急なピンチはやってくる
「ほんと、あった」
「だろ」
俺たちは、また地下に続く階段を下りていた。
またなのかと思うが、今回に限っていえば先ほどとは全く違っていた。
どうしてなのか?
それは、階段に原理はわからないが明かりが灯っていたからだ。
「結構あるな」
「ん……さっきより深い?」
「かもしれないな」
地下に続く階段は綺麗ではあるものの、距離はしっかりとあった。
明かりがついているからこそ、今でも使われていることはわかる。
後は、ここにチカがいるかどうかだけだ。
大丈夫だろうと思いながらも、俺たちは歩を進める。
そもそも、どうやってこの場所を見つけたのか?
それは、この世界にある開かずの間に手当たり次第カードをかざしたからだ。
地味な作業ではあったが、こうして成果があったのだから、苦労に見合っていると考えるのが無難だろう。
「ここにいるのか?」
「どう、だろ」
「行けばわかるな」
「ん」
さらに下っていくと、大きな金属の扉があった。
「この先か?」
「みたい……」
少し息を整えるとゆっくりと扉を開けると中から声が聞こえる。
この世界に来て聞きなれてしまった声だ。
どんな会話なのかはわからないが、誰かと会話をしていることだけはわかる。
「誰だ、お前たちは!」
「誰って、この学園の生徒だ」
「何!?そんなはずはないだろ!ここに来るためには特別なアイテムが必要なはずだ!」
「カードのことか?」
「!?」
「そんな驚いた顔をしていたら、正解だって言ってるようなものじゃないのか?」
「うるさい!」
男はかなり動揺しているようだ。
まあ、それはチカも同じみたいだが……
「なんで、ここに来たんだよ」
「いや、いなかったら探すだろ」
「なんでだよ!」
「なんでって、普通に戦力として必要だからに決まってるだろ?」
俺の答えはこれだ。
「ぷは、んだよそれ……でも……あり……」
ありがとうとチカは言いたかったのかもしれないが、言葉は繋がれなかった。
俺たちの体がイベントが始まったようで自由には動かなくなる。
そして、足音が部屋の外から聞こえてくる。
大きな音だ。
「なん……がい……」(なんだ?部外者がいるなあ)
入ってきた恰幅がいいいい服を着た男。
すぐに裕福なものだとわかるほどだ。
「部外者?俺たちは、学園の関係者だ」
だけど、俺はすぐに言い返す。
「は……てる……され……ぞう……」(は!何を言ってる?招待もされていない小僧どもが)
「俺たちのことを言っているのか?」
「あた……」(当たり前だ!)
「招待をされていないのは、あんたもだろう?」
ここまでは互いに言葉をぶつけるだけだ。
問題は、ここからだ。
「へら……は……よう……」(減らず口だけは得意なようだな)
「だったら、どうだってんだ?」
「わか……か」(わからないのか?)
男はそう言葉にすると、気持ち悪い笑みを浮かべる。
悪だくみを思いついたような表情に俺は嫌な予感を覚える。
「おい……を……ぞ……」(おい!いいことを思いついたぞ。女!)
裕福な男は、チカに向けて投げたのは小さな短剣だ。
「そこ……とこ……まえ……に……ぞ」(そこのうるさい男を刺せば、お前の金をチャラにしてやるぞ)
「は……こと……でき……いで……」(はあ?そんなこと、あたいにできるわけないでしょ!)
「だ……そ……」(だったら、そっちの女か?)
裕福な男は、今度はリーヤに向けて短剣を投げる。
「さあ……や……ぞ」(さあ、どちらがやってもいいぞ!)
悪い笑みを浮かべながら裕福な男はチカとリーヤに短剣を渡した。
何を言っているのかは確かにわからないとはいえ、やらせたいことくらいはわかる。
二人のうちどちらかに俺を殺させようとしているのだろう。
でも、二人とも短剣をとることもなく見つめている。
誰も動くことはない。
なんだ?
何が起こってるんだよ。
▶チカに刺される
リーヤに刺される
逃げだす
現れた選択肢というのは、俺の予想していなかったものだ。
なんだよ、このくそみたいな三択はよ……
誰かに刺されればここはうまくいくのかもしれない。
だけど考えてほしい。
刺されたら痛いってことを……
だったら答えは一つだ。
やれることがまだあるはずだからだ。
選択肢は三つ。
確かにこの三つだ。
チカに刺される
リーヤに刺される
▶逃げ出す
俺は選択肢をちゃんと選んだ。
すると勝手に体は後ろを向く。
そんなわけでもなかった。
逃げ出す。
それは確かに刺されることからだけだと考えたからだ。
「しょ……」(正気か!)
「ああ!」
二人が選択するよりも動き出した俺は、裕福な男に向かっていく。
周りから見ればタックルをするような勢いで向かっていくが、俺はいつの間にか裕福な男の前に出てきたもう一人の男に体を止められた。
「さす……して……しに……えら……をだ……て……わい……から……」(さすがにこちらとしても、依頼主に危害を加えられるのを黙って見ているわけにはいきませんからね)
「も……くと……」(もっと早く止めろ!)
「いら……しん……たの……」(依頼主が、楽しんでおられましたので)
「ふん……」(ふん……)
いつからいたのかはわからなかったが、そこにいたのは明らかにできそうな男だ。
「さあ……なよ」(さあ、殺されるなよ)
男はその言葉を言った後に、姿が消える。
次の瞬間には、俺の体は宙に浮いていた。
はあ?
何が起こった?
わけがわからないまま俺は壁にぶつかる。
痛いとかのレベルを超えた痛みが全身に広がる。
まるで、体の中がズタボロになったようだ。
だけどそれと同時に体は自由を取り戻す。
体は痛く、思考も少し悪い。
この状態で戦えってことなのか?
「あぶ……」
リーヤの声が聞こえたような気がして俺はすぐに横に転がる。
すると先ほどまで頭があった位置にナイフが突き刺さった。
「避けられるじゃん」
男がどこか嬉しそうに言葉にする。
俺はというと、ナイフを見て思う。
なるほど、リーヤやチカにナイフを渡していたのは、この男だったのかと……
満身創痍な俺に裕福な男は言う。
「いいぞ!殺してしまえ!」
「うるさいぞ!」
だけど、それに対して男は言い返す。
「お前、依頼主に向かって!」
「そうだな。でも、だからこそ殺すときにはやりたいようにやらせてくれとお願いしていたよな」
「ちっ……いいだろ……こい!」
「ちょっと、何すんだよ!」
「どうせそこの小僧は死ぬ。我々ができることは、こいつの邪魔をしないことだけだ。じゃないとどうなるか、忘れたわけではないだろう?」
「く……」
満身創痍のあなたにチカも駆け寄りたかったが、裕福な男に言われてしまえばどうしようもない。
だけど、この中で一人。
リーヤだけは、この状況を変えられる可能性があると思っていた。
でも、リーヤは男の姿を見て口をパクパクと動かすだけで止まっている。
「死なないように楽しもうぜ!」
「はあ、はあ……ぶっ……」
俺は血を吐きながらも、この楽しくもない状況が始まろうとしていた。




