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ボクたちのてのひら【改稿版】  作者: 雨露りんご
第7話 戦うこと
28/44

7‐6

 ドラゴンは身動き一つしない。

 ただその赤い瞳に、ラウダを映し出すだけ。


 そうこうしているうちに、ラウダはドラゴンの足もとにたどり着いてしまう。


 飛ばない。吠えない。火炎玉も出さない。

 先ほどまでめちゃくちゃに暴れていたドラゴンは、今はただじっと彼を見つめるだけ。


 これでは小動物とまるで変わりないではないか。


 ラウダは首を傾げつつ、相手の顔をのぞき込んだり、手を振ってみたりする。

 しかし反応はない。


 ドラゴンの様子がおかしいことは、遠くから見守るローヴとノーウィン、そして駆けるセルファも気づいていた。

 しかしここで油断して、ラウダを危険にさらすわけにはいかない。


 壁とドラゴンの間にたどり着くと、セルファは軽やかに舞い始めた。

 手のひらに強い輝きが宿る。

 そして標的の足もとに両手を突き出すと、高らかに告げた。


「ロックニードル!」


 地の中級魔法。

 敵の足もとが砕け、飛び散った土塊は魔力によっていくつもの針に変化した。


「行きなさい!」


 セルファが両手を振り下ろすと、無数の針がドラゴンへと降り注ぐ。

 足もとが不安定になったうえ、上空からの怒涛の攻撃。


 態勢を崩した巨体は斜めに傾き、うなだれた。


 辺りに蔓延する砂塵が鼻や口に入り込まないよう、腕で顔を守るラウダの耳に、突如声が届く。


『タ――ケテ――』

「え?」

『タ ス ケ テ』


 幼い子供のような、今にも泣き出しそうな声。


「誰!?」


 てっきり村の人間が近くにいたのかと辺りを見回すが、誰もいない。

 もうもうと立ち込めていた砂塵が徐々に薄れていく。


「……え?」


 そこで初めて、気づいた。

 気づいてしまった。


 こちらをじっと見つめる赤い瞳から、硬い鱗を伝う水。

 地面に一滴。跡も残らないような、小さな小さな水滴をこぼした。


『たすけて――』


 ドラゴンが、泣いていた。


『たすけて、くるしいよ――』


 また一滴、水滴がこぼれ落ちる。


 直接話しかけてきているわけではなく、頭の中に幼い少年の声が響く。


 何と言ったら良いのか分からなかった。

 どうすれば良いのか分からなかった。


 「君は――」


 そこで突然、辺り一帯にどごんと爆音が響き渡る。


 強風に巻き込まれ、ラウダはその場から後ろへと転がり込んだ。

 これで何度目だろうか。また土にまみれてしまった。

 しかし幸い怪我はない。


 口に入った砂を吐き出すと、ラウダはゆっくりと立ち上がる。

 直後、一点を凝視した――せざるを得なかった。


 先ほどまで目の前にいたドラゴンが。

 涙を流し助けを乞うていたドラゴンが。



 真っ二つになっていた。



 上から下へ。

 骨まで見事に真っ二つ。

 右半身がでろんと反り返っており、左半身はついさっきまでそれがそこに立っていたことを示すように、直立していた。


「なーにやってんだ」


 不意に声をかけられ、びくりと体が震える。

 またしてもドラゴンの方から声が聞こえたが、これは違う。ドラゴンの声ではない。


 見知った人物が、真っ二つになったドラゴンだったものから大剣を引き抜いていた。


「ビシャス……さん……」

「馬鹿野郎。俺のことは師匠と呼べって昨日言っただろうが」


 大剣全体に赤い液体が付着しており、何やら、ぬちゃっと嫌な音がしている。


 師匠と呼べなど言われていない。

 ビシャスのことだ、勝手にそう言った気になっているのだろう。


 だが今のラウダにはそれを言い返す気力もなく。

 どさっとその場に尻もちをつくと、たまっていたものを吐き出すように大きなため息をついた。


「ったく。ミョーな気配がするからお前らを待機させておいたっていうのによ。戦場の、それも敵の真ん前でぼーっと突っ立ってるやつがいるか」


 ビシャスは大剣を肩に背負うとラウダの前に立ち、手を差し出した。

 ラウダは差し出された手を素直に握る。

 その大きくてごつごつした手は力強く、細身のラウダを立ち上がらせるには十分だった。


 そこへ仲間たちが駆け寄ってくる。

 ラウダはそちらを振り返り――


 ドゴッ


 再び地面に横倒しになった。


「バッカじゃないの!? なんで敵の前でぼーっと突っ立ってんの!?」

「……それ、さっき言われた」


 ずきずきと痛む左鎖骨を抑えながら、ラウダは答える。

 予告はされていたが、まさか本気で殴られるとは思わなかった。


「じゃあ尚更! あーでも力いっぱい殴れたからいいや。なんかスッキリしたし」


 ひどい。


「今ので骨折れたんじゃないか?」


 心配そうな台詞の割に、笑いを堪えきれていない。


「それなら回復魔法かけますよ。あ、そっか。これからは殴っても治せばいいんだ」


 ひどい。


 ちらりとセルファの方を見てみる。

 「当然ね」とでも言いたげな冷ややかな視線が降ってくる。


 ひどい。


「がっはっはっは! ローヴには魔法を教えた甲斐があったみたいだな!」

「はい! 師匠!」


 ローヴの顔はキラキラと輝いている。

 どうしてこんなに生き生きしているのだ。


 ひどい。


 1人しょんぼりとしていると、すっと手が差し出された。


「お疲れ様」


 それは穏やかな笑みを浮かべる幼なじみの手。

 ラウダはふっと笑むと、彼女の手を取り、再び立ち上がった。


 そして仲間と師匠と共に村へと歩き出す。


 *     *     *


「すっ…………げえなあっ!! あのおっさんやべーよ!」


 真っ二つになったドラゴンから数十キロメートル離れた崖の上。

 1人の少年が伏せたまま双眼望遠鏡をのぞき込んでいた。


「あれって失敗作なんだろ? それでもあの威力だぜ? それを、こう、ズバーーーンって!」


 興奮した様子で両足をバタバタさせている。


「いやーしかし、逃げ出したって聞いたときはどうなることかと思ったけどさ!」


 カチャカチャカチャ


「なんつーか、こう……燃えてくるものがあるな! いやーいいもん見れたなー!」


 カチャカチャカチャ


「ってかさ、あれだろ? あいつ。あの金髪。あれが標的とか、正直楽勝じゃね?」


 カチャカチャカチャ


「だってあいつ俺とほとんど歳変わんねーってか俺より下じゃねーの? 勇者とかいうからもっとすっげーの期待してたのに」


 カチャカチャカチャ


「あれの前でもビビッてやがったし。大したことねーな」


 カチャカチャカチャ


「この俺がいれば楽勝だなー! 何もあんなのにあれこれ仕掛ける必要ないな!」


 カチャカチャカチャ


「うんうん! そういうわけでお前の出番もねーから! 安心してこの俺にどーんと全部」


 カチャカチャカチャ


「…………」


 カチャカチャカチャ


「…………」


 カチャカチャカチャ


「……なあ、お前、俺の話聞いてる?」


 カチャカチャカチャ


「…………」


 カチャカチャカチャ


 少年はがばっと立ち上がると、後ろを振り返った。


「だあああああっ!!! お前なあ! さっきからカッチャカチャ、カッチャカチャうるせーんだよ!」


 カチャカチャカチャ


「なんだ! お前あれか! この俺の話より武器整備の方がよっぽど大事か! そーなのか!?」


 カチャカチャカチャ


「おいこら! ちっとは人の話聞けいっ!」


 カチャ――ガシャン


「おーおー。そーだ、そーやって大人しく武器をしまってだなあ」


 ザッ――スタスタスタ


「そーそー。そーやって俺に背を向けて立ち去って……立ち去って?」


 少年の視線の先、木々に隠れて、もうその背は見えなくなっていた。


「…………」


 辺り一帯が静まり返っているせいで、少年が黙ると自然と沈黙がやってくる。


「おい! こら! 待て! 待って! 俺を、俺を置いていくなあああああああああ」


 最後までばたばたと慌ただしく、少年もまたその場を立ち去った。

第7話読んでいただきありがとうございます!


「面白かった!」「続きが気になる!」など、少しでも思っていただけましたら、是非ブックマークや評価にて応援よろしくお願いします!


一評価につき作者が一狂喜乱舞します。

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