6‐4
夜遅いこともあり、村の中はとても静かだった。
外灯がない暗闇を、月明かりのみを頼りに、ラウダは急ぎ足で高台へと向かう。
途中で何度かつまずきつつ高台にたどりつくと、セルファの言う通り。
ローヴが1人で佇んでいた。
「ローヴ。もう夜も遅いし、そろそろ寝ないと明日起きられないよ」
反応がない。
集中していて聞こえていないのだろうか。
もう一度声をかけようとした――その時だった。
「今ある当然が、次の瞬間にもあるとは限らない」
それは紛れもなくローヴの声。
しかし意味が分からない。
様子がおかしい彼女の肩に右手を伸ばし――そこで初めて気がついた。
手のひらが白く輝いている。
複雑な紋様が浮かび上がっている。
驚くラウダをよそに、相手は身動きひとつせぬまま、言葉を紡ぐ。
「それは救い。それは囚われ。それは数多の者が求めたもの。それは数多の者を沈めたもの」
そこまで言うと、目の前の幼なじみはくるりとこちらを振り返った。
しかしその目にラウダは映らない。
明らかにこちらを向いているのだが、焦点が合っていないのだ。
「次は、あなたの番」
沈黙。
ラウダはただ見つめることしかできない。
目の前にいる人物は、確かにいつも一緒にいる幼なじみ。
その声も姿も間違えようがない。
しかし、今の彼女はまるで別人だ。
ただ――何の確証もないはずなのに、彼女は全てを知っている気がした。
ソルとは何だ? 自分は何をすれば良い? いやそれ以前に――何故自分を選んだ?
問いたいことは山ほどあるはずなのに、うまく言葉が出てこない。
すると彼女は再び背を向けた。
そして、無言のまま空を見上げる。
それに何か意味があるのかと、同じように空を見上げる。
そこには満天の星空が広がっていた。
「あれっ、ラウダ? いつの間に?」
先ほどとは異なる口調に、慌てて視線を彼女に戻す。
そこには驚いた様子で、こちらを見つめるローヴがいた。
まるで、こちらの存在に全く気づいていなかったかのような顔。
ラウダはそんな彼女を呆然と見つめる。
その様子に首を傾げるものの、ローヴはすぐに合点がいったように小さくうなずいた。
「ああ、この村、灯りがないから真っ暗だもんね。でもおかげで見えるものもあるんだね」
そして再び空を見上げる。
「ウィダンではこんなに綺麗な星空、見えなかったよね」
ローヴの言葉に、ラウダもまた空を見上げる。
街灯の多いウィダンでは決して見られなかった景色。
星の1つ1つがその存在を主張するかのように強く瞬き、それより一際強く静かに世界を照らす月。
今宵は満月。
「ボクたち、このまま……帰れないのかな」
不意のつぶやきに、再度ラウダは視線を幼なじみへと移した。
「ラウダは、家に帰れなくて寂しくない?」
視線を遥か頭上に向けたまま、ローヴは問う。
「ボクはもう、帰りたい……」
ラウダが何かを言うよりも先に、そっとつぶやかれた言葉。
暗闇の中で彼女の表情はうかがい知れない。泣いているのかもしれない。
何か言うべきだったのかもしれない。「大丈夫だよ」「なんとかなるよ」と。
しかしラウダには何も言えなかった。
言葉を紡げぬまま黙っていると、ローヴがくるりと振り返る。
「なーんてね!」
そこには明るい笑顔があった。
「せっかくこんな不思議な所に来られたんだから、もっと色々堪能しなくっちゃ!」
楽しそうな調子でそう言う彼女。
相変わらず何を言えばいいものか分からず悩んでいると、彼女は宿屋の方角を指し示した。
「それじゃあそろそろ戻ろっか。迎えに来てくれたんだよね?」
「う、うん」
やっとのことでそう返事をすると、ローヴは鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で歩き始める。
『幼なじみだから』
ノーウィンにはそう言った。まるで何でも分かるよと言わんばかりに。
だが、今のラウダには分からなかった。
どちらが幼なじみの本音なのか。
彼女の背を見つめながら、ラウダは自身の右手を見やる。
輝きは、消えていた。
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