逃げられないこと
あの後、何度かの言い合いをした後、内容を思い出すことができなかった俺は、今日の内容というものを教えてもらった。
「エロティックタワーに入るのは変わらないのか……」
「そりゃね。お金を稼ぐ必要があるのもそうだけど、いろんなことがここでは起こってるでしょ」
「だな」
ナオが言う通り、このエロティックタワーでは元のゲームを長くやってきた俺でさえ知らないようなことが多く起こっている。
確かにゲームが現実になっているのだから、当たり前じゃないのかと思うかもしれないが、実際はそうではない。
だって、未だにイベントなどでは、体が勝手に動くからだ。
俺が知っているようなゲームが現実の世界になってしまった物語では……
いわば転生してこういう世界に来たとき、よくゲームの世界にはなかったことができたり、好き勝手といえばいいのかしているものたちが多かった印象だ。
だけど、実際の俺はというとゲームの通りに動いている気がする。
「今日はゆっくり行くんだな」
「慎重にいかないと、何か起こったら面倒でしょ」
「でも、何かが起こるのが、これまでだろ?」
「はあ……この世界も考えものね」
ナオはそう言ってため息をついた。
面倒な世界。
誰でも、この世界を体験すればそう思うだろう。
今回のやることは、エロティックタワーの調査もあるが、それだけではない。
一つ考えていることがあった。
イベントについてだ。
よくよく考えると、本来のゲームでは、もっと会話イベントが発生していたように思うが、今はどういうわけかあまり多くない。
どこか重要だったりするときは、確かに倍速になっているような気がするが、実際のところはわからない。
「ほんとなら、俺たちが普通に会話することがイレギュラーだよな」
「言われてみればそうね」
そう、ここまでのことを考えると、勝手に発生して、話すことが決まっているのがイベント。
そうではない状態で会話をするのが、今なのだが……
この会話が普通ではあり得ない状況だ。
だから、リーヤにキスされたのか?
俺はまた昨日のことを思い出してから、頭を振る。
今は余計なことを考えている暇はない。
そして順調に俺たちは七階に来ていた。
またモンスターが変わったりするのを明かりアイテムの中から見ていた。
予定外なことばかり起こることは、散々経験したため、俺とナオ……ほぼナオのお金でアイテムを用意してからエロティックタワーに今日は入っているため、十階を目指しながらも一階ずつ休憩をとっていた。
「時間がわからないから、どれくらいで登っているんだ?」
アイテムを使っての移動だったため、それほど体は疲れていないように感じるが、とはいえ時間はそれなりに立っているのは間違いない。
気づいていなくても疲れている可能性だってある。
「無理だけはしないようにするか」
「そうね。そもそも、どっかに行かないでほしいんだけど」
「しょうがないだろ、知らないイベントが起こったら気になるんだ」
「少しは自重してほしいわね」
「努力はする」
ナオが言いたいことは理解しているが、そう簡単な話じゃない。
「俺がゲーマーなのが悪いだけだ」
「エロゲーのゲーマーって、言葉にしたら恥ずかしいわよ」
せっかくかっこよく言えたというのに、ナオから帰ってきた言葉はかなり火力が高すぎるものだ。
「さすがに言い過ぎだろ!」
「そう思うなら、言われるようなドヤ顔を私に見せないことね」
確かに、俺のドヤ顔を見てイラッとしたのは理解できる。
でも、さすがに言っていいことはあると思う。
エロゲーが好きで何が悪いというのか。
実際にはエロゲーが悪いのではなく、ドヤ顔が悪いのだが、俺はそのことには気づいてない。
そうしているうちに、明かりアイテムの効果が残り少なくなる。
「これ便利なのはいいけど、面倒ね」
「いや、かなり使えるだろ、今の状況だとな」
明かりアイテム。
その中でも今使っているのは、かなりの高級品である、ランタンだ。
通常ランタンというのは、燃料が必要なのだが、これについてはモンスターの素材をランタンの中に入れることで使用時間が延びる。
素材を燃料にするのに、それなりの時間がかかることもあってその間はランタンを使うことができないが、何度も使えることもあり値段は張るがかなり便利なものだ。
これがあるからこそ、一階ごとの休憩が可能になっている。
「無駄なアイテムを買うよりもいいだろ?」
「そうかもしれないけど、いざという時に使えないじゃない」
「いざというときに使うなら、もう戦ってるんだよ」
「そんなことわからないじゃない」
ナオはそう言うが、これまでのことからいざというときに明かりアイテムは使える。
攻撃のアイテムとしてだが……
まあ、今は必要のないことだ。
今のところ決まっているのは、このエロティックタワーをさらに上ることだ。
そうなると重要なことは、他のヒロインたちとの関係性だ。
「なあ、俺たちだけで話してていいのか?」
「よくないわよ。さっさとあなたが話してきなさいよ」
「急に横暴だな」
投げやりな言葉に思わず言い返すが、こうやって話がわかる相手と話すということが楽だからと逃げていたのだ。
この後も何が起こるかはわからない。
だったら、向き合うしかない。
俺は体を休めている四人に一人ずつ話をしに行くのだった。




