表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクたちのてのひら【改稿版】  作者: 雨露りんご
第8話 離別と襲撃と
29/44

8‐1

「えっ? 明日出る?」


 突然のことに驚き、ラウダの口から素っ頓狂な声が出る。

 しかし相手は事もなげに、皿に盛られたソーセージにフォークを突き刺した。


「俺様だって暇じゃないのよ」


 それを口へ運ぶと、くちゃくちゃと音を立てながら食する。



 行方不明の少女救出とドラゴン討伐という2つの偉業を成し遂げた一行は、一躍英雄扱い。

 その雄姿を一目見ようと人々が押しかけ、村は一時騒然となった。


 なんとか皆を落ち着けた後も、救出した少女と両親の強い要望だけは断り切れず、今は彼らの家で夕飯をごちそうになっている。


 そこでビシャスが翌朝の出立を告げたのだった。


「あの……結局、特訓ってどうなったんですか?」


 ローヴに尋ねられたビシャスは、食べる手を止め、きょとんとした顔を見せる。

 が、それはすぐに呆れ顔になった。


「お前なあ……あのドラゴンを倒したんだぞ? これ以上特訓が必要か?」

「でも倒したのって……」


 ラウダは男の顔を見る。

 そう。ドラゴンを倒したのはビシャスだ。

 自分たちは何もしていない。できなかった。


 少し落ち込んだ様子のラウダとローヴに対し、彼はにやりと笑う。


「そんなに特訓を続けたいってんなら、俺と一緒に来るか?」


 そう言うと分厚いベーコンをかみちぎり、くちゃくちゃと音を立て食した。

 ――この男、さっきから肉ばかり食べているような気がする。


「遠慮しておきます」


 きっぱりと答えたラウダは、野菜を煮込んだスープを口にした。


「なんだよ、つれねえなあ」


 そうは言うものの、返事は分かっていたようだ。残念そうな素振りなどこれっぽっちもない。

 そこでふと、ノーウィンが気になったことを尋ねる。


「あんた、トンネルを通ってフォルガナへ行くんじゃないのか?」

「残念。俺はベギンに行くんだよ。うまい仕事があってな」

「うまい仕事?」


 ラウダが首を傾げると、ビシャスは大げさに両手を広げてみせた。


「おおっと。ここから先は秘密だ。横取りはごめんだからな」

「心配しなくても、そんなことはしない」


 ガハハと笑う男に冷静に答えたノーウィンは食事を再開する。


「でも師匠の仕事って言うと、やっぱり魔物退治? あ、でも人助けなら何でもできるか。強いし」


 ローヴが楽しそうにそう言うと、ビシャスは眉間にしわを寄せた。


「おいおい、勘違いしてもらっちゃ困るな」

「え?」

「傭兵の仕事は金が全て。金をもらえるってんなら人助けもするが……真逆の場合だってある」

「真逆……?」


 男が何を言いたいのかいまいち分からないローヴはきょとんとする。

 一方、横で聞いていたノーウィンの表情が険しくなった。


「知ってるだろうが、世界で今いろんなことが起きてる。たとえば――最近急激に力をつけてきてるっつー帝国の話」


 そこで初めて、細々と食事をしていたセルファが、ぴくりと反応する。


「うわさじゃ襲撃やら暗殺やら、裏であくどいことをしてるそうだが、金さえもらえるならその片棒を担ぐことも平然とする。それが傭兵ってもんよ」


 傭兵は正義のヒーローではない。

 ビシャスの言いたいことを理解したローヴは目を伏せた。


「嫌な世の中になっちまったって嘆く輩は多いが、傭兵どもは皆正直美味しいと思ってるわけだ」

「そんな……」


 人の命を奪うこと。それを良かれと思っている人間がいる。

 ローヴは暗い顔で手にしていたフォークをそっと置いた。

 それを見た男の表情が厳しいものに変わる。


「ローヴ、だからお前は甘いんだよ。魔物の命を奪いたくない。人の命が奪われるのも嫌。お次はなんだ? 今口にしてる肉や魚にまでかわいそうって言うのか?」

「それは……」


 食卓に並ぶ料理を見るのが辛くなり、うつむく。

 人は他のものの命を犠牲にして成り立っている。そんなこと知っている。分かっている。


「やめろよ」


 ノーウィンがビシャスをにらみつけた。

 落ち着いた様子ではあるが、怒っているのは一目瞭然だ。


「やれやれ。甘ちゃんのままじゃ、この先の世界で生きてくのは辛いぞ?」


 興を削がれたのか、立ち上がった男は一家に軽く礼を告げ、そのまま家を出て行ってしまった。


「ごめんなさい、ノーウィンさん……」


 家の扉が閉まってしばらくした後、ローヴが小さく謝る。

 食欲をなくしてしまったようで、置いたフォークを取らず、手は膝の上だ。


「どうしてローヴが謝るんだ。俺は自分が気に食わなかったから、ああ言っただけさ」


 そう言うノーウィンは、先ほどの怒りの表情から一変して優しい笑みを浮かべている。

 しかし、ローヴはそのまま黙り込んでしまった。


 一方、セルファはじっと扉の方を見つめていた。

 闇夜へ消えた、男の背を見つめるかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ