9‐7
手配された宿で一泊した翌朝。
今回の事件の真相を知るべく、一行は女に連れられ、再びフォルガナ支部を訪問していた。
「失礼いたします」
女は一声かけて扉を開けると、部屋に入る。
続けて一行も中へと入り――面食らった。
以前と同じ部屋。
だがそこには数名の協会員が整列していた。
女はそれを気に留める様子もなく、彼らの前を通って机の前に立つ。
一行は警戒心を強めるが、今さら帰るわけにもいかない。
渋々彼らの前を通ると、前回と同じく机の前に横一列に並んだ。
「お連れしました」
女がそう声をかけたのは、これまた前回と同じくこちらに背を向けられた椅子。
その椅子が、突然くるりと回転した。
「ごくろう」
そう言って机にひじをついたのは、がっしりとした体躯に渋い雰囲気の男だった。
まさかそこに人がいるとは思わず、びくりと肩を揺らす一行を見て、彼はふっと笑う。
「私の名はボスト・ハーケイド。階級は大佐だ。それからこちらが」
「レリシア・バーミリア少尉です」
それまで一行を振り回していた女は、そこで初めて名乗り、一礼した。
「この度の事件解決への協力、感謝する。少々難儀していたのでね」
「嘘だ」
ノーウィンが険しい顔で口を出す。
「あんたらは犯人の居場所を特定できていた。しかもあの廃坑、内部はそれほど複雑じゃなかった。捕まえようと思えばいつでも捕まえられたんじゃないのか」
「いやいや。我々だけではとても」
「相手は3人。それに対してあんたらは十分な数も戦力もあるだろう?」
落ち着き払った相手の話にたたみかけるようにして、ノーウィンは話を続ける。
「俺も、仲間も、下手をしたら大怪我を負ってたかもしれない。納得のいく説明をしてもらいたいもんだな」
普段温厚な彼も、今回の件にはさすがに頭にきているようだ。
その後も続けて問い質すが、相手はというと、全く悪びれる様子も焦る様子も見せず、淡々と「それは災難でしたな」や「そういうわけにはいかず」などと返事するだけ。
ラウダは彼らのやり取りを見て、真相を聞くどころか、このまま適当にあしらわれて帰されるのではと思い始めていた。
その時だった。
どこからともなく視線を感じる。
何の根拠もない。
だがそれは、廃坑の入り口で感じたものと同じだと思った。
ラウダはゆっくりと背後を振り返る。
そこには先ほどと変わらず、数名の協会員が整列していた。
「…………」
ラウダは思案する。
タイミングを見計らったかのように現場にやってきて、犯人を確保した協会員たち。
それはやはりノーウィンの言う通り、捕まえられるはずなのに放置していたということだろう。
そして、先ほどからまるで委細を話そうとしない大佐。
これではまるで――
そこまで考えて、まさか、と座する大佐の方へ視線を戻す。
彼はノーウィンの詰問に悠々と返答しているが、相変わらず適当なことばかり。
ラウダは再度背後を振り返る。
部屋に整列する協会員たち。
最初、彼らがいるのは大事な話をするからだと思った。
だが自分たちを適当にあしらっている今、その存在はまるで意味をなさない。
彼らがここにいる意味。それは恐らく――
「ラウダ?」
背後をじっと見つめる幼なじみの姿を不思議に思ったのだろう。
ローヴが彼の名を呼ぶと、それまで相手を質問攻めにしていたノーウィンが何事かと口を閉ざし、そちらを見やった。
ラウダはというと、返事をすることも振り返ることもなく、整列する協会員たちをじっと見ている。
相変わらず根拠はない。
だが、確信していた。
ここに視線の主がいる、と。
ラウダがそう強く思った時、整列する人間のうちの1人から反応があった。
ほんの一瞬だったが、その手に緑の輝きが見えたのだ。
その人物の前へと歩み寄る。
さらりとした茶髪に眼鏡をかけた男。
その左手をぐいとつかむと、ラウダは問う。
「あなたが本物だよね、大佐さん」
するとその通りだと言わんばかりに、ラウダの手と男の手がそれぞれ輝きを放ち始めた。
ノーウィンは驚愕の表情で、椅子に座っている男とその男とを見比べる。
一方、整列していた方の男はラウダに視線を合わせると、一言。
「なんで分かった?」
否定することなく、そう尋ねた。
「推測。僕たちを犯人のいる場所に行かせたことと、ここでまともに答えようとしない様子を見て、最初は利用されてるのかなと思った。けど、この部屋にわざわざ関係ない人を集めた理由を考えたときにふと、あの人は大佐じゃないんじゃないか、試されてるんじゃないかって思って」
男は「ほお」と感心した様子を見せると、続きを促す。
「それから、廃坑に入る前とさっき、視線を感じた。でも監視とか警戒とかじゃなくて、ただ見られてる感じというか……うまく言えないけど」
「なるほど。それも推測の材料になったわけか」
男の言葉に、ラウダはこくりとうなずく。
「あとは……直感、かな」
その言葉に、男は目をぱちくりとさせた。
が、直後ぷっと吹き出す。
それにつられるようにして、部屋にいた協会員たちが大笑いをし始めた。
「だから言ったんだよ! いくら大佐でも勇者には負けるって!」
「嘘つけ! お前大佐が勝つのに賭けてたじゃねえか!」
唐突ににぎやかになった部屋の中で、仲間たちだけがぽかんとした顔を浮かべている。
「さて、そろそろ離してくれるよな?」
「あ、うん」
男にそう言われ、ラウダはそれまでつかんでいた手を離した。
同時に、2人の手から輝きが消える。
「悪いな、中佐。意外と早くバレちまった」
「いやあ、残念。もう少しあの心地良い椅子に座っていたかったんだが」
中佐と呼ばれた男は楽しげにそう言うと、席を立ち上がった。
「さてと。まずは自己紹介だな」
入れ替わりで座った男は咳払いをひとつすると、小さく笑む。
「このフォルガナ支部を任されている大佐こと、アクティー・グラン・ジェストだ。以後お見知りおきを」




