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ボクたちのてのひら【改稿版】  作者: 雨露りんご
第6話 頑固な男と月夜の彼女
22/44

6‐4

 夜遅いこともあり、村の中はとても静かだった。

 外灯がない暗闇を、月明かりのみを頼りに、ラウダは急ぎ足で高台へと向かう。


 途中で何度かつまずきつつ高台にたどりつくと、セルファの言う通り。

 ローヴが1人で佇んでいた。


「ローヴ。もう夜も遅いし、そろそろ寝ないと明日起きられないよ」


 反応がない。


 集中していて聞こえていないのだろうか。

 もう一度声をかけようとした――その時だった。


「今ある当然が、次の瞬間にもあるとは限らない」


 それは紛れもなくローヴの声。

 しかし意味が分からない。


 様子がおかしい彼女の肩に右手を伸ばし――そこで初めて気がついた。


 手のひらが白く輝いている。

 複雑な紋様が浮かび上がっている。


 驚くラウダをよそに、相手は身動きひとつせぬまま、言葉を紡ぐ。


「それは救い。それは囚われ。それは数多の者が求めたもの。それは数多の者を沈めたもの」


 そこまで言うと、目の前の幼なじみはくるりとこちらを振り返った。

 しかしその目にラウダは映らない。

 明らかにこちらを向いているのだが、焦点が合っていないのだ。


「次は、あなたの番」


 沈黙。


 ラウダはただ見つめることしかできない。

 目の前にいる人物は、確かにいつも一緒にいる幼なじみ。

 その声も姿も間違えようがない。


 しかし、今の彼女はまるで別人だ。


 ただ――何の確証もないはずなのに、()()は全てを知っている気がした。


 ソルとは何だ? 自分は何をすれば良い? いやそれ以前に――何故自分を選んだ?

 問いたいことは山ほどあるはずなのに、うまく言葉が出てこない。


 すると彼女は再び背を向けた。

 そして、無言のまま空を見上げる。


 それに何か意味があるのかと、同じように空を見上げる。

 そこには満天の星空が広がっていた。


「あれっ、ラウダ? いつの間に?」


 先ほどとは異なる口調に、慌てて視線を彼女に戻す。

 そこには驚いた様子で、こちらを見つめるローヴがいた。


 まるで、こちらの存在に全く気づいていなかったかのような顔。


 ラウダはそんな彼女を呆然と見つめる。

 その様子に首を傾げるものの、ローヴはすぐに合点がいったように小さくうなずいた。


「ああ、この村、灯りがないから真っ暗だもんね。でもおかげで見えるものもあるんだね」


 そして再び空を見上げる。


「ウィダンではこんなに綺麗な星空、見えなかったよね」


 ローヴの言葉に、ラウダもまた空を見上げる。


 街灯の多いウィダンでは決して見られなかった景色。

 星の1つ1つがその存在を主張するかのように強く瞬き、それより一際強く静かに世界を照らす月。


 今宵は満月。


「ボクたち、このまま……帰れないのかな」


 不意のつぶやきに、再度ラウダは視線を幼なじみへと移した。


「ラウダは、家に帰れなくて寂しくない?」


 視線を遥か頭上に向けたまま、ローヴは問う。


「ボクはもう、帰りたい……」


 ラウダが何かを言うよりも先に、そっとつぶやかれた言葉。

 暗闇の中で彼女の表情はうかがい知れない。泣いているのかもしれない。


 何か言うべきだったのかもしれない。「大丈夫だよ」「なんとかなるよ」と。

 しかしラウダには何も言えなかった。


 言葉を紡げぬまま黙っていると、ローヴがくるりと振り返る。


「なーんてね!」


 そこには明るい笑顔があった。


「せっかくこんな不思議な所に来られたんだから、もっと色々堪能しなくっちゃ!」


 楽しそうな調子でそう言う彼女。

 相変わらず何を言えばいいものか分からず悩んでいると、彼女は宿屋の方角を指し示した。


「それじゃあそろそろ戻ろっか。迎えに来てくれたんだよね?」

「う、うん」


 やっとのことでそう返事をすると、ローヴは鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で歩き始める。


『幼なじみだから』


 ノーウィンにはそう言った。まるで何でも分かるよと言わんばかりに。

 だが、今のラウダには分からなかった。

 どちらが幼なじみの本音なのか。


 彼女の背を見つめながら、ラウダは自身の右手を見やる。

 輝きは、消えていた。

第6話読んでいただきありがとうございます!


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