堵していた。
(ちゃんと進んでそうね)
自分が選択するのではなく、誰かがやってくれることでこの世界が動いているからだ。
(そうよ、これでいい。私はちょっとしたことだけ、やればいい)
ナオはそう思いながら、ヤンの後をついて歩く。
二人が向かった先というのは、エロティックタワーだった。
ヤンは確信をもって、この場所にやってきたのだが……
「開いていませんわね」
「ねえ、何やってんの?」
「それが、どうしてか入れませんわ」
「どうしてかって、それじゃだめでしょ」
「し、仕方ありませんわ。わたくしだって、ここにいると思ったのですから」
ヤンは信じてこの場所に来たというのに、どうやら違っていたらしい。
(結局当てずっぽうじゃないの!)
ナオはそう思うものの、次に何をすればいいのかわからない。
よって二人はこの場所で途方に暮れるしかないのだった。




