選択肢は体にきく
新しい手がかりがないまま、俺はチカを探すために歩き回る。
だけど、何も見つからない。
それでも違う点はいくつかあった。
一つは、ヒロインたちが移動していたところだ。
先ほどまでいた場所には誰もいなくなっていた。
これはもしかしなくても、全員が寮へと帰ってしまったのだろうということがわかった。
「何も手がかりもないんだが……」
それなりの時間探した結果、何も見つかることはなかった。
ということはだ……
そもそも、今日ではなかったのだろうか?
思わずそう考えてしまう。
他のヒロイン全員が寮へと戻っていることから、俺も同じように寮へと帰ってからでしかイベントが進まないとしたら?
それならば、寮の自分の部屋に戻るしかない。
一度戻って確認してみるほうがいいだろうか?
間違った場合には、イベントが進まないだけだろう。
俺は、寮へと戻った。
寮にいるひとたちというのは、これまでよりもさらに少ない人数にはなっているものの俺一人だけというわけではない。
「数が減っているのを見ると、ちゃんとくっついてるんだな。いいところはイチャイチャしているところを見せつけられることがないことだな。リア充爆発しろと思わなくてすむ」
俺はそんな言葉を口にしながらも、自分の部屋へと戻った。
後は眠るだけで明日になり、そこから何かが起こるか、もしくは今日と同じになるかどちからだ。
「寝ているうちに頭の中で考えが整理できたりするだろうからな」
今日はかなりの時間探し回ったおかげで、疲れていた俺はすぐに眠りについた。
すると、何故か夢を見ている気がした。
誰かが自分から離れていくというものだ。
それはいつものことではあった……期待に応えることができなかったせいだ。
わかっているからこそ、今更すぎて何も思うことはない。
選択を間違えてしまえば人は勝手に離れていく……それを無理に追いかけてしまって、余計な手間を相手にとらせたくないからだ。
というのは建前だとはわかっているが……でも、俺は……
そこで急に体に違和感を感じる。
自由に動かないというべきか、なんだろうか……
「う、うううん?」
重たい瞼を開けることで、先ほどまで夢を見ていたことを自覚したし、自分が寝ていたことがわかる。
そして、見ていた夢の内容というのは視界から映る景色が鮮明になるほどに忘れてしまうことになる。
だけど、それも仕方ないことのように体が重く感じる俺の上に乗っている人物がリーヤだと気づいたからだ。
さらにいえば、瞼が重たいところから気付くべきだったが、体の自由がうまくきかない。
このタイミングでイベント?!
だけど、選択肢は出ていない。
そうなると考えられるのは何か違うことをしないといけないとでもいうのだろうか?
俺がそう考えていたタイミングで、上にいたリーヤの顔が俺を見る。
その表情を見ただけで俺の心臓はドクンと高くなるが、仕方ないことだった。
メインヒロインが上目遣いをする。
可愛さというべきか、やはりエロゲーなので破壊力がある。
そのタイミングで腕だけの感覚が戻る。
これにはどういう意味があるのだろうか?
腕が動くということは……
目の前にいるのは可愛い女性。
誘うようにしている、そんな女性だ。
吸い込まれるようにして腕が勝手に動く……この抱きしめたいと……
そのままの流れで腕は動こうとする。
大丈夫。
このままでもきっと……
頭の中でそう考えた結果、腕は女性を……抱きしめることなく肩を掴むと引き離す。
体がそうするのが正解だとわかっているかのようにだ。
「ん……だ……」(ん、うちじゃダメ?)
「ダメじゃない」
「じゃ……て」(じゃ、どうして?)
「もしリーヤを選ぶのなら、今じゃない」
イベントの言葉だ。
それなのにどうしてこんなにも自分に響くのだろうか……
さらに会話は続く。
「そ……んぐ……」(そう。タイミングはいつ?)
「まずは、チカのことを解決してからだな」
「そ……」(そう)
リーヤは少し悲しそうにしながらも、俺の上から離れると言う。
「だ……いそ……」(だったら、急いで)
「わかった」
俺はそう言うと立ち上がると、その場で立ち止まる。
「どう……」(どうかした?)
「少しだけいいか?」
「ん」(ん?)
見ているリーヤの隣で、俺は倍速の威力で自分の顔を殴る。
普通に殴るよりも倍速のせいで強烈な痛みが顔に走るが、むしろ今の俺には必要な痛みだった。
「だ……」(大丈夫?)
「ああ、行くぞ」
「ん」(ん)
会話をすると、開いた窓から俺とリーヤは出ていく。
そこでイベントが一時的に終わったのか、体が自由に動くようになる。
「大丈夫?」
「ああ……」
すぐにリーヤが自分で殴った顔を見て声をかけてくれるが、俺はイベントのときと同じようにしか言葉にできない。
だって、流されそうになった。
自分で選択することもなく、相手に向き合うこともしようとせず……
何が素敵な女性がいるだ!
今横にいるのはリーヤだ。
確かにゲームの中にいるヒロインの一人だ。
でも今は、隣にいるのはここに存在している生身と同じ人だ。
俺はそこであることに気付いた。
「そうか、そういうことかよ……」
「どうかした?」
急に声をあげたものだから、リーヤに不思議そうに聞かれる。
「いや、チカがどこにいるかわかっただけだ」
そう、俺は失念していた。
いや、ちゃんと見ていなかったというべきか……
目指すべくは、あたし……そう、チカだ。
簡単なことなのに気づかなかった。
いないのが誰なのかではなくて、ヒロインの一人としか考えていなかったせいだ。
俺は心当たりがありそうな場所に視線を向ける。
「そう……気づけてよかった」
リーヤは俺の視線で、どこに行こうとしているのかに気付いたのだろう。
同意してくれた。
だけど、このとき俺は視線を場所に向けていることでリーヤの視線が寂しそうに揺れていることに気付くことはなかった。




