表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクたちのてのひら【改稿版】  作者: 雨露りんご
第9話 遥かなる視線
40/44

9‐6

「よし、女の方は遊んでから」

「お話し中悪いんだけどさ」


 男たちの話がまとまりかけた頃、突然ラウダが大きめの声で話し出す。

 彼らが何事かとこちらに視線を向けた。

 彼は両手を上げたまま続ける。


「どうしてシルジオに突き出したはずの僕たちがここへ来たか、教えてあげるよ」

「なんだあ、いきなり」


 大男が怪訝な顔を浮かべたが、ラウダは気にすることなく話し続ける。


「実は僕たち……おとりなんだ」

「……は?」


 少年の言葉の意味が瞬時に理解できず、男たちはぽかんと間の抜けた顔をした。

 直後、ラウダは大声で、廃坑の外に向けて叫ぶ。


「シルジオの皆! 今だ!」

「な、なに!?」


 驚いた大男は部屋の外へと飛び出すと、小男とともに廃坑の入り口の方を見つめた。

 部屋の中にはセルファに短剣を突きつけたまま、おろおろとする細身の男、1人だけ。


 ローヴは素早く男に狙いを定めると、手を突き出し、叫んだ。


「イグニス!」


 こぶし大の火の玉が手のひらから勢いよく飛び出し、男の顔面に命中する。


「あっぢいいいいいいっ!!!」


 手にしていた短剣が、からんからんと音を立てて落ちた。


「セルファを!」

「分かってる!」


 ラウダの指示とほぼ同時に、ローヴがセルファのもとへと駆け出す。


「なっ!?」


 少年の言葉がハッタリだと気づいたときにはもう遅く。

 ラウダは振り返った小男に向けて、体当たりをかました。


「ぷぎゃっ」


 よろめく小男の手から剣を奪い返すと、そのまま大男を斬りつける。


「ぐおっ」


 戦闘態勢に入ろうとしていた大男がひるんだ。


 一方室内では、ローヴがセルファの縄を解くのに苦戦していた。


「もう! なんでこんな頑丈なの!?」


 文句を言う少女の横では、細身の男が顔を押さえて地面を転がっている。

 ふとローヴの目に、先ほど男が落とした短剣が映った。


「これだ!」


 すかさずそれを手に取ると、縄を切ろうとする――が。

 切れ味が悪いのか、全然切れない。


「もー!!!」


 怒りながら顔を上げると、部屋の外で幼なじみが大男と戦っているのが見えた。

 大男の方は腕から血を流しているというのに、平然とした顔で腰に装備していた剣を手に戦っている。


『痛みや恐怖を感じず、戦い続けられるようにって目的で造られたとか』


 不意にノーウィンの話を思い出す。

 彼らは先ほどリリエル酒を飲んでいた。

 もしかするとその薬効が作用しているのかもしれない。


「てめえ……」


 そんなことを考えていたせいで、ローヴは背後にゆらりと揺らめく存在に気づくのが遅れてしまった。

 ばっとそちらを振り返ると、細身の男が今まさに殴りかからんとしているところ。

 反射的に目を閉じ、己の身を両腕でかばう。


「ロックニードル!」


 そこへ、聞きなじんだ少女の声が聞こえた。


「うぎゃあっ!」


 続けて聞こえた男の悲鳴。

 恐る恐る目を開けると、そこには岩塊に打たれて仰向けに気絶している男の姿。


「油断は禁物よ」


 ローヴが目を瞬かせていると、後ろから注意が飛んでくる。

 振り返ると、涼しい顔をしたセルファがこちらを見ていた。


「セ、セルファ!? 大丈夫なの!?」


 いつの間に目を覚ましていたのだろうか。

 目を丸くしているローヴに対し、彼女は首を横に振った。


「大丈夫じゃない。早くこれ解いて」

「あ、うん!」


 セルファに急かされ、ローヴは再び頑丈な縄と格闘し始める。


 部屋の外では、ラウダと大男の戦いが続いていた。

 とはいえ、男の方はすでに全身傷だらけ。


「おらおら! どうしたどうしたあ!」


 なのにこの威勢の良さ。

 剣で散々斬りつけられているのに、まるで効いていないかのようだ。


 今回の目的は犯人を捕まえることだ。

 しかし、このままでは埒が明かない。


「…………」


 もしリリエル酒の効果が続く限り、この状態だとしたら。

 そうなると今度は消耗したこちらが危ない。


 ならばいっそのこと――


 そんなことを考えていると、小男の姿が視界に飛び込んできた。

 両手を突き出し、こちらを狙っている。

 まずい。


「リガス!」


 魔法が発動する――とほぼ同時に、小男が槍の柄で思いきり殴りつけられ、よろめいた。

 手元が狂い、飛び出した魔法は――


「あがっ!」


 見事、大男に命中。

 ゆっくりと前のめりに倒れた。


 自分のやらかしたことに愕然とする小男の眼前に、槍が突きつけられる。


「同じ手は、何度も、食らわない」


 倒れていたはずの赤髪の男が平然と立っている様を見て、今度は目を白黒させた。


「ば、馬鹿な! 俺の麻痺魔法は1時間はびりびりし続ける! なのにお前、なんで立てるんだ!?」

「気合があれば、どうとでも、なるもんさ」


 そう言って、ノーウィンはぎこちなく笑う。


 ラウダはそのやりとりを見た後、足下でうつ伏せに倒れている大男を見下ろした。

 びくびくと小刻みに震えるだけで、起き上がる様子はない。


 ラウダがふうと息をついた。

 直後、ばたばたと複数の足音が響く。


 何事かと驚き、皆が一様に廃坑の入り口の方を見やると、深緑の制服を着た集団がこちらへと駆けてきた。

 そして彼らはあっという間に男たちを取り押さえてしまう。


 突然の出来事に一行がぽかんとしていると、1人の人物がこちらに歩み寄ってきた。


「お疲れ様です」


 ここへ来るよう指示した女だ。


「おい……これは、どういうことだ」


 ノーウィンが相手をきっとにらみつける。

 しかし相手は動じることなく、軽く一礼した。


「申し訳ありません。犯人逮捕のため、後をつけさせていただきました」

「…………」


 ノーウィンは険しい顔で沈黙する。

 何から問い質そうか思案しているようだ。


「今回の件については改めてお話しさせていただきます」


 しかしこちらが口を開くより先に、女にそう言われてしまう。

 今は何も聞くなということだろう。


「こちらで宿を手配させていただきましたので、今日はそちらでお休みください」


 それだけ告げると、彼女は他の協会員たちのもとへと行ってしまった。


 ラウダは再度息をつくと、剣を鞘に納め、ノーウィンのもとへと歩み寄る。


「痺れは大丈夫?」


 険しい表情で女の背を見送ると、ノーウィンもまた息をつき、槍を納めた。

 それからラウダに気の抜けた笑みを見せる。


「実はまだびりびりしてる」

「だと思った。よく立てるね」

「俺だけ寝てるわけにもいかないだろう?」


 そんな会話をしていると、セルファとローヴがこちらへ歩いてきた。


「セルファ、大丈夫か?」


 ノーウィンが心配そうに声をかけるが、セルファは難しい顔をしたまま返事をしない。


「怪我はないみたい」


 彼女の代わりにローヴがそう言うと、彼はほっと安堵した。


「悪かった」

「え?」


 突然謝られ、セルファは少し驚いた顔を見せる。


「お前が行った後、すぐに追えばあんな目にも遭わなかったはずだ。だから」

「いい」


 申し訳なさそうに謝罪するノーウィンの言葉を、セルファは途中でさえぎった。


「2人のためを思って慎重になってるって分かってたわ。それなのに勝手に飛び出した私が悪い。だから」


 そこまで言うと彼女はノーウィンを見上げる。


「……ごめんなさい」

「セルファ……」


 2人が仲直りしたのを見届けたローヴは、笑顔でラウダを見た。

 それを見たラウダもまた小さく笑んだが、すぐにあることを思い出す。


「そういえば、僕の言ったことよく分かったね」

「ん? ああ。イ、グ、ニ、ス、だよね。ちょっと分かりにくかったけど、なんかピンと来たんだよね」

「あの作戦、ローヴに通じないとどうしようもなかったから。助かったよ」

「つまり、ボク頼みだったんだ?」


 その問いにラウダがこくりとうなずくと、ローヴは「ふーん」と声を上げた後、満面の笑みを浮かべた。


「えへへ……そっかそっか!」


 頼られたことがそれほど嬉しかったのだろうか、とラウダは首を傾げる。

 そんな2人を見て、ノーウィンはふっと笑むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ