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太陽が真上に昇った頃、一行は新たな町フォルガナへと到着した。
白い石畳が敷き詰められた綺麗な町並み。
レンガ造りの花壇があちこちにあり、低木や花が均等に植わっている。
ノーウィン曰く、昔は荒くれ者たちの集う汚れた町だったというが、とてもそうは見えない。
世界治安協会シルジオなる組織の体制が変わり、ここまで綺麗な町になったというが、詳しいことは彼も知らないという。
夕飯について楽しそうに話す親子や、井戸端で話に花を咲かせる女性たち。
どこからどう見ても平穏な町の姿そのもの。
そんな中、ローヴがある建物に目を留めた。
町の中央にある白く大きな石造建築。
神殿のようにも見えるその上部にはローレルの印が掘り込まれている。
他とは異なる雰囲気の漂うそれが、民家でないことは明らかだった。
「おっと、そこの坊ちゃん。悪いがどいて頂けるかな?」
突然声をかけられ、驚いたローヴが振り返ると、そこには椅子に腰かける老人が1人。
傍らにはイーゼルとキャンバス。どうやら絵を描こうとしているようだ。
「えっ、あっ、ごめんなさい!」
自分が邪魔になっていることに気づいたローヴは、慌ててその場を退いた。
「すまんなあ。ちょうど今から支部を描こうと思っていたところでね」
老人はそう言うと、その建物を見つめる。
そんな彼の言葉にローヴが首を傾げた。
「あの、支部って言ってましたけど、あれって何の建物なんですか?」
「ん? ああそうか、坊ちゃんは外から来た人かい」
彼女がこくりとうなずくと、老人は穏やかな笑みを浮かべて話し出す。
「あれはシルジオのフォルガナ支部さ」
「あれが……」
「支部を取りまとめている大佐殿はそれはそれはすごい方でね。荒れていた町がここまで綺麗になったのは全てその方のおかげなんだ」
一通り話を聞くと、ローヴは老人に礼を言い、皆が待つ場所へ戻ってきた。
「へえ……」
ローヴの話を聞いたラウダは、支部と呼ばれた建物を見る。
「きっとすごい人なんだね」
「そういえば前にここを訪れたときに聞いたな。凄腕の大佐がいるって」
そんな話をしながら、家々の立ち並ぶ通りを歩いていると。
「見つけたぞ! あいつらだ!」
突如後方から男の大声が響いた。
何事かと足を止め振り返ると、こちらを指差す細身の男の姿。
直後、路地から次々と、老若男女問わず人が出てきた。
その手にはそれぞれおたま、くわ、サンダルなどなど。
彼らは一様に鋭い目つきをしており、まるで軍隊のように、ずんずんとこちらへ歩み寄ってくる。
どう見ても嫌な予感しかしないが、その場から離れるよりも先に、四方を囲まれてしまった。
「ついに見つけたよ! さあ観念しな!」
ほうきを手にしたふくよかな女の叫びを皮切りに、皆が次々に口を開く。
「あんたたちがうちの金品を盗んだのね!」
「うちの家宝のつぼを返しやがれ!」
「あの指輪は大事な形見なんだ! 返してくれ!」
「ただでさえ貧乏なのにこの上まだ盗む気か!」
「この泥棒野郎! お前らなんかこのくわの餌食にしてやるわ!」
あちこちから怒声が飛んでくる。
どうやら元が荒くれ者の町というのは間違いなかったようだ。
どこか喧嘩慣れした様子の人々を見れば分かる。
だがそんなことよりも、だ。
彼らの言うことには何一つ覚えがない。
なんとか弁解しようにも、人々は一方的に非難し、まともに取り合ってくれない。
何よりまず彼らの声が大きすぎて、こちらの声がまるで届かないのだ。
さらに詰め寄ってくる人々。
成す術のない4人は背を合わせる。
このままでは袋叩きにされかねない。
「そこまでです!」
そこへ今度は凛とした声が辺りに響き渡る。
すると、大声でわめき散らしていた人々が一斉に口をつぐんだ。
人々が開けた道から颯爽と歩いてきたのは若い女。後ろに数名の人間を従えている。
彼らは皆一様にしわ一つない深緑のコートを身にまとっており、その左胸には金糸でローレル印の刺繍が施されていた。
女は周囲にいる町民たちをゆっくりと見渡す。
「皆さん、ここはどうか我々に任せて頂けませんでしょうか。この度の事件、必ず解決してみせましょう」
彼女の言葉を聞いた人々は、怒りの念を発するのを止め、安堵の声を上げ始めた。
「支部の人なら安心できるな」
「頼みます! どうかこいつらをこらしめてくだせえ!」
「お願いします! 奪われた金品を取り返してください!」
女は人々の言葉にうなずくと、従えていた者たちに合図を出す。
彼らは素早く一行の前に移動すると、一言。
「支部までご同行願います」
穏やかな物言いに反して、笑っていないその目が、拒否することを許さない。
「そんな……僕たち……」
ラウダはなんとか弁解しようとするも、不意に隣にいたノーウィンに小突かれた。
彼は真面目な顔で小さく首を横に振った。
「今は従おう」と言っているのだ。
どの道、囲まれて逃げ場はないのだ。
従うより他はない。
そうして一行は、身に覚えのない罪で連行されてしまうのであった。




