8‐6
トンネル内では、放置されたつるはしやスコップ、砂を外へ運び出すために作られたのであろう線路とトロッコの残骸が見られた。
そんな場所を、一行は何気ない雑談をしながら歩いていた。
「じゃあそっちの世界に王様はいないのか?」
「はい。それこそおとぎ話に出てくるくらいで」
ラウダとローヴの世界リジャンナに、王政というものは存在しない。
そもそも一応どの町にも長は存在するが、指導者といった立場ではなく、何かあったときの相談役、あるいはまとめ役のようなもので、強力な権限を持っているわけでもない。
「こっちには貴族もいるんだね」
一方今いる世界ディターナはかなり複雑な状況にあった。
元々はそれぞれの国を王が治め、各領地を貴族が治めていたのだが――
「10年前、貴族に虐げられていた……いわゆる奴隷、だな。彼らが起こした大規模な反乱によって貴族制度は撤廃されたんだ」
あくどい人間というのはどこにでもいるらしく。
人を道具として売り出す者もいれば、それを買う者もいた。
奴隷売買が表立って行われていなかったこともあり、多くの者は目を背け、見ないふりをしていたという。
だが全ての貴族が奴隷を所有していたわけではなく、それどころか、中にはそういった存在を認められない貴族もいたらしい。
そんな彼らの声や行動もまた制度撤廃へとつながったそうだ。
しかし制度が撤廃されたにもかかわらず、一部の名高い貴族は今も貴族を名乗っているのが現状らしく、完全にいなくなったわけではないという。
一方で没落した貴族もいるため、「自分たちは落ちぶれたのに、あいつは何故まだ貴族なのか」といった小競り合いがたびたび生じているそうだ。
「まあ心配しなくても、俺たちみたいな旅人が貴族と関わることなんて、まずないから」
詳しく話してくれたノーウィンは、最後にそう告げた。
どうやら厄介なもめごとに巻き込まれる心配はないらしい。
そんな会話をしている間に一行はトンネルを抜けた。
「んーまぶしー」
ローヴが空を仰ぎ見る。
今の今まで薄暗いところにいたため、陽光が目に染みる。
「こっち側には何もないんだね」
トンネルの反対側が農村だったのに対し、こちらは草木が生い茂るだけで、人は全くいない。
荷物が入っていたであろう壊れかけのたるや、車輪が外れ使い物にならない荷台がその辺に打ち捨てられているくらいである。
「もう少し行ったところに大きな町があるんだ」
その言葉にローヴの顔が明るく輝いた。
「もしかしてベギンみたいにお店がたくさんあったりするんですか?」
彼女の様子に思わずくすりと笑うと、ノーウィンは町の様子を説明する。
「店はあるっちゃあるけど、ベギンほどじゃあないな。次の町フォルガナの特徴は、そうだなあ……治安が良いことか」
「治安?」
ラウダが首を傾げた。
町の特徴といえば、普通は観光名所や名産品ではなかろうか。
それが治安などと言われると、安心すべきはずが不安になった。
逆に言えば何もないところだと言っているのと同意なのだから。
「3年ほど前、だったか。シルジオの体制が変わって、事故や事件が激減したんだ。元々は治安の悪い町だったからな」
ノーウィンはそこまで話すと、ラウダとローヴがぽかんとした表情を浮かべていることに気づいた。
「ん? 俺、何かおかしなこと言ったか?」
「あ、いや……シルなんとか……って、何か分からなかったから」
そう言われて、ノーウィンは「ああそうか」と頭をかく。
「正式名称は世界治安協会シルジオ。数々の魔法使が集まっていることから魔法使協会とも呼ばれてるんだ」
「治安協会……悪いことを取り締まる魔法使の組織、ってことですか?」
ローヴがそう問うと、ノーウィンは大きくうなずいた。
「元々は治安の悪い世界に平穏をもたらそうと創られたらしい。今じゃ結構大きな力を持った組織でさ」
次に彼は笑顔でラウダの方を見やる。
「ここに勇者様がいるんだ。もしかしたら力を貸してくれるかもしれないな」
対するラウダは渋い顔をしていた。
本来ならば勇者と呼ばれるのは心地良いものなのかもしれないが、ラウダにとっては苦でしかないわけで。
「遅おおおおおおおおおおい!!!」
そんな会話をしていると、突然大声が飛んできた。
驚いて、声のした方を見やると、肩を怒らせながらズンズンと歩いてくる少年の姿。
見慣れない少年の姿に思わず周囲を見渡すが、ここには自分たちしかいない。
ハンチング帽をかぶった青髪の少年は、歩みを止めると、びっとラウダを指差した。
「お前なあ! 一体いつまでここでぐだぐだしゃべってるんだよ! ちょっとは待ってるこっちの身にもなれっての!」
「……えっと?」
状況がよく分からない。
「知り合いか?」
ノーウィンにそう尋ねられるも、心当たりはない。
困惑する様子が余計に苛立たせたのか、少年は激しく足踏みをした。
「いいか!? 俺は! ここで! お前を殺すために待ってたんだよ!」
言うが早いか、少年は右太ももにさげていた革製の包みから、銀色に輝く筒状のものを取り出した。
「銃か!?」
ノーウィンが慌てて武器を手にするが、ラウダとローヴはただただぽかんとしていた。
彼は確かに「殺す」と言った。
だが誰かから恨みを買うようなことをした覚えはない。
セルファも素早く短剣を取り出し、臨戦態勢を取る。
「ちょ、ちょっと待ってよ。君は誰? なんで僕を殺そうとするの?」
相手は同じ人間だ。そう簡単に武器で傷つけ合うわけにはいかない。
しかし当の少年はやる気たっぷりのようで。
「決まってるだろ! お前が太陽の証を持ってるからだよ!」
威勢よくそう言い放ち、銃口をこちらへと向けた。
太陽の証を持っているから殺す?
これは世界を救う勇者が持つもので、世界中の人々がそれに期待しているはずではなかったのか。
困惑するラウダの右頬を、銃弾がかすめた。
つっと血があふれ出してくる。
そこで初めて、この少年が本気で殺しに来ていると理解した。
「次は外さないからな!」
そう宣言すると、少年は勢いよく駆け出し、一気に間合いを詰めて――
バサッ
ドサドサッ
突如少年が地面に飲まれた。
というよりこれは。
「うわあああ! 俺の傑作があああ!」
恐る恐る地面に空いた穴をのぞき込むと、少年が土に埋もれていた。
帽子と銃はそれぞれ主の元から離れ、肝心の主はというと、顔や手を土だらけにして、必死にもがいている。
が、下半身が見事に埋まってしまい、身動きが取れない様子。
言動から察するに、自分で仕掛けていた落とし穴に、自分ではまったのだろう。
4人はそれぞれ顔を見合わせる。
全員見事に呆れ顔だった。
「おい! お前ら! 見てんじゃねえ! 助けろよ!」
襲撃してきたうえ、罠まで用意していた危険人物を助ける義理はない。
誰も何も言わず、そのまま落とし穴を迂回し、何事もなかったかのように先を行く。
「おい! おーい! ちょ、助けろよ! 助けてください! なあ! おーい!」
後ろでは名も知らぬ少年の、助けを求める声がむなしく響いていた。
第8話読んでいただきありがとうございます!
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