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エロゲーは当倍速で  作者: 美海秋


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悩みはいつものことで忘れる

「ああ、今日は特に酒がうまいな」


 いつものように酒を呷るように飲みながらも、今日はさらに勢いがすごい。

 それもそのはずで、自分が思っていた以上の成果をやったからだ。


「これだから、あいつをこの世界に連れてきたのは正解だったな。さすがだ」


 予想は間違っていなかったと、満足して頷くと同時笑う。


 ここまでうまくいくと、本当に楽しくて仕方ない。

 だけど、ようやくだった。


「面白く……いや、よくなってきたな」


 そう言葉にしながら、一人豪快に笑うのだった。


 ※


 寮に一人、すでに慣れたことなのに、俺は眠れない。


 疲れていたこともあり、いつものようにルーティンをこなして、ベッドに潜り込んでいたが、いざ寝ようとすると頭の中は疑問でいっぱいだった。


「イベントじゃなかったのに、どうしてキスをされたんだ?」


 本来であれば好感度があがり、そこからイベントとしてキスなどが行われるのはわかる。

 ゲームだから……


 だけど、さっきのは違う。

 あまりのことに驚きで硬直してしまったが、イベントシーンのようなものでは決してなかった。


 最初にスカートめくりをしたときの、各ヒロインたちの反応を見ていれば、あんなちゃんとしたヒロインのようなことをしてくるとは考えていなかった。


「わからねえ……」


 だから、考えてもリーヤがどうしてあんなことをしたのかわかっていなかった。

 エロゲーでゲームじゃなくてヒロインに悩むとは予想外だった。


 だけど思う……こんなことで悩むのはいつぶりだ?と……


 これまでも、それなりにゲームをしてきた。

 それは、ゲームが好きだからという理由もあるが、人という存在が苦手だったからだ。


 どうやっても思い通りに会話ができたり、行動に示せたり……

 それができない結果がこのゲームをやっている自分であったはずだと思い出す。


「あー、くそ……本当にどうなってんだよ……」


 俺は力なくそう言葉にする。


 ぐるぐるといろんな考えが頭に周りながらも、なんとか眠るまでそれは続いた。



 次の日の朝。


「あー……寝れた気がしねえ……」


 いつもよりもさらにボサボサになっている頭を少しだけ整えながら寮を歩く。

 すでに生徒同士でいい関係になれたということなのだろう。


 羨ましいと前までは強く思っていたのに、今はどうすればうまくその関係になれるのかと疑問だ。


 ゲームのように選択肢が出るのであれば、何度も繰り返すだけで思い通りの展開になるが、失敗できない人間関係のとき、どうすればいいのかわからないことに今更ながらに気付いた。


「くそ……なんでゲームの世界で逃げてきたことに向き合わないといけないんだよ……」


 今の状況に悪態をつくと同時に思う。

 くそと……


 だが、逃げることはできないこともわかっていた。

 悩むことは多そうだと、俺はナオたちが待つ教室へと向かっていたときだった。


「やべえやべえ」


 そんな大きな声とともに、必死に走ってくるのはチカだ。

 珍しいというのか、慌てているようだが、俺に気づくとスピードを緩めて隣に並ぶ。


「お、あなたじゃねえかよ。まだここにいるってことは間に合ったな」

「あー、そうだな」


 チカが慌てていたのは、教室に集まると言っていたことの最後になると考えてのことだろう。

 実際には、俺のほうが遅かったため隣に並んだようだ。


「朝から忙しないな」

「まあな。こうみえてもあたいは忙しいからな」

「それくらいは見てればわかるけどな」

「そうか?」


 少しだけ驚いたようにチカは言うが、俺はチカがどういう設定のヒロインなのかわかっているからこそ、知っているのは当然だ。


 ゲームのときは、多くの下の子たちにかかるお金をバイトなどで稼いでいたはずだ。


「今日もお疲れか?」

「あたいか?」

「ああ」

「どうだろうな。モンスターを倒せるようになってるからな。前よりは楽だぞ」


 チカがそう言葉にするということは、エロティックタワーでしっかりと稼げているのだろう。


 まあ、これまでボスと呼ばれる強いモンスターも倒してきたこともあって、確かに結構な金額になっているはずだ。

 俺には全く実感がないが……


 まあ、毎回のように制服が破けていれば、今後もお金に関しては足りないという状況になるだろう。


「ふ……お金があるのはいいことだな」

「はは、なんだよ。遠い目をして、あなたらしくもないぞ」

「俺のほうはうまくいってないからな」

「そうか?あたいからすれば、結構うまくいっているように思うぞ」

「いや、外から見ればそうかもな」

「ま、あなたが言うのなら、そうかもな」


 こういうのは、本人でなければわからない苦労というものがある。

 そのことをチカもわかってくれるので、どこか納得してくれたタイミングで、今日集まる教室に着いた。


 さっさと扉を開ける。

 中にはすでに、四人が待っていた。


「遅いんだけど」


 案の定というべきか、ナオが不満を口にする。


「仕方ないというか、そんなに遅くないだろ」

「いーや、遅いわよ。それとも、今日やること忘れたわけ?」

「やること?」


 ナオに言われて、俺はマンティコアを倒した後の会話を思い出す。


 何を言っていた?

 わからねえ……


 思い出そうと頭をひねってみるが、正直何を話したのか覚えていない。


 これは、マンティコアと戦ったこともあり疲れていたし、俺が全裸だということもあり、あまり近づきすぎないように会話をしていたことも関係していた。

 だけど、覚えていないと言えば、さらにナオが怒ることは明白だ。

 となれば、ここはなんとかして正解を絞り出すしかない。


 俺は、長い長い思考に入ろうとして目を閉じ、ナオに頭を叩かれるのだった。


「結局覚えてないんじゃない」

「違う、聞こえてなかっただけだ」

「だったら、そのとき聞き返しなさいよ」

「近づかなかったら、聞こえなかっただろ」

「そんなの、全裸のあなたが悪いんでしょ!」


 俺とナオはいつものようにワイワイと言いあう。

 三人は、少しだけ呆れたようにその姿を見つめていたが、一人だけはそれを少し羨ましそうに見つめるのだった。

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