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ボクたちのてのひら【改稿版】  作者: 雨露りんご
第9話 遥かなる視線
41/44

9‐7

 手配された宿で一泊した翌朝。

 今回の事件の真相を知るべく、一行は女に連れられ、再びフォルガナ支部を訪問していた。


「失礼いたします」


 女は一声かけて扉を開けると、部屋に入る。

 続けて一行も中へと入り――面食らった。


 以前と同じ部屋。

 だがそこには数名の協会員が整列していた。


 女はそれを気に留める様子もなく、彼らの前を通って机の前に立つ。


 一行は警戒心を強めるが、今さら帰るわけにもいかない。

 渋々彼らの前を通ると、前回と同じく机の前に横一列に並んだ。


「お連れしました」


 女がそう声をかけたのは、これまた前回と同じくこちらに背を向けられた椅子。

 その椅子が、突然くるりと回転した。


「ごくろう」


 そう言って机にひじをついたのは、がっしりとした体躯に渋い雰囲気の男だった。

 まさかそこに人がいるとは思わず、びくりと肩を揺らす一行を見て、彼はふっと笑う。


「私の名はボスト・ハーケイド。階級は大佐だ。それからこちらが」

「レリシア・バーミリア少尉です」


 それまで一行を振り回していた女は、そこで初めて名乗り、一礼した。


「この度の事件解決への協力、感謝する。少々難儀していたのでね」

「嘘だ」


 ノーウィンが険しい顔で口を出す。


「あんたらは犯人の居場所を特定できていた。しかもあの廃坑、内部はそれほど複雑じゃなかった。捕まえようと思えばいつでも捕まえられたんじゃないのか」

「いやいや。我々だけではとても」

「相手は3人。それに対してあんたらは十分な数も戦力もあるだろう?」


 落ち着き払った相手の話にたたみかけるようにして、ノーウィンは話を続ける。


「俺も、仲間も、下手をしたら大怪我を負ってたかもしれない。納得のいく説明をしてもらいたいもんだな」


 普段温厚な彼も、今回の件にはさすがに頭にきているようだ。

 その後も続けて問い質すが、相手はというと、全く悪びれる様子も焦る様子も見せず、淡々と「それは災難でしたな」や「そういうわけにはいかず」などと返事するだけ。


 ラウダは彼らのやり取りを見て、真相を聞くどころか、このまま適当にあしらわれて帰されるのではと思い始めていた。


 その時だった。


 どこからともなく視線を感じる。


 何の根拠もない。

 だがそれは、廃坑の入り口で感じたものと同じだと思った。


 ラウダはゆっくりと背後を振り返る。

 そこには先ほどと変わらず、数名の協会員が整列していた。


「…………」


 ラウダは思案する。


 タイミングを見計らったかのように現場にやってきて、犯人を確保した協会員たち。

 それはやはりノーウィンの言う通り、捕まえられるはずなのに放置していたということだろう。

 そして、先ほどからまるで委細を話そうとしない大佐。


 これではまるで――


 そこまで考えて、まさか、と座する大佐の方へ視線を戻す。

 彼はノーウィンの詰問に悠々と返答しているが、相変わらず適当なことばかり。


 ラウダは再度背後を振り返る。


 部屋に整列する協会員たち。

 最初、彼らがいるのは大事な話をするからだと思った。

 だが自分たちを適当にあしらっている今、その存在はまるで意味をなさない。


 彼らがここにいる意味。それは恐らく――


「ラウダ?」


 背後をじっと見つめる幼なじみの姿を不思議に思ったのだろう。

 ローヴが彼の名を呼ぶと、それまで相手を質問攻めにしていたノーウィンが何事かと口を閉ざし、そちらを見やった。


 ラウダはというと、返事をすることも振り返ることもなく、整列する協会員たちをじっと見ている。


 相変わらず根拠はない。

 だが、確信していた。


 ここに視線の主がいる、と。


 ラウダがそう強く思った時、整列する人間のうちの1人から反応があった。

 ほんの一瞬だったが、その手に緑の輝きが見えたのだ。


 その人物の前へと歩み寄る。


 さらりとした茶髪に眼鏡をかけた男。

 その左手をぐいとつかむと、ラウダは問う。


「あなたが()()だよね、大佐さん」


 するとその通りだと言わんばかりに、ラウダの手と男の手がそれぞれ輝きを放ち始めた。


 ノーウィンは驚愕の表情で、椅子に座っている男とその男とを見比べる。

 一方、整列していた方の男はラウダに視線を合わせると、一言。


「なんで分かった?」


 否定することなく、そう尋ねた。


「推測。僕たちを犯人のいる場所に行かせたことと、ここでまともに答えようとしない様子を見て、最初は利用されてるのかなと思った。けど、この部屋にわざわざ関係ない人を集めた理由を考えたときにふと、あの人は大佐じゃないんじゃないか、試されてるんじゃないかって思って」


 男は「ほお」と感心した様子を見せると、続きを促す。


「それから、廃坑に入る前とさっき、視線を感じた。でも監視とか警戒とかじゃなくて、ただ見られてる感じというか……うまく言えないけど」

「なるほど。それも推測の材料になったわけか」


 男の言葉に、ラウダはこくりとうなずく。


「あとは……直感、かな」


 その言葉に、男は目をぱちくりとさせた。

 が、直後ぷっと吹き出す。


 それにつられるようにして、部屋にいた協会員たちが大笑いをし始めた。


「だから言ったんだよ! いくら大佐でも勇者には負けるって!」

「嘘つけ! お前大佐が勝つのに賭けてたじゃねえか!」


 唐突ににぎやかになった部屋の中で、仲間たちだけがぽかんとした顔を浮かべている。


「さて、そろそろ離してくれるよな?」

「あ、うん」


 男にそう言われ、ラウダはそれまでつかんでいた手を離した。

 同時に、2人の手から輝きが消える。


「悪いな、中佐。意外と早くバレちまった」

「いやあ、残念。もう少しあの心地良い椅子に座っていたかったんだが」


 中佐と呼ばれた男は楽しげにそう言うと、席を立ち上がった。


「さてと。まずは自己紹介だな」


 入れ替わりで座った男は咳払いをひとつすると、小さく笑む。


「このフォルガナ支部を任されている大佐こと、アクティー・グラン・ジェストだ。以後お見知りおきを」

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