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ボクたちのてのひら【改稿版】  作者: 雨露りんご
第9話 遥かなる視線
39/44

9‐5

「だーっはっはっは!」


 廃坑を慎重に進む一行の耳に、男の豪快な笑い声が届いた。

 3人は顔を見合わせると、早足で先へと進む。


 たどりついた場所には木製の扉。

 声はこの向こうからしている。


 ノーウィンを先頭に、3人はそっと扉を開け、隙間から様子をうかがってみた。


 甘ったるい臭いが漂う部屋。もとはここで働く者たちの休憩室だったのだろう。


 一番最初に目に留まったのは、部屋の一角に乱雑に置かれた金品たち。

 その隣には、いくつか積み上げられた木箱。


「まったく、良い商売だよなあ!」


 先ほどの笑いと同じ声の主がそう声を上げる。

 視線をそちらに移すと、大柄な男が紫色のビンを手に、椅子に腰かけていた。

 チョッキの間からでっぷりとした腹が出ている。


「フォルガナのやつら、シルジオの連中に頼りっきりで、すーっかり腑抜けちまいましたねえ」


 そう言う細身の男を見て、3人は目を丸くした。

 それは、フォルガナで最初に一行を犯人扱いし、住民を呼び寄せていた男だった。


 どうやら自分たちは、罪を擦り付ける存在として、最初から目をつけられていたようだ。


「いいじゃねえか! 常にピリピリしてたあの頃より、金が盗みやすくなったんだからよ!」


 大柄な男はそう言うと、紫色のビンをあおった。


「へへ、それもそっすね!」


 細身の男はにやにやと嬉しそうに、木箱の一つを開ける。

 中から取り出したのは、大柄な男が手にしているのと同じ、紫色のビン。


「しっかし、渡りに船ってのはあるもんっすね。こんな良い取引ができるなんて」

「そりゃーお前、俺たちの努力を見た太陽神様のご慈悲だろうよ!」

「なるほど! いやあ、盗み続けてきたかいがあるってもんっすよ!」


 2人は楽しげに笑うと、紫色のビンで乾杯をし、そろってぐいっと飲む。


 ノーウィンとラウダは目配せする。

 彼らが今回の犯人であることはもはや疑いようがなかった。


「ねえ……セルファ、いる?」


 そこへローヴが小声で問うてくる。

 そういえば彼女の姿は見当たらなかった。


 再度隙間をのぞき込んだ――その時だった。


「リガス!」


 後ろから声が響く。

 誰が振り向くよりも早く、()()はノーウィンに命中、ばたりと前のめりに倒れ込んだ。


「ノーウィンさん!?」


 ローヴが慌てて駆け寄るも、ノーウィンはうつ伏せに倒れ、びくびくと全身を細かく震わせたまま起き上がらない。

 何が起こったのか分からず困惑していると、それをあざ笑うかのような笑い声が背後から響いた。

 見ると、眼鏡をかけた小柄な男が立っている。


「麻痺魔法は俺の十八番でねえ。お味はどうだい?」


 にやりと笑う小男の前に、ラウダが剣を手に素早く立ち塞がった。


 しかし――


「ずいぶんと楽しそうなことしてるなあ、おい」


 いつの間にか、部屋の入り口に大男が立っている。

 前後を塞がれた。


 険しい表情で剣を構えるラウダを見て、大男はにたりといやらしい笑みを浮かべると、部屋の奥を指差す。


「この嬢ちゃんはお前らの仲間だろう?」

「なっ」


 そこにはロープで拘束されたセルファが地面に座らされていた。


「セルファ!?」


 ローヴが名を呼ぶが、彼女はぐったりとうなだれており、返事がない。


「へっへっへ。あの子もここで同じように様子をうかがっててさあ。そこを背後からびりびりっと、な」


 小男が楽しげにそう話した。


「しかしまさかシルジオに突き出したやつらがそろってここへ来るとはなあ。連中、何を考えてんだか」

「何だっていいじゃねえか。こうして面白そうなおもちゃが手に入ったわけだし」


 大男が首を傾げるも、細身の男は大したことではないと言いたげに、短剣をセルファに突きつける。

 そして剣を構えたままのラウダに告げた。


「言いたいことは、分かるよな?」


 倒れたままのノーウィン。

 不安げな表情のローヴ。

 拘束されたセルファ。


「…………」


 ラウダはしばし黙り込んでいたが、やがて武器をその場に捨て、両手を上げた。


「へっへっへ、それでいい」


 小男は満足そうに笑うと、ラウダの剣を回収してしまう。


「さて、どうする? やっぱ売っちまうか?」

「そうだな。それでまたリリエル酒を手に入れて……」


 一行が身動きを取れないのを良いことに、3人の男は楽しそうに相談を始めた。


 その間、心配そうにノーウィンを見ていたローヴは、ふと、幼なじみがじっとこちらに視線を送っていることに気づく。

 ラウダはこの状況でも諦めていない様子で、彼女がこちらに気づいたことを確認すると、視線を別の方向へと移した。

 ローヴは男たちに気づかれないように、そっとその視線の先を見やる。


 視線の先にいるのは、セルファに短剣を突きつけたままの細身の男。


 ローヴは視線を戻し、再度幼なじみを見る。

 すると彼は声を出さずに、唇だけを動かし始めた。


 何とかそれが意味するところを理解しようと、ローヴはじっとその動きを見つめ続ける。

 何かの単語か。はたまた名前か。

 焦るローヴだが、ずっと見ているうちに、それがある言葉を繰り返していると気づいた。


 しばらくして、彼女はラウダの伝えたいことを完全に理解したらしく、ぱっと顔を輝かせる。

 そして口元だけ、にっと笑んでみせた。

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