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ボクたちのてのひら【改稿版】  作者: 雨露りんご
第9話 遥かなる視線
36/44

9‐2

 世界治安協会シルジオ、フォルガナ支部。


 緑のじゅうたんが敷きつめられた廊下。

 均等に取り付けられた窓々からは陽光が降り注ぐ。


 そんな綺麗な内装とは裏腹に、一行の表情は暗い。

 犯罪者として連行中なのだから無理もないのだが。


 濡れ衣だというのに、このまま牢に入れられてしまうのだろうか。


 しかし意外なことに、連れてこられたのは牢ではなく、ある一室。


 花瓶に生けられた黄色い花。

 立派な額に入れられたどこかの風景画。

 本棚には難しそうな分厚い本がずらり。

 その隣の棚には綺麗な茶器がいくつも収められている。


 どう見ても誰かの部屋だ。

 それも格のある人物の。


 そんな部屋の中央には大きな焦げ茶色の机が置かれており、回転式の椅子は何故か背を向けてある。

 一行はその前に横一列に立たされ、そこでようやく四方を囲んでいた協会員たちから解放された。


 先頭を歩いていた女は、机上に置いてあったファイルを手にすると、ぱらぱらとページをめくり始める。


「で?」


 そこで初めてノーウィンが口を開いた。


「俺たちは何も盗ったりしていない。それどころかついさっきこの町に着いたばかりだ。疑うならもっと他にいるんじゃないのか?」


 冷静に努めてはいるが、その声は怒気をはらんでいる。

 対する女は、あるページで手を止めると、顔を上げた。


「ではそれを証明するものは?」

「証明?」


 思いもよらぬ問いに、ノーウィンは眉をひそめる。


 この町に到着したばかりであることを証明するもの。

 身の潔白を証明するもの。

 そんなものあるだろうか。


 答えに詰まったノーウィンは、口をつぐんでしまった。


 それを見た女は、手にしたファイルに視線を落とし、話を再開する。


「最初に盗難の被害届が出されたのは一週間前。そしてこの一週間で被害総数は13件まで上っています」


 一行は思わず顔をしかめる。

 13件というと結構な数である。


「犯人がこの町の人間ではないことは調査済みです。そしてこの一週間で外部からやってきて身元証明ができていないのはあなた方のみ」

「だから俺たちが犯人だって? ずいぶん簡単に決めつけてくれるな」


 ノーウィンは腕を組むと、きっと相手をにらみつけた。


「一週間前、俺たちはベギンにいた。宿の宿泊記録にも名前が残っているはずだし、そこの主人や露天商あたりに聞けば、俺たちが町にいたことはすぐに分かるはずだ」


 その言葉を聞いて、ラウダとローヴは顔を上げる。

 彼の言う通り、ベギンやリースで自分たちを見ている人間は多いはず。

 それどころか、中には会話した者だっているのだ。


 希望が見えたような気がして、2人はぱっと顔を輝かせた。


 が。


「なるほど。では確認しますので、しばらくこの町に留まっていただきましょう」

「何日くらいかかるんだ?」

「そうですね、ひと月は見ていただいた方がよろしいかと」


 さらっと告げられた言葉に、ノーウィンの開いた口が塞がらなくなる。


「……ひと月? 一週間の間違いじゃないのか?」

「いいえ? 何も間違っていませんよ」


 女は顔を上げると、至って真面目な顔で話を続ける。


「まずはベギンへと赴き、各人へ事情説明と調査の依頼を。話を聞くにしてもいつでも良いというわけではありませんから。それと、あなたの言う宿泊記録を見せてもらうためにもいくつか手順を踏む必要がありますね。まずはシルジオ本部に情報開示のための手続きと書類の取り寄せを」

「そんなの待っていられないわ!」


 それまで黙って話を聞いていたセルファが叫んだ。


「私たちは先を急がなければならないの。こんなところで足止めされるわけにはいかないのよ」


 それに同意するように、ノーウィンは大きくうなずく。


 ガストル帝国へ向かい、世界に起きている真実を知る。

 それが一行の旅の目的だというのに、これでは帝国に着くのは一体いつになることか。

 というか、先ほどの話からすると、ひと月どころでは済まされない気さえする。


 険悪な空気が漂う。

 その重苦しさに、ラウダとローヴの表情はまたも曇ってしまっていた。


「なら、こうしましょう」


 しばし間を置いた後、女があることを提案する。


「あなた方が本当に犯人でないというのであれば、真犯人を捕らえてきてください」


 思いもよらぬ発言。

 一行はそろって言葉を失う。


「……あんたら仮にもシルジオの人間だろう? 何がどうなったら犯人扱いしている人間に犯人を捕まえてこいなんて話になるんだ?」


 苦虫をかみ潰したような顔でそう言うノーウィンだが、相手が冷静さを欠くことはなく。


「やらないならやらないでも構いませんよ。調査の間、この町に留まっていただくということで」


 ノーウィンは大きなため息をついた後、横に立っている仲間たちの顔を見た。

 ラウダとローヴは困惑した様子で、「どうするの」と不安げな顔をしている。

 一方セルファはというと、むすっとした表情。「この町に留まるなど論外」と言いたげだ。


 ノーウィンは再度大きなため息をつく。


「……分かった。真犯人の捕獲、引き受けた」


 女は何も言わずにただうなずくと、今回の事件について話を始めた。

 そうして一通りの話を聞き終えた一行は、再度周りを協会員に囲まれながら、部屋を立ち去るのだった。




 4人を見送り、1人部屋に残った女。


「……これで、良かったんですよね?」


 それまでの冷静な表情から一変して、不安そうな面持ちでそう問うが、返事はなかった。

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