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ボクたちのてのひら【改稿版】  作者: 雨露りんご
第8話 離別と襲撃と
32/44

8‐4

 ビシャスと別れた後も、ラウダは一人、闇夜の中でうろうろとドラゴンを探していた。

 どうしても真相が知りたかったのだ。


『たすけて、くるしいよ』


 あの言葉の意味はなんだったのか。

 何故あんなにも大きな存在から少年のような声が聞こえたのか。

 殺されることを望んでいたのか。だとしたら本当にあのやり方で良かったのか。


 相手がもう死んだ存在だとは分かっている。

 それでも何かしらのヒントを得られるかもしれない。


 ――そう思っていたのだが。


「ダメだ……ない……」


 どこを探しても見当たらないのだ。あの巨大な死骸が。

 あれだけ大きなものならば、たとえ辺りが暗くても見つけられるものだと思ったのだが。


 これ以上進めば村から離れすぎてしまう。それはさすがに良くない。

 胸のもやもやを解消できないまま、仕方なくラウダは村へと戻ることにした。


「師匠は仲間に言わない方がいいって言ってたけど……あの声は僕にしか聞こえなかったのかな……」


 だがもし聞こえていれば、誰かが何かしらの反応を示すはず。

 やはり、あれはラウダにしか聞こえていなかったのか。


「でも、それならどうして僕にだけ……」


 ぶつぶつと独り言ちながら村に入った後、何気なく顔を上げ――ぎょっとなる。



 夜道に一人、ローヴが立っていた。



 まさか自分がいないことを心配して探しに来たのだろうか。

 ――と思ったところで、あることに気づいた。


 彼女の目の焦点が合っていない。

 はっとなってラウダは自身の右手を見やった。


 証が、輝いている。


 間違いない。今の彼女はローヴではない。


 早まる鼓動を抑えながら、そっと歩み寄ると、一番問いたかったことを尋ねた。


「君は……誰?」


 すると相手はゆっくりと口を開く。


「私は、アイラ」


 その声もやはりローヴのものだ。

 ラウダは顔をしかめる。


「アイラ。君はどうしてローヴを操ってるの?」

「選ばれた者に接触するため。その者に最も近い存在に憑依している」


 その言葉の中に、感情というものはまるで存在しなかった。

 普段から無表情なセルファとはまた違う。

 感情、いや心そのものを持たないかのような――どこか冷たいものを感じた。


「君は何者なの?」


 警戒しつつ、そう問う。

 念のため、自分の腰にある武器を確認し直す。


「私は世界の管理者。世界の行く末を見守るだけの存在。そしてルナを司るもの」


 まるで分からない。

 世界の管理者とは一体何なのか。

 そもそも人の体に憑依できるなど、これも魔法の一種なのだろうか。


「質問はそれだけ? ならば私からも一つだけ聞かせてもらう」


 いや聞きたいことはもっとある。あるはず。

 しかしとっさに言葉が出てこない。


「あなたは、世界を救える?」


 その瞬間、背筋を何かひやりとしたものが駆けていくような感覚に襲われ、身震いする。

 焦点こそあっていないものの、この人物は、まるで全てを見透かしているかのようだった。

 根拠などないが、自分の全身から警告音のようなものが出ている。



 彼女は、僕の過去を知っている。



 鼓動が早くなる。


 怖い。

 怖い? 彼女が?


 しかし畏れている。

 まるで、神を前にしているような。

 神? 彼女が?



 彼女は、静かに答えを待っていた。



「……僕、僕は」


 それだけ言うと、ラウダは黙り込んでしまった。


 何も言えない。

 何を言うのも、怖い。


「そう」


 そんなラウダに、アイラと名乗った存在は冷たく言う。


「あなたがどのような行動を取ろうとも、私はただ監視者としての役割を全うするだけ。好きにすると良い」


 そう言うや否や、ふっと力が抜けたかように、彼女はひざから崩れ落ちる。

 慌ててラウダが抱き留めると、耳元で寝息が聞こえた。


 どうやらアイラが憑依して勝手に動かしていただけで、ローヴ本人は眠ったままだったようだ。

 しかしそんな奇妙なことができるものだろうか。

 以前もローヴ本人は憑依された際の記憶がなかった。


 ラウダは自分の右手を見つめる。

 またしても証は消えていた。


 この証に関してもそうだ。

 自分の意思とは関係なく勝手に現れ、勝手に消える。

 セルファは証の力をしっかりと使いこなしているというのに。


 戦闘経験が少ないから? 宿してまだ日が浅いから?

 それとも自分が――


「……んむぅ」


 耳元で寝言を言われ、意識が現実へと引き戻される。

 今は考えている場合ではない。とにかくこの状況を何とかしなければ。


 ラウダはローヴに肩を貸すと、ずるずると引きずるようにして宿へと歩き出した。

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