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ボクたちのてのひら【改稿版】  作者: 雨露りんご
第9話 遥かなる視線
37/44

9‐3

 フォルガナの町を脅かす盗難事件。

 一行は何故かその犯人を捕まえるため、町を出て北東にある、廃坑へと向かっていた。


「盗難はいずれも日中、家の留守を狙ったもの。扉が壊されたり窓が破られたりなどの強引な手口ではなく、鍵のかかった扉を不法に開錠して盗みを働くという方法。このことからかなり手慣れた人間の仕業である、と。それから、被害にあった件数から、単独ではなく複数人の可能性が高い……」


 シルジオの協会員である女から聞いた内容をローヴが復唱している。


「あと死傷者は今のところ1人もいないって言ってたね」


 抜けていた情報をラウダが補足すると、彼女は「そうだった」とうなずいた。

 その間、ノーウィンは難しい顔をしたまま。

 セルファに至っては、町を出てからもずっとむすっとしていた。


 ラウダとローヴは顔を見合わせる。


「ノーウィン、その……大丈夫?」


 こんな状態で犯人を捕まえることなどできるのだろうかと不安を感じたラウダが恐る恐る声をかけた。


「ん、ああ……」


 それに気づくと、ノーウィンは困った様子を見せる。


「どうにもあいつらの真意が読めなくてさ」

「真意、ですか?」


 ローヴが首を傾げる。

 すると、ノーウィンは足を止めて気になっていたことを話し出した。


「もし俺たちを本気で怪しんでいるなら、人質を取るなりしたと思うんだ」

「人質?」


 今度はラウダが首を傾げた。

 ノーウィンは、仲間たちの顔を見渡す。


「だってほら、今の俺たちは全員そろっていて、荷物もこの通り。つまり、自由だ」


 ラウダとローヴは顔を見合わせる。

 確かに、これでは「どうぞ逃げてください」と言っているようなものだ。


「本当は僕たちを犯人だと思っていないってこと?」

「間違いなく、な」


 そう言うとノーウィンは、自分たちの向かっている先を見やった。


「大体、怪しい人間が出入りしている場所を教えるっていうのも変だ。そこまで分かっていながら、どうしてわざわざ俺たちを捕まえて向かわせるんだ?」


 自分たちがそこへ行かなければならない理由があるのか。

 それとも彼らが行けない理由があるのか。


 いずれにしても底の知れない相手にうすら寒いものを感じ、一行は嫌な予感を抱えたまま再び歩き始める。


 そうしてたどり着いた場所には、打ち捨てられた坑道があった。


 一見すると人気はないが、入り口のぬかるみには複数の足跡がついている。

 どれも最近できたもののようで、廃坑内部へと続いていた。


「情報には偽りなし、か……」


 ノーウィンがそっと中の様子をうかがってみるが、特に見張りなどはいないようだ。

 実に静かなものではあるが、一行は念のため近くの草むらに身をひそめる。


「どうするの?」

「まずはここで様子を見ようと思う。相手が何人組か、武器を持っているのか、その辺りを確認しないと」


 ラウダの問いにノーウィンが答えていると、突然セルファが立ち上がった。


「どうした?」


 驚く相手に対し、彼女は首を横に振る。

 その表情は険しい。


「どうした、は私の台詞よ。相手はただの盗賊よ? 何をそんなに慎重になっているの?」

「得体の知れない相手なんだ。そりゃあ慎重にもなるだろう?」

「ウソ。いつもここまで時間をかけたりしなかった」


 どこか苛立った様子のセルファを見て、ノーウィンは一瞬黙り込んだ。


「……何を焦ってるんだ、セルファ」


 セルファはまたしても首を横に振る。


「焦ってるわけじゃない。こんなくだらないことにいつまでも時間を使うのが嫌なのよ」

「それはそうかもしれないが」

「あなたは嫌じゃないの? あんな訳の分からない連中に利用されて」


 食ってかかってくるセルファに、ノーウィンは再び黙り込んだ。

 そしてちらりとラウダとローヴを見やってから、重々しく口を開く。


「……こっちにはラウダとローヴがいるんだ」


 それを聞いたセルファは、何かに気づいた様子を見せた後、ため息をついた。


「……そう。そういうこと」


 それだけ言うと、彼女は草むらから出ていこうとする。


「おい、セルファ」

「ここで待ってて。私一人で十分よ」

「セルファ!」


 ノーウィンの制止も空しく、彼女は素早く駆け出し、そのまま廃坑へと入っていってしまった。


「…………」


 ノーウィンはしばし悩むも、やがて残ることに決めたようだ。

 その場に腰を落ち着けた。


「いいの……?」


 ラウダが恐る恐る声をかけると、彼は困ったように笑む。


「まあ……セルファの言う通り、相手はただの盗賊だからな。大丈夫さ」

「それは、そうかもですけど……」


 ローヴは不安そうに廃坑の入り口を見やった。

 特に声や音は聞こえない。


 結局、ラウダとローヴもまた、セルファの帰りを待つことしかできないのだった。

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